更新日: 2023.12.15 その他暮らし

家族の形は多様化で世帯から個人に…年金など、これからの社会制度が変わる可能性も?

執筆者 : 重定賢治

家族の形は多様化で世帯から個人に…年金など、これからの社会制度が変わる可能性も?
筆者が2023年に関心を寄せた出来事は、LGBTQ法案が国会で可決され、いわゆるLGBT理解増進法が施行されたことです。一見、この出来事は家計には何の関わりもないように思うかもしれませんが、人権という視点から長い目で見た場合、私たちの家計に大きな影響をもたらす可能性があると考えています。
 
少し複雑で、おそらく賛否両論に意見が分かれるテーマかもしれません。しかし、時代の大局を見るうえではとても大切なことなので、今回のテーマとして考えてみたいと思います。
重定賢治

執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)

ファイナンシャル・プランナー(CFP)

明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。

子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。

2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai

家族の形は以前より多様化している

一般的な家族のモデルについて、例えば図表1のように「夫婦と2人の子ども」で、夫が働き、妻は専業主婦として子どもを育てるとイメージされる方が多いのではないでしょうか。
 
図表1

図表1

※筆者作成
 
ただし、このような家族観を持っている方は実際少ないでしょう。また、夫婦共働きが当たり前になりつつあるいま、子育てに夫が参加するのも普通のことと感じる方は増えたのではないでしょうか。
 
片や、近年の離婚率(婚姻件数に対する離婚件数の割合)は3割を上回る程度で推移しており、父親のみ、母親のみで子育てをしている家族もかつてと比べて珍しくなくなりました。
 
図表2
図表2

※筆者作成
 
また、3世代が同居する家族の形もあれば、単身世帯が増加しているほか、同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認める自治体も現れ、家族観は以前と比べて多様化しています。
 

家族の形が変わると、社会制度も変わる可能性が高まる

このような家族形態の変化がもたらす社会制度への影響については、それほど関心が向けられていないのかもしれません。しかし、足元では家族形態の多様化に合わせ、特に世帯よりも個人に焦点を当てた制度変更に関する議論が行われています。
 
例えば、夫婦共働きの世帯が増え、専業主婦世帯が少なくなったことで、夫婦間での扶養関係を税制面で見直そうという動きが出ています。この点については、世論の反発を受けることが想定できるため、すぐに変わることはないかもしれません。ただし、高齢化社会の進展を鑑みれば、個人ごとに税金を納めてもらったほうが国としては税収が増える見込みが高まるので、長い年月をかけて少しずつ変化していくことが考えられます。
 
また、話題になっている年収の壁は社会保険の話ですが、似たような理由で少しずつ是正され、いずれは撤廃されることになるかもしれません。さらに国民年金の第3号被保険者制度について、専業主婦も自ら国民年金の保険料を納めたほうがいいという意見(第3号被保険者制度の廃止)があり、こちらも今後、注視する必要がある項目の一つといえるでしょう。
 
一方、子育てに対する支援策は、一昔前と比べると随分変わりました。男性の育休取得の推進はもとより、地域全体で子育てをするという発想の下、子育て支援センターの開設やファミリーサポート制度の創設など、共働き世帯だけでなく、片親世帯にも相談援助などの手が差し伸べられるようになっています。
 
これらの動きは、女性の社会進出が広がったことを受けて起こっているものですが、その背景には共働き夫婦の増加の影響が顕著に見られます。
 

世帯から個人の時代に?

そのほかにも社会制度の変化の兆しはいくつか見えますが、LGBT理解増進法の施行は長い目で見た場合、社会制度を変えるきっかけの一つになるかもしれません。
 
例えば同性同士のカップルについて、自治体によっては婚姻関係に相当することが認められてはいるものの、税制面においては現行制度の範囲内での運用となっており、基本的に扶養の概念は存在しません。これは、自治体レベルで実施されるパートナーシップ制度として婚姻相当と認められるようになっただけで、法的な拘束力がないからです。つまり、税制面では世帯ではなく、あくまでも個人という扱いになります。
 
現在は専業主婦世帯が減って、また単身世帯が増加し、どちらかといえば税金の徴収を世帯ではなく個人単位で行ったほうが、より公平性を担保できるであろうと考えられるほど家族形態が変化しています。
 
国が法律で同性婚を認めることは、今のところ、現実的に難しいと考えられます。同性のパートナー同士では税制上、扶養の概念がなく、これが不平等であるというなら、変えられるのはそれ以外の人に適用されている現行の扶養制度です。つまり、世帯というくくりをなくし、個人ごとの制度設計にしてしまえば平等になるということです。
 
これはこれで現状では実現の可能性は低いと考えられますが、近年広がる人権意識の高まりと税収の観点から考察すると、なるべく多くの国民が個人単位で税金を納めたほうが税収は増えるため、人権の擁護を背景に長い目で制度改正の流れを作るのは、国としてできないことではありません。
 
あくまでも可能性の話ですが、世帯から個人を中心に家族形態が変わっていくとするなら、今後、社会的包摂の流れのなかで、さまざまな制度が少しずつ変化していくことも想定する必要があるでしょう。
 

まとめ

LGBT理解増進法は、LGBTQとよばれるマイノリティーの人たちを理解し、多様で寛容な社会を実現していくことを促すための法律として施行されています。しかし、現実社会では多くの人の間で共通する価値観のほか、社会規範や社会常識もあり、そう簡単に意識が変わることはないかもしれません。
 
人権に関する議論では、一方を擁護する側と、もう片方を擁護する側が対立することはしばしばあります。このような場合、互いの立場で考えて話し合い、合理的な配慮をいかに構築するかが鍵になります。
 
男性・女性に限らず、高齢者や子ども、障害者、外国人などのほか、新しい人権とよばれるLGBTQの人たちも然(しか)りです。
 
歴史的にいえば、社会制度が変わるのは何らかの出来事をきっかけに人々の価値観が大きく動いたときです。家族の形が変わってきているのは、経済情勢の変化だけでなく、女性の人権についての考え方が変化してきたことが背景にあります。
 
今後も、人権への涵養(かんよう)は促されることになるでしょう。その結果、社会に変化が起こり、私たちの生活に少なからず影響が出てくることが予想されます。お金とはあまり関係ないと思われる話でも、実は根底ではつながっているという視点を持つことが大切です。
 
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)

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