更新日: 2023.10.19 その他暮らし
インフレーションとデフレーション その3 ハイパーインフレの実例
この記事では、極端なインフレである「ハイパーインフレーション」(以下、ハイパーインフレ)に関して、実際に起こった実例に基づき説明します。
執筆者:浦上登(うらかみ のぼる)
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー
東京の築地生まれ。魚市場や築地本願寺のある下町で育つ。
現在、サマーアロー・コンサルティングの代表。
ファイナンシャル・プランナーの上位資格であるCFP(日本FP協会認定)を最速で取得。証券外務員第一種(日本証券業協会認定)。
FPとしてのアドバイスの範囲は、住宅購入、子供の教育費などのライフプラン全般、定年後の働き方や年金・資産運用・相続などの老後対策等、幅広い分野をカバーし、これから人生の礎を築いていく若い人とともに、同年代の高齢者層から絶大な信頼を集めている。
2023年7月PHP研究所より「70歳の現役FPが教える60歳からの「働き方」と「お金」の正解」を出版し、好評販売中。
現在、出版を記念して、サマーアロー・コンサルティングHPで無料FP相談を受け付け中。
早稲田大学卒業後、大手重工業メーカーに勤務、海外向けプラント輸出ビジネスに携わる。今までに訪れた国は35か国を超え、海外の話題にも明るい。
サマーアロー・コンサルティングHPアドレス:https://briansummer.wixsite.com/summerarrow
ドイツのハイパーインフレ
まずは1920年代、第一次世界大戦の敗戦国であるワイマール共和政下のドイツで起こったハイパーインフレについて説明したいと思います。
●原因
第一次世界大戦後、ドイツ政府は賠償金の支払いなどでの財政赤字を埋めるために大量の紙幣を増刷しました。これにより通貨の供給量が増加し、物価が急騰しました。
●結果
ドイツマルクの価値は急落して、市民は日常の買い物や生活費の支払いに困窮しました。当時、卵の価格が1兆倍となり、子どもが札束を積み木のようにして遊び、ストーブで燃やすために積み上げられていたそうです。
ジンバブエのハイパーインフレ
2000年代にアフリカのジンバブエで起きたハイパーインフレの概要は次のとおりです。
●流れ
ジンバブエ政府が農地改革などの政策に失敗し、生産性の低下や外貨獲得の困難さが生じました。政府は物価上昇を抑制するために通貨の供給量を増やし、結果として通貨(旧ジンバブエドル)の価値が急速に低下しました。
●結果
物価の急騰により、市民は生活の維持や必需品の入手に苦しむようになりました。2008年には、年率220万%もの物価上昇が起こったといわれています。
ベネズエラのハイパーインフレ
2018年に南米のベネズエラで起こったハイパーインフレは、複合的な要因によるものです。以下で主な原因、対応策、および結果を説明します。
●原因
通貨供給量の急増
ベネズエラ政府は国内の財政赤字を賄うために、通貨の供給量を急激に増やしました。大量の新しいボリバル通貨が市場に流入し、その結果、通貨の価値が急速に低下しました。
経済の多角化不足
ベネズエラは石油の輸出に依存した経済構造となっており、石油の価格の急落が経済に打撃を与えました。経済の多角化や生産力の向上が不十分であり、石油への依存度の高さがハイパーインフレの一因となりました。
輸入依存と為替制度の崩壊
ベネズエラは多くの食品や必需品を輸入に頼っており、輸入品の価格は為替レートに依存していました。しかし、為替制度の崩壊によって安定した為替レートが確立できず、輸入品の価格が急激に上昇しました。
●対応策
ベネズエラ政府は、ハイパーインフレに対処するために以下のような対応策を取りましたが、効果は限定的でした。
通貨改革
旧来のボリバル通貨を廃止し、新しい通貨「ボリバル・ソベラノ」を導入しました。
価格統制
特定の商品やサービスの価格を政府が規制することで、物価上昇を抑制しようとしました。
対外債務の再構築
ベネズエラは対外債務の支払いに困難を抱えており、債務の再構築や支払い猶予を求めました。
●結果
ハイパーインフレの結果、ベネズエラでは以下のような深刻な経済・社会的影響が発生しました。
物価の急騰
日常必需品や食料品の価格が爆発的に上昇し、一般の人々にとって基本的な生活費の負担が増大しました。物価の急騰は、国民の生活水準の急速な低下をもたらしました。
通貨価値の暴落
ハイパーインフレにより、ベネズエラの通貨であるボリバルの価値が急落しました。通貨の信頼性が失われ、保有価値が著しく低下しました。また、通貨の暴落はインフレを加速させる悪循環を生み出しました。
生活水準の急激な低下
前述したとおり、物価の急騰と通貨価値の暴落で国民は生活水準の急激な低下に直面しました。物資の不足や高騰する価格によって食料や医薬品の入手が困難となり、貧困層の増加が広がりました。
社会的混乱と経済の崩壊
ハイパーインフレは社会の不安定化など混乱を引き起こし、国民の政治的な不満や抗議活動を招きました。また、経済の崩壊は企業の倒産や失業の増加、経済活動の停滞をもたらし、ベネズエラの経済全体が大きな打撃を受けました。
2018年8月には物価上昇率が13万%を記録しましたが、2021年5月は前年同月比で167%の上昇率にとどまりました。これは、石油相場の高騰と国内銀行への外貨供給拡大や、国内銀行に対する融資拡大制限、公的支出削減、増税などにより通貨相場が安定したためといわれています。
以上がベネズエラで起こったハイパーインフレの結果として現れた主な影響です。ハイパーインフレは国民の生活に大きな負担をかけるだけでなく、経済や社会の安定を脅かす要因となりました。
ハイパーインフレがもたらす治安への影響
ベネズエラのハイパーインフレは社会経済の混乱のほか、国の治安状況にも以下のような深刻な影響を与えました。
犯罪の増加
経済の崩壊は、失業率の上昇や貧困層の増加をもたらしました。経済的な困窮や社会的な不満は犯罪の増加にもつながり、強盗、窃盗、詐欺などの犯罪件数が急増して市民の生活と財産の安全が脅かされました。
麻薬取引と組織犯罪の活発化
ベネズエラは国際的な麻薬取引の中継地としても知られており、社会経済の混乱は麻薬の密売や組織犯罪の活動を活発化させました。麻薬カルテルや犯罪組織が勢力を拡大し、麻薬密売、武器取引、人身売買などが増加しました。
暴力的な抗議活動と政治的な不安定さ
経済の崩壊や政治への不満は、抗議活動や政治的な紛争を引き起こしました。国と反政府勢力との対立が激化し、暴力的な衝突やデモの頻発により治安状況は一層悪化して市民の安全が脅かされました。
治安の悪化は、ベネズエラの社会の安定と経済の復興を困難にしました。また、市民は日常的な犯罪や暴力の脅威にさらされ、社会の信頼と安全が損なわれました。治安回復のためには、経済の再建や貧困削減、法執行機関の強化など、総合的な取り組みが必要とされます。
次回は、デフレについて実例を挙げて説明したいと思います。
執筆者:浦上登
サマーアロー・コンサルティング代表 CFP ファイナンシャルプランナー