「養育特例制度」で、育児の時短勤務でも将来の年金額は安心? 制度について解説
配信日: 2023.07.22 更新日: 2023.07.24
今回は、時短勤務でも安心な「養育特例制度」について解説します。
執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている
育児休業期間終了後は時短勤務が可能
育児休業は、1歳未満の子どもを養育するための休業です。基本的には、子どもが1歳になれば育児休業は終了します。子どもの預け先が見つからないときには、最長で2歳になるまでの延長が認められています。
ただ、保育園に預けられたとしても、これまでどおりの働き方をすることは難しいと考えられます。自分の身支度や子どもの世話などで、朝は時間に追われてしまいますし、保育園への迎えもあり、これまでの帰宅時間よりも早く帰らざるを得なくなることも考えられます。
2009年から短時間勤務制度(以下時短勤務)が企業に義務付けられ、3歳未満の子どもを持つ従業員から請求があった場合に、時短勤務が認められるようになりました。時短勤務は、1日の所定労働時間を、原則で6時間に短縮することができます。
時短勤務で給与が減少
時短勤務でも給与の額が変わらなければよいのですが、労働時間が短くなることで、給与の額も少なくなることは当然のことです。社会保険料は4月~6月までの3ヶ月の平均の額を基に計算されます。時短勤務で給与が少なくなっても、社会保険料が高いままでは、家計の負担も大きくなります。
時短勤務になったときの給与に見合うように、社会保険料の減額をするためには「育児休業等終了時報酬月額変更届」を日本年金機構へ提出することになります。手続きを行うと、職場復帰した月から3ヶ月間の給与の平均で標準報酬月額が改定され、4ヶ月目から社会保険料が減額されることになります。
将来の年金の減少の不安をなくす養育特例制度
時短勤務で給与が少なくなっても、書類を提出し社会保険料を減額してもらえば、家計への負担も気にしなくてもよいと考えられますが、支払っている社会保険料に最も影響されるのは、将来受け取る年金額になります。
将来受け取る年金額は、前述の標準報酬月額によって計算されるので、時短勤務に伴って社会保険料を減額されると、将来の年金額も少なくなります。
「育児による時短勤務で将来の年金が減る」ということを防ぐために、「養育特例制度(正式名称:養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置)」があります。この制度は、時短勤務によって社会保険料が減額されても、育児休業期間前の標準報酬月額を支払っているものとして、将来の年金の額が減少しないようにするものです。
利用するためには、被保険者が事業主に依頼し「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」を受け取って指定箇所を記入し、「戸籍謄(抄)本(もしくは戸籍記載事項証明書)」と「住民票の写し」を添付して、事業主経由で日本年金機構に提出します。
この制度が適用されるのは、3歳未満の子どもを養育しているときに限りますので、子どもが3歳を迎えたときには再び事業主を経由して「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書・終了届」を提出することになります。
前述の時短勤務は、3歳までは義務付けられていますが、子どもが3歳を迎えた後も努力義務として、企業が制度を継続することもあります。しかし、養育特例制度は延長がありません。3歳以降も時短勤務ができたとしても、養育特例制度は利用できなくなりますので、将来の年金額が少なくなる可能性があることを理解しておきましょう。
まとめ
養育特例制度(正式名称で、「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」という)は、時短勤務による社会保険料の減額に伴う、将来受け取る年金の減少を回避する制度となります。
社会保険料は標準報酬月額により決定されるので、減額されない可能性もありますが、念のため申請を行っておくことをお勧めします。
出典
日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー