更新日: 2023.07.10 その他暮らし
離婚をする? しない? と悩んだ時に知っておいたらよいこと
今回は、年金分割以外の離婚する前に知っておきたい知識をお話しします。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
離婚へのロードマップとして知っておきたい家庭裁判所への申し立て
子どもを育てるためには、多くのお金が必要です。子どもは生まれた瞬間から、おむつ、ミルク代から始まって、成長とともに、学費、習い事代、塾代に衣服代、通信費に交通費と行動範囲が広くなり、金額は積み上がります。
子どもの成長途上で、夫婦が離婚してシングルになったとしても子どもの費用は継続してかかり続けます。ですから離婚した場合に養育費は受け取るべき当然の権利ですが、受け取るためには事前準備は必須です。
ここで1つ知っていただきたいのは、いきなり離婚するのではなく、少し冷静になる時間のために、「離婚前でも婚姻費用は請求できる」ということ。家庭裁判所には、婚姻中であれば離婚を求めるとともに養育費を取り決めるための「夫婦関係調整の調停」と、別居中の養育費等を取り決めるための婚姻費用分担の調停」を申し立てという方法があります。
離婚のために、弁護士などの専門家に最初からすべてを任せるということも1つの方法ですが、費用をあまりかけたくないということであれば、本当に離婚したいのかどうかを熟考するためのクールダウンする期間を設けるために、別居から始めるという選択肢もあります。
その後、まずは当事者同士の話し合いである「調停」から始まりますが、調停で解決できない場合には、裁判官が判断する審判の手続きへと進めることができます。
離婚をするための自活は必須
婚姻費用の分担なんて難しい、別居なんて難しい、そんな状態の時に一歩を踏み出すのには勇気がいるでしょう。ただ、新型コロナの類型が変わったことで、休業していた企業が多かったことがうそのように、今は人材不足の職場がたくさんあります。
離婚後、働いて自分で生活をするために、いったん別居して、配偶者から婚姻費用を受け取りながら、将来正社員を目指すための生活基盤を作る期間をおくという道筋を考えてみるのもよいでしょう。
子どもがいて働くことに不安がある方なら、子育て中の女性の支援を行う「マザーズハローワーク」や「仕事と育児カムバック支援サイト」なども参考にしてみましょう(※2)。
仕事を辞めた後のブランクが長く、復職してもちゃんと働けるのか不安を感じている方への情報提供などもされています。求職者支援制度では、訓練プログラムを受けながら生活費も少額ながら支援されます。
配偶者からDVを受けており、これまでの仕事を辞めて急きょ住居を変更した時などには、「雇用保険上、特定理由離職者として扱う」という取り扱いが令和5年4月からされました(※3)。
養育費が減らされた? 支払われない? そんなときに
離婚の際、子どもがいれば必ず取り決めをしておきたいのは、「養育費」ですが、口約束で「必ず払う」「約束する」などと言われ、公的な文書である公正証書で金額をしっかりと決めていないケースもあるでしょう。
養育費には、算定表があります。夫婦双方の収入と子どもの年齢と数によって定まっていますので、面倒でもしっかりと金額を決め、将来的に受験費用など、費用がかさんだ時などには、増額にも応じることができる旨まで記載することを覚えておきましょう(※4)。
公正証書などに「強制執行できる」という文言があれば、養育費が支払われなくなった時には、財産差し押さえができます。ただ、差し押さえできるといってもこれですべての問題が解決されるわけではありません。養育費は、権利者(養育費を受け取る方)が、相手方の財産を調べて、どの財産を差し押さえするのか決めないといけません。
また、将来分の差し押さえができる財産については、給料や家賃収入など、継続的に支払われる金銭です。そして差し押さえられる給料はすべてではなく、給料の2分の1までです。もし、転職してその口座を使わなくなったり、住所がわからなくなったりしても、強制執行にしていても、支払われないというリスクは残るのです。
ただ、「リスクがあるからやめよう」ではなく、自治体によっては、公正証書の作成支援や費用の支援、裁判所の申立手続きの支援や費用支援、付き添い支援などもしてくれます。民間の家事事件を取り扱う機関もあります(※5)。
また、15歳未満の子どもを扶養しているときに支給される児童手当(注)についても確保できるようにしたいものです。児童手当は、原則として父母の所得の高い方を受給者とするために、夫の口座に入金されるケースが多いですが、離婚調停中などの場合、受給者の変更ができるケースもあります。
離婚協議中で配偶者と別居している場合は、その事実を確認できる書類(離婚協議申し入れにかかる内容証明郵便の謄本、調停期日呼出状の写し、家庭裁判所における事件係属証明書、調定不成立証明書など)を市区町村へ提出し、児童手当の認定請求を行うことで、児童と住所が同じ方が児童手当を受給できます。
(注)児童手当については、18歳未満の場合1万円、第3子以降は3万円という、2024年度から3年間かけ「こども・子育て支援加速化プラン」を集中的に取り組むと発表されているが、執筆時点(2023年7月6日現在)では未施行。
全2回で離婚を考えた場合に知っておきたい知識をいくつかご紹介しましたが、離婚を実行に移すには勇気が必要でしょう。ただ、生活するためのお金を確保するために、「どうせできない」でなく「どうやったらできるのか」のために事前の知識と準備はとても大切なのです。
(※1)ファイナンシャルフィールド 共働きと専業主婦(夫)、離婚時の年金分割に違いはある?
(※2)内閣府 男女共同参画局時 女性応援ポータルサイト
(※3)厚生労働省 東京労働局 配偶者から暴力を受け、加害配偶者との同居を避けるため転居したことにより離職された方の取扱いについてお知らせします。
(※4)裁判所 平成30年度司法研究(教育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について
(※5)法務省 家事事件を取り扱う認証紛争解決事業者一覧
出典
法務省 教育費の不払い解消に向けた自治体における法定支援及び紛争解決支援の在り方に関する調査
厚生労働省 「こども未来戦略方針」 〜次元の異なる少子化対策の実現のための「こども未来戦略」の策定に向けて〜
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。