更新日: 2023.09.28 その他暮らし

これからの時代はリスク社会を前提に人生の組み立てが必要!? リスク社会の典型例とは?

これからの時代はリスク社会を前提に人生の組み立てが必要!? リスク社会の典型例とは?
私たちの人生を取り巻く社会経済的な環境は、今後どのように変化していくのか、ファイナンシャル・プランナー(FP)として社会情勢の動向などに目配りしながら、日々の相談業務の参考にしています。
 
2024年は、少なくとも5年に一度、公的年金について財政の検証が実施される年に当たります。年金の財政検証は社会保障審議会の年金部会で行われますが、2022年10月から議論が始まっています。
 
国は社会保険や福祉といった社会保障制度の改革において、どのような社会変動を前提に議論を組み立てているのでしょうか。本記事では、私たちが知っておく必要がある、大きな社会の変化について考えていきます。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

豊かさを求め過ぎた結果、社会的・経済的な問題が起きることもある

社会情勢は時代によって変化していきます。私たちが前提としてまず押さえておく必要のある大局的な変化は、「脱工業化」による「リスク社会」の到来です。リスク社会とは、ドイツ人社会学者のウルリヒ・ベックが提唱した概念ですが、グローバル経済の進展によって多様化、複雑化したリスクが生み出される社会のことをいいます。
 
例えば、人々が豊かな暮らしを求めて効率的な経済活動を行った結果、経済格差が顕著に表れるようになったことはリスク社会の特徴といえます。2008年に起こったリーマンショックで世界的な問題となった、「行き過ぎた資本主義」は典型的な例でしょう。
 
合理的な経済活動を行うのは、必ずしも悪いことではありません。むしろ経済発展には必要といえますが、個々人がより豊かさを求め、経済合理性や効率を重視し過ぎた結果、コントロールできないような大きな経済的、社会的な問題が発生することがあります。
 
個人としては正しいと思う行動でも、経済全体で見た場合は悪い結果をもたらしてしまうことを経済用語で「合成の誤謬(ごびゅう)」といいますが、前述の例はまさにそれを示しており、リスク社会の好事例といえるでしょう。
 

少子高齢化はリスク社会の典型例

日本でもリスク社会は広がりを見せています。「少子高齢化」もリスク社会の現れといえますが、ベックのいうリスク社会が生み出す問題に「個人化」があります。
 
個人化とは、家族や企業、地域といった社会と個人の間にある中間集団の持つ力(連帯性)が弱まり、人々が孤立していくという現象です。個人化を経済情勢の変化で捉えると、その原因の一つには人々の移動が挙げられるでしょう。
 
1960年代、日本では高度経済成長が起こり、その後、1980年代後半から1990年代初頭にかけてバブル経済が発生しました。このように経済情勢が変化するなかで、豊かさを求めて地方から都市部へと移動する人が増加した結果、地方経済は衰退し、地方における人口減少も顕著になりました。
 
個人化の例としては、企業という中間集団における個人同士の連帯力の弱体化も挙げられます。終身雇用制度は高度経済成長を支えた一つの要因と考えられていますが、社員・従業員を家族のように捉え、定年まで雇用を保障する一方で、企業には雇用コストの維持が求められます。
 
バブル崩壊後、「失われた30年」といわれる現在までの過程で、日本の経済成長率は低迷し、終身雇用制度を基盤にした企業と個人の連帯力は徐々に失われていきました。
 
個人化は端的にいえば、人々がバラバラになるという社会現象です。自由でありたい、豊かでありたいという思いが結果的に個人化という新たな問題の発生につながっていますが、ここでも前述した「合成の誤謬」が現れています。また、個人化は少子高齢化社会を生み出したとも考えられます。
 
少子化は働き方や結婚観、家族観が多様化したことにより出生率が低下し、子どもの数が減少する社会変動です。一方、高齢化は医療技術の進歩などによって平均寿命が延び、出生率の低下と合わせて平均年齢が上昇するという社会変動で、いずれも根底には自由に生きたい、豊かに生きたいといったライフコースに対する価値観の変化があります。
 
個人化は、社会保障制度に対するニーズを強めます。経済格差や所得格差が個人化を推し進めますが、その結果、社会全体でこのような問題を解決する必要があるからです。
 
社会保障制度の改革については、社会が個人化していく一連の流れのなかで議論が行われています。個人化によって少子高齢化がさらに進むことで、私たちが生きるのに必要な社会的な基盤(社会的インフラ)が崩れる可能性が高まるため、これらはリスク社会の大きな問題といえるでしょう。
 

まとめ

年金の財政検証に向けた議論は、本記事で説明したような社会的変動を前提に行われています。そのため、私たちは社会情勢の変化を前提にライフプランを立てる必要があります。言い換えれば、社会情勢の変化が人生に及ぼす影響について、考える視点を持つということです。
 
社会保障制度をはじめ、経済政策や働き方改革、少子化対策、税制改正などの是非については、それぞれの政策を基に共通点から結論を見出そうと帰納法的に考える傾向がありますが、社会情勢や経済状況といった社会全体を前提にして、個々の政策を眺める演繹(えんえき)法的な思考も必要ではないでしょうか。
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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