更新日: 2024.07.11 子育て

高校生の娘が私立大学への入学を希望しているのですが、うちは生活保護世帯です。生活保護を受けていても私立大学に入れますか?

高校生の娘が私立大学への入学を希望しているのですが、うちは生活保護世帯です。生活保護を受けていても私立大学に入れますか?
現行の生活保護制度では、生活保護を受けながら大学に進学することは認められていません。
 
大学等に進学するには、「世帯分離」し、保護の対象から外す必要があり、学費や生活費を自分で賄わなければなりません。このため、一般世帯の大学・短大進学率が61.1%(令和5年度)なのに対して、生活保護世帯出身の大学進学率は42.4%(令和4年4月時点)にとどまっています。
 
生活保護世帯の子どもが大学等に進学するための支援策について解説します。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

世帯分離とは

世帯分離とは、同居している家族と住民票の世帯を分ける手続きをいいます。世帯分離すると生活保護世帯の対象から外れます(ただし同居の場合、住宅扶助は減額しない)。したがって、住宅費以外の自分の生活費や学費は、奨学金やアルバイト等で賄わなければなりません。
 
また、国民健康保険や国民年金(20歳以上)に加入する必要があります。ただし、前年の所得が一定以下の学生については、「国民年金保険料の学生納付特例制度」を利用できます。
 

受験から進学するまでの費用

私立大学等へ進学する場合、受験料、交通費、入学手続き時に納める初年度納付金、教科書・教材・パソコンの購入費や、転居する際には転居費用などさまざまな費用がかかります。
 
これらの費用については大学等の奨学金は利用できません。なぜなら、奨学金を受給できるのは進学後だからです。
 
これらの費用に備えて、高校生の時に、アルバイトをしてお金を貯めておくと良いでしょう。通常、アルバイトで得た収入は保護費から減額されますが、アルバイト収入を大学等の受験料や入学金等にあてる場合は収入として認定されない取り扱いになっています。ただし、高校生がアルバイトをするときは、ケースワーカーに必ず申告することが必要です。
 
支援策を2つ紹介します。
 
「児童扶養手当受給世帯相当または低所得子育て世帯(住民税非課税世帯)」かつ「自治体が実施するこどもの生活・学習支援事業に登録等しているこども」に関しては、大学等を受験する際に必要な費用(受験料)として、高校3年生に対して上限5万3000円、模試費用として高校3年生に対して上限8000円、中学3年生に対して上限6000円が支給されます(こども家庭庁事業)。
 
また、大学等に進学する生活保護世帯の人には「進学準備給付金」が支給されます(自宅生10 万円・自宅外生30 万円) 。ケースワーカーに相談してみましょう。
 

私立大学の学費

私立大学の学費は国立大学と異なり、学部・学科により大きく異なります。文部科学省の調査によると、令和5年度の初年度学生納付金等(授業料、入学料、施設設備費の合計)について、文科系学部は119万4841円、理科系学部は153万451円などとなっています。
 
学生生活を送るには、学費のほかに生活費もかかります。これらの費用を賄うために、高等教育の修学支援新制度を活用しましょう。
 

高等教育の修学支援新制度

高等教育の修学支援新制度とは、原則返還しなくてもよい給付型奨学金の支給と入学金・授業料の減免により、大学等で安心して学べるようにする制度です。
 
住民税非課税世帯およびそれに準ずる世帯の学生が対象です。給付型奨学金は高校で卒業年次の春ごろ予約申込みすることが可能です。申込時期は、在籍している高校で確認してください。予約申込後、候補者に採用されても国または自治体の確認を受けた大学等でしか支援を受けることができませんので注意しましょう。
 
この制度を利用するには、父母と本人が「所得・資産の基準」および本人の「学力基準」の両方を満たす必要があります。
 
父母が「生活扶助」を受けていれば、本人の所得・資産で判定し、所得に応じて支援区分が決まります。また、世帯収入等の基準を満たしていれば、「学力基準」は成績だけで判断せず、しっかりとした「学ぶ意欲」があれば支援を受けることができます。
 
私立大学に通う生活保護世帯の出身者に対する給付型奨学金の支給月額は、自宅から通学する場合は4万2500円、自宅外から通学する場合は7万5800円となります。
 
給付型奨学金の対象者は、進学先の大学等で申込むことで入学金と授業料の減免を受けることができます。私立大学に進学する場合、最大、入学金26万円、授業料70万円の減免を受けることができます。
 
あくまで、これらの支援が受けられるのは進学後である点に注意してください。私立大学等に合格した場合、入学手続きとして1~2週間以内に入学金と前期分の授業料などを納付するのが一般的です。この納付金は、アルバイトや社会福祉協議会の生活福祉資金(教育支援資金)などで用意しておく必要があります。進学を決めた早い段階からケースワーカーに相談してください。
 

高等教育の修学支援新制度の不足分は貸与型奨学金で補う

高等教育の修学支援新制度では、私立大学の場合、 70 万円、授業料の減免を受けることができますが、学費のすべてを賄うことができません。残りの学費および生活費を学生自らアルバイトや貸与型奨学金等で補う必要があります。
 
まず、アルバイトをするにあたっての留意点を説明します。
 
給付型奨学金受給の期間中、学生と父母の収入と資産が家計基準を満たしているか確認され、支給額が変わったり、支給が停止になったりする可能性があります。
 
アルバイトをする場合、年間100万円を超えると高等教育の修学支援新制度の審査に影響がでるので気を付けてください。アルバイトをし過ぎると、学業と就労の両立が困難となり、大学中退も懸念されます。
 
次に、貸与型奨学金を併用する場合の留意点を説明します。
 
最も利用されている日本学生支援機構の貸与型奨学金には、無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金があります。同機構の給付型奨学金との併用が可能ですが、第一種奨学金の貸与月が調整されますので注意しましょう。私立大学に通う生活保護世帯出身者の学生の調整後の貸与月額は0円ですので、実質利用できません。第二種奨学金にはこのような制限がありません。
 
自治体の支援策も調べてみましょう。
 
世田谷区の生活保護世帯出身の大学生等に対する給付型奨学金では、学費(上限 50 万円)、教材費・通学交通費(実費)を給付しています。
 

まとめ

生活保護世帯出身の学生が大学等に進学するには「世帯分離」をし、学費と生活を自ら賄う必要があり、進学の障害になっています。しかし、進学を後押しする支援制度がさまざま用意されていますので、進学を諦めることはありません。
 

出典

文部科学省 私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について
文部科学省 高等学校教育の現状について 令和3年3月
文部科学省 令和5年度学校基本統計(学校基本調査の結果)確定値を公表します。 令和5年12月20日
厚生労働省 生活保護制度
厚生労働省 社会保障審議会生活困窮者自立支援及び生活保護部会(第27回) 令和5年11 月27日 子どもの貧困への対応について
文部科学省 高等教育の修学支援新制度
世田谷区 生活保護世帯出身の大学生等に対する給付型奨学金の実施について
独立行政法人日本学生支援機構
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー

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