更新日: 2023.08.28 その他暮らし
知っておいてソンはない (2) 【消費者契約法】
しかし、消費者と事業者の契約では、知識の質量、交渉力に格差があります。間違って契約してしまった場合、不利な契約に気づいて解約しようにも、割に合わない違約金を支払う羽目になる場合等、対等な立場での契約とはなりにくいものです。
口八丁手八丁の事業者に言いくるめられて、促されるままに契約してしまった。解約するにも多額の解約金が必要だと契約書にあるので、泣き寝入り。契約するつもりがないのに、囲まれて帰れない状態にされ、渋々契約。
消費者契約法には、誤認や困惑させられての契約の取り消しや、契約者に不利な条項が無効にできることが定められています。今回の改正では、さらに取消権の項目が追加されました。
もしもの時に備え、知っておいて損はありませんよ。
執筆者:林智慮(はやし ちりよ)
CFP(R)認定者
確定拠出年金相談ねっと認定FP
大学(工学部)卒業後、橋梁設計の会社で設計業務に携わる。結婚で専業主婦となるが夫の独立を機に経理・総務に転身。事業と家庭のファイナンシャル・プランナーとなる。コーチング資格も習得し、金銭面だけでなく心の面からも「幸せに生きる」サポートをしている。4人の子の母。保険や金融商品を売らない独立系ファイナンシャル・プランナー。
消費者契約法による取り消し
消費者契約法は、消費者が事業者に有利なように契約をされてしまった場合に、消費者契約の申し込みまたはその承諾の取り消し(消費者契約法 第4条)や、消費者契約の条項の無効(同法第8条~10条)等が定められています。
事業者から事実と異なることを告げられる、不確実であるのに確実だと告げられる、業者に都合の悪いことは教えてくれないことで、消費者が誤認して契約した場合は、取り消せます。
また、どれだけ断っても契約するまで帰ってくれない、契約するつもりがないので帰りたいのに帰してくれない、業者も過量と分かっているのに多量の契約をさせられた、社会経験が少ない者の不安をあおる(契約しないと就職ができないなど)、好意を持っていることを知っていて利用する(デート商法)、判断能力の低下を利用する(認知症と知りながら買わせる)、霊感商法、契約前に事業者が契約内容を実行してしまうような、困って契約、弱みにつけ込まれてしかたがなく契約した場合も、取り消しができます。
ただし、取消期間は、取り消せることを知ったときから1年、契約をしたときから5年です。霊感商法については3年、契約から10年です。
契約条項について、事業者の故意・重過失の賠償責任の全部または一部免責等、軽過失の賠償責任の全部免責、平均的な損害の額を超える解約料、合理的に判断できないことを理由に契約を解除するなどの、消費者の不利になるものは無効となることも定められています。
令和3年度改正 何が変わった?
令和5年6月1日、消費者契約法および消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続きの特例に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第59号)が施行されました。
消費者契約法の改正では、さらに取り消しができる場合が追加されました。
●勧誘であることを告げずに、自力では帰れない場所へ連れ出してして勧誘
●威迫する言動を交え、相談の連絡を妨害
●契約前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難に
(引用:消費者庁「消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正(概要)」)
以上の場合、契約を取り消すことができます。「もう、契約するしかない」と絶望して契約してしまったその契約、取り消せるのです。
無効な契約条項についても、今回の改正により、事業者の免責の範囲が不明確な条項の無効(賠償請求を困難にする不明確な一部免責条項(軽過失による行為にのみ提供されることを明らかにしていないもの)は無効であること)が追加されました。
事業者の努力義務により、被害者の救済をしやすく
ところで、特定商取引法とは異なり、消費者契約法に事業者の行政規制はありません。
しかし、今回、解約の際の解約料について、消費者に算定根拠の概要を消費者に説明する、また適格消費者団体に対し算定根拠を説明するよう、事業者に努力義務が課せられました。
他に、契約の解除時に必要な情報の提供、消費者の知識・経験に加え、年齢や心身の状態も考慮した情報提供を行うこと、適格消費者団体契約条項・差し止め請求を受けて措置の開示をするよう等の、事業者の努力義務が拡充されました。
また、適格消費者団体の事務に関する改正規定および消費者裁判手続き特例法に関する改正規定については、令和5年10月1日に施行されます。消費者の被害を救済しやすい、消費者が利用しやすい制度となり、制度を担う団体が活動しやすい環境へと整備が行われます。もしもの時に備えて、ぜひ確認しましょう。
出典
消費者庁 消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律(令和4年法律第59号)(消費者契約法関係)等について
消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正(概要)
e-GOV法令検索 平成十二年法律第六十一号 消費者契約法
執筆者:林智慮
CFP(R)認定者