更新日: 2023.11.17 その他暮らし

お金の悩みは心の問題? 気持ちを整理して相談が必要かどうかを判断しよう

お金の悩みは心の問題? 気持ちを整理して相談が必要かどうかを判断しよう
コロナ禍以降、ファイナンシャル・プランナー(以下FP)として受ける相談内容のうち、離婚に関連するお金の悩みや遺産相続のトラブル、さらに老後の生活に対する不安が、これまで以上に増している印象があります。
 
今回は、お金の悩みの根底には心の問題があるということについて、相談事例を通して考えます。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

実際にあった住宅購入と老後生活についての相談

以下は、子どもがいない50代夫婦の妻から寄せられた相談の内容です。

20年以上前に結婚し、その後、不動産屋に仲介してもらい中古住宅を購入しましたが、そのとき、瑕疵(かし:欠陥など)があることを知らされず、数年経って気がつきました。裁判を行った後、購入した中古住宅は売却しましたが、結果的に裁判費用も含め、住宅購入に要した金額がトータルで高額になってしまい、そのせいもあって老後の暮らしに強く不安を感じるようになりました。
 
現在は賃貸住宅に住んでいますが、私たち夫婦には子どもがいません。夫の定年も近づいており、老後の住まいとして住宅を購入したいと考えています。そのために貯蓄を行っていますが、今後、住宅を購入した場合に老後の生活が成り立つか相談したいです。

相談に際しては、まず初回の面談で信頼関係を構築しながら、具体的な話を傾聴します。その後、業務委託契約を結んで正式に依頼を引き受け、家計全般に関するデータを分析し、その中から課題を抽出して解決策の実行や援助をします。
 
前述の相談内容について、「大変な経験をしたのだろう」「気の毒だな」「よく確認しなかったのが悪い」など、さまざまな感想を抱くかもしれません。逆に「老後の住まいを確保するためにお金をためているなら、住宅を買えばいいのでは?」などと思われる方もいるでしょう。
 
対応としては、ためたお金で住宅を買うという望みをかなえればいいということになりますが、このような家庭の場合、そうたやすく事が進むわけではありません。
 

お金の不安は満たされない気持ちを表している

FPへの相談では前述したとおり、通常は初回面談で相談内容について傾聴を試みます。
 
今回の事例における傾聴の目的は、なぜ老後の暮らしに対して極端に不安に感じているのかを探ることにあります。以前に経験した住宅購入失敗のトラウマ(心的外傷)があったとしても、それから立ち直っているなら正常な思考に戻るはずだからです。
 
しかし、相談者のケースではトラウマが長引き、人生設計について正常に考えることが難しくなっている印象を受けました。
 
その原因としては、もちろん住宅の購入で失敗したという過去のトラウマがあるのかもしれませんが、それは20年以上も前の話です。20年以上たっている今もまだ不安を強く感じているわけですから、他にも理由があるかもしれないとさらに傾聴を深めていったところ、どうやら妻の気持ちに対して夫が十分に寄り添えていない可能性があるということに気づきました。
 
妻は住宅の購入と老後への不安でいっぱいなため、誰かに話を聞いてほしいという欲求が強くなります。それにもかかわらず、一番身近にいる夫が取り合ってくれないとなると、イライラや怒りといった感情が表れやすくなる負のループにはまってしまいます。
 
人によっては「夫婦ではよくある話」と思うかもしれませんが、夫も同席した相談中に夫婦げんかが始まったりするため、こちらとしてはただ事ではないという認識が生まれます。
 
しかし、一連の相談で分析や提案を行っていく中で、全面的に夫に原因があるわけではないことにも気づきました。住宅購入や老後の生活設計以外に、課題として保障設計や資産形成、介護、相続などの総合的な対策を提案しながら感じたのは、相談者である妻がお金のことに細か過ぎるという点です。
 
お金のことに細か過ぎる方の傾向の1つに、自己肯定感の低さが挙げられます。自己肯定感が低いことが示す心理学的な意味は、自分を信じていない、つまり自分に自信がないということであり、同時に相手(ここでは夫や筆者)を信じられないことにもつながってきます。その結果、満たされないモヤモヤした気持ちがずっと続きます。
 
お金は目的のために活用する単なる手段です。しかし、これが自己肯定感の低さと極端に強く結び付くと、存在意義が変わってしまい、信じられる唯一の相手(存在)となる場合があります。
 

自分の価値観に気づかなければ、知識や方法を取り入れても適切な行動につながりにくい

個人の内面、つまり心が不安定なら、お金に関する知識を得て、お金を生かす方法をいくら知っても、実行に移す段階で躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。お金について、このように考えればいいのか、このように行動すればいいのかと分かっていても、適切な行動を取ることが難しくなります。
 
こうしたことから、まずは価値観に客観性を持たせ、正常な心理状態に戻した上で、知識(情報)や技術(方法)を取り入れてもらう必要があります。
 

まとめ

今回の記事で例とした相談内容は、相談者の心に問題がなければ比較的短期間で対応することができる事案といえますが、対応を終えるのに3年弱の期間を要しました。
 
一般的には、FPはお金のことを解決してくれる存在として認識される傾向がありますが、それは間違いではありません。しかし、お金の悩みは人間の心理状態を映し出す鏡でもあるため、相談する方の価値観などによっては単純に解決へと進むわけでもありません。
 
お金のことで悩んだ場合、まずは自分の内面を冷静に受け止め、気持ちを整理した上で相談が必要かどうかを判断するようにしましょう。
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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