更新日: 2023.08.30 子育て
「こども未来戦略方針」3つの基本理念(2)“社会全体の構造・意識を変える” 私たちが考えるべきポイントとは?
前回に続き、今回は「こども未来戦略方針」で記されている基本理念のうち、2つ目の「社会全体の構造・意識を変える」について、具体的に確認していきたいと思います。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
社会全体の構造・意識を変える
社会全体の構造や意識を変える目的について、「こども未来戦略方針」では、「我々が目指すべき社会の姿は、若い世代が希望どおり結婚し、希望する誰もがこどもを持ち、安心して子育てができる社会、そして、こどもたちが、いかなる環境、家庭状況にあっても分け隔てなく大切にされ、育まれ、笑顔で暮らせる社会」と述べ、「こうした社会の実現を目指す観点から、こども・子育て政策の抜本的な強化に取り組むため」としています。
前回確認した「若い世代の所得を増やす」という第一の基本理念も、これが目的になっていますが、今回取り上げる「社会全体の構造・意識を変える」は、私たちに社会の在り方としての価値観や考え方そのものの変化を促そうとすることが根底にあります。2つ目の基本理念の前文には、以下のことが記されています。
少子化には我が国のこれまでの社会構造や人々の意識に根差した要因が関わっているため、家庭内において育児負担が女性に集中している「ワンオペ」の実態を変え、夫婦が相互に協力しながら子育てし、それを職場が応援し、地域社会全体で支援する社会を作らなければならない。
※こども未来戦略会議「こども未来戦略方針」より
続いて「このため、これまで関与が薄いとされてきた企業や男性、さらには地域社会、高齢者や独身者を含めて、皆が参加して、社会全体の構造や意識を変えていく必要がある」としています。
それでは、社会全体の構造変革・意識改革というものを国がどのように考えているか、もう少し具体的に読み込んでいきましょう。
育児休業制度の強化、働き方改革、女性の活躍促進
まず、「企業においても、出産・育児の支援を投資と捉え、職場の文化・雰囲気を抜本的に変え、男性、女性ともに、希望どおり、気兼ねなく育児休業制度を使えるようにしていく必要がある」としています。そして、この点については、特に、企業のトップや管理職の意識を変えることが重要であると述べています。
同時に、多様な働き方に対応した自由度の高い制度へと育児休業制度を強化するとともに、職場復帰後の子育て期間における働き方も変えていく必要があるとしています。特に、出生率の比較的高い地方から東京圏への女性の流出を抑制するため、全国の中小企業を含めて、女性が活躍できる環境整備を進めることを重視しているようです。
基本理念の2番目は「意識改革」です。企業に育休取得への意識改革を促し、女性の働き方に対する意識改革を促し、また、特に地方の中小企業に対し、女性の活用に向け意識改革を促そうとしています。
私たちが考えるべきポイントは、企業が育休取得について理解があるかどうか、女性の働き方に対して十分配慮しているかどうか、さらに、地方経済を維持するために、地方の中小企業経営者は女性の活用や登用について具体的に考えているかどうか、という点でしょう。
このような意識改革の流れに企業が応じれば、社員・従業員にとっては労働環境や雇用環境の改善につながり、満足度が向上するでしょう。逆に、企業が後ろ向きになれば、社員・従業員は集まりにくくなり、企業の持続性に大きく関わってくるという問題が生じます。
働き方改革の実現に向けた中小企業の体制整備
働き方改革の利点として、国は、「長時間労働の是正により夫婦双方の帰宅時間を早め、育児・家事に充てる時間を十分に確保することや、各家庭の事情に合わせた柔軟な働き方を実現することなどにつながる」としています。
また、「子育て家庭にとってのみならず、事業主にとっても、企業の生産性向上や労働環境の改善を通じた優秀な人材の確保といった効果があることに加えて、延長保育等の保育ニーズの減少を通じて社会的コストの抑制効果が期待できる」とも述べています。
さらに、「価値観やライフスタイルが多様となる中で、子育てに限らない家庭生活における様々なニーズや、地域社会での活動等との両立が可能となるような柔軟で多様な働き方が普及することは、全ての働く人にとってメリットが大きい」とし、特に、働き方改革の実施に課題のある中小企業の体制整備に向けた取り組みを強力に後押ししていく必要があると考えているようです。
働き方改革について、国は、どちらかというと大企業よりも中小企業のほうの推進が遅れている、と考えているのでしょう。中小企業に対し、積極的に働き方改革を進めていってほしいという思いがここからうかがえます。しかし現実問題として、中小企業には大企業と比べ人手不足の傾向があり、分かっていても難しいというのが本音であるように思います。
しかしながら、働き方改革と同時に進められる労働市場改革の流れは、成長分野のみならず、いずれ他の労働市場へも広がっていくことが考えられます。このため、中小企業は、生産性の向上や労働環境の改善が実現できなければ、将来的に自然淘汰されていく可能性もあるでしょう。
昨今では、多過ぎる中小企業という問題がクローズアップされています。この問題を解決するための方策のひとつが働き方改革や労働市場の流動化ならば、私たち生活者も、どの企業で働くかを十分に考える必要が出てくるでしょう。
育児休業を取りやすい職場づくりと育児休業制度の強化
2つ目の基本理念では、意識改革の利点を次のように締めくくっています。
「育児休業を取りやすい職場づくりと、育児休業制度の強化、この両方があって、子育て世帯に『こどもと過ごせる時間』を作ることができ、夫婦どちらかがキャリアを犠牲にすることなく、協力して育児をすることができる」
そのために、働き方改革の推進とそれを支える育児休業制度などの強化を具体的な政策として取り組んでいくとしています。
まとめ
繰り返しになりますが、「こども未来戦略方針」における基本理念の2つ目は、社会全体の「構造変化」と「意識改革」です。大げさにいうならば、子育てを巡る環境や働き方などについて、日本人全体の価値観や考え方を改めていくということです。
人それぞれ、価値観や考え方は異なります。そして、人生における目的も異なります(そもそも、生きるうえで目的が必要かどうかという議論もあります)。
それでも国は、社会全体として結婚、出産、育児、子育てを支えていくために考え方を変えなければならない、という強いメッセージを「こども未来戦略方針」で私たちに伝えようとしています。
「こども未来戦略方針」では、大人の目線だけでなく、子どもの目線からの政策内容も盛り込まれています。子ども目線で捉えるならば、「子どもが保護者と過ごせる時間を確保できることが当たり前になる社会を実現してほしい」という願いを、かなえようとしているのかもしれません。
出典
内閣官房 こども未来戦略会議 こども未来戦略方針
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)