【社会保障の主な制度変更】 第1回「出産育児一時金」、「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ(中小企業)」を解説
配信日: 2023.06.07
第1回目は「出産育児一時金の支給額の引上げ」と、「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ(中小企業)」を取り上げます。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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出産育児一時金の支給額の引き上げ
出産はケガや病気ではないので、健康保険などの公的医療保険は使えません。つまり、全額自己負担です。そのため、出産費用の補助として「出産一時金」が給付されます。
令和5年4月より出産育児一時金の支給額が現行の42万円から50万円に引き上げられました。なお、産科医療補償制度(*)の対象外の場合は40.8万円から48.8万円に引き上げられました。
*産科医療補償制度とは、分娩に関連して発症した、子どもの重度脳性麻痺に対する経済的負担を軽減する仕組みです。この仕組みに加入していない病院もあります。請求は、満5歳の誕生日までです。
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ(中小企業)
労働基準法では、原則、1日8時間、1週40時間を法定労働時間と定めています。使用者は、過半数組合(過半数組合がない場合は過半数代表者)と労使委協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出た場合は、法定労働時間を超えて労働させることができます。
時間外労働には限度が定められており、原則として1ヶ月45時間、1年360時間を超えないものとしなければなりません。また、時間外労働をさせる場合、割増賃金の支払が必要になります。
なお、割増賃金の算定基礎になる賃金として、(1)家族手当、(2)通勤手当、(3)別居手当、(4)子女教育手当、(5)住宅手当、(6)臨時に支払われた賃金、(7)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金は除外できます。
時間外労働に対する割増賃金は、通常の賃金の25%以上です。割増賃金には時間外労働に対するもの以外に、休日労働に対するものと深夜業に対するものがあります。
休日労働とは、労働基準法で定められた法定休日(週1日または4週を通じて4日)に労働させることをいいます。休日労働に対する割増賃金は、通常の賃金の35%以上です。
深夜業とは、午後10時から翌日午前5時までの間に労働させることをいいます。深夜業に対する割増賃金は25%以上です。割増賃金は重複して発生することがあります。
しかし、法定休日には時間外労働という概念がありませんので、法定休日に8時間を超えて働いても割増率は35%のままです。
なお、法定休日労働が深夜(22時~5時)に及んだ場合には、法定休日労働の割増率35%に深夜労働の割増率25%が加算されます。令和5年4月から、中小企業の月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が大企業同様50%となりました。
これにより、月60時間を超える時間外労働を深夜(22時~5時)の時間帯に行わせる場合、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%となります。
なお、月60時間の時間外労働時間の算定には、法定休日に行った労働時間(法定休日労働の割増賃金率は、35%)は含まれませんが、それ以外の休日に行った労働時間は含まれます。
企業は、月60時間を超える法定時間外労働を行った労働者の健康を確保するため、引き上げ分の割増賃金の支払の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与できます。また、割増賃金率の引き上げに合わせて、就業規則の変更が必要となる場合があります。
以上、「出産育児一時金の支給額の引上げ」「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引上げ(中小企業)」について見てきました。該当する方はよく確認しておきましょう。
出典
厚生労働省 厚生労働省関係の主な制度変更(令和5年4月)について
公益財団法人 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度
厚生労働省 2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
厚生労働省 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について
東京労働局 しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。