仕事中にうっかりお皿を落としたら「お皿代」を給料から引かれました。これって仕方ないですか?
配信日: 2023.09.01
労働者は会社の指揮命令のもとで働いており、会社にも危険発生の責任がある(危険責任の法理)。
業務遂行で生ずるリスクは、事業活動から利益を得ている会社が負うべきである(報償責任の法理)。
なお、働く人に故意や重過失がある場合なら損害賠償責任を負うことがあります。それでも、損害賠償額については、具体的な諸事情が考慮されます。必ずしも全額の賠償を求められるわけではありません。
また、損害賠償責任を負う場合でも、給与から天引きすることは禁止されています。労働契約や就業規則等であらかじめ賠償額を決めるといったことも禁止されています。
執筆者:玉上信明(たまがみ のぶあき)
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー
目次
うっかりミス程度で損害賠償責任を負うことは通常はない
仕事をしているときに、うっかりミスで会社に損害を与えても、通常は会社に損害賠償する必要はないと考えられています。会社は、従業員を指揮命令する立場にあり、会社も業務上のリスク(危険)を負担すべきです(危険責任の法理)。
しかも、会社は従業員に働いてもらって利益を得ているのですから、業務上のリスクもそれなりに負担すべきです(報償責任の法理)。日本の判例では、これらの原則に基づき、従業員のうっかりミス程度ならば、従業員が損害賠償責任を負うことはない、としています。
従業員が、わざとお皿を割った(故意)とか、とんでもない不注意で割った(重過失)といったことで会社に損害を与えたなら、従業員の損害賠償責任が認められることはあります。
その場合も、さまざまな事情を考慮して賠償額が制限されることがあります。例えば、労働者の過失がどの程度だったか、会社が教育訓練や保険加入等の損害防止措置を取っていたか、などの事情が考慮されます。
損害賠償をするべき場合でも給料からの天引きは許されない
従業員が損害賠償責任を負う場合でも、給料からの天引きは許されません。給料等の賃金は、「直接労働者に、その全額を支払わなければならない」(全額払いの原則 労働基準法第24条第1項)とされているからです。
また、例えば、「食器を割ったら、1枚当たり500円を払わなければいけない」等といった、違約金の定めとか、損害賠償額を予定する契約も禁止されています。このような内容が就業規則に書かれていても、そのような就業規則の定めは無効です(賠償予定の禁止 労働基準法第16条)。
仮に従業員の故意、重過失等で損害賠償責任を負う場合でも、従業員は給料全額を受け取ったうえで、会社に対して損害賠償をする、ということになります。このような場合でも、損害賠償額は諸般の事情を考慮して決められます。会社の言いなりに損害賠償額を払う必要はありません。
就業規則等による懲戒処分にも制限がある
会社は従業員がこのようなミスを犯して会社に損害を与えた場合に、就業規則等の定めに従ってけん責、戒告、減給、出勤停止等の懲戒処分をしたり、ボーナス等の査定でマイナス評価をしたりする、といったことも考えられます。
しかし、これらの措置も、労働者の犯したミスの程度と会社の処分とがアンバランスであってはなりません。軽微な過失で会社に損害を与えたとしても、不相当に重い処分をすることは許されません。
うっかりミス程度のことで大きな責任を問われることはない
以上の通り、仕事上のミスで会社に損害を与えたとしても、損害賠償を求められる場合は、限定されています。いわんや給料からの天引きなどは絶対に許されません。
会社から損害賠償を求められたり、「給料から差し引く」などと言われたりしたら、泣き寝入りせず、都道府県労働局の労働相談情報センター等の公的な機関に相談しましょう。
出典
厚生労働省 確かめよう労働条件Q&A 機械の不調もあって不良品を出したところ、社長から「労働契約にあるとおり、不良品1個につき100円を給料から天引きする」と言われて驚いています。こんなことが労基法上許されるのですか?
独立行政法人労働政策研究研修機構 (65)労働者の損害賠償責任とその制限
日本労働組合総連合会 労働相談Q&A 9.業務上のミスに対する損害賠償責任 Q 仕事中に皿を割ったら弁償代を請求された。
執筆者:玉上信明
社会保険労務士、健康経営エキスパートアドバイザー