7月から「新紙幣」が発行! 海外は“王室”の人がデザインされることもあるのに、なぜ日本で「天皇陛下」のデザインは使われないの? 理由を考察
配信日: 2024.07.23
本記事では日本における紙幣のデザインの基準と、天皇陛下が紙幣の肖像画に採用されない理由について考察していきます。
執筆者:渡辺あい(わたなべ あい)
ファイナンシャルプランナー2級
新紙幣の肖像画として採用される人々
今回新しくなったのは一万円札、五千円円札、千円札の3種類です。
一万円札の新肖像画は、「日本近代社会の創造者」と言われる実業家の渋沢栄一です。五千円札は日本初の女子留学生で女性のための大学を設立し女子教育に尽力した教育家・津田梅子。千円札は破傷風や伝染病の治療法を研究した細菌学者で「近代日本医学の父」と呼ばれる北里柴三郎です。
いずれも明治から大正にかけて日本の発展に大きく貢献した人物です。
肖像画に採用される基準
お札に使用される肖像の人物はどのように選ばれているのでしょうか。選定に明確な基準があるわけではありませんが、日本銀行は注意を払っている点として、次のように説明しています。
「例えば、(1)極力実在の人物で、業績があり知名度も高く親しみやすいなど、国民から尊敬され日本を代表するような人物であること、(2)偽造防止の観点から、簡単に複製できず、かつ人の目を引く特徴のある顔であることなど」
また、戦後にGHQ(連合国最高司令部)が日本を統治していた頃、「軍国主義的な色彩」の強い人物に難色を示したため、その影響が現在まで続いているのか政治家は採用されにくくなっています。
ちなみに最も多く日本の紙幣の肖像画として採用されたのは聖徳太子です。日本人の多くが知っている歴史上の有名人物であり、飛鳥時代の衣装やたくわえたひげなど特徴的な肖像画が残っていることからお札のデザインとしても採用されたのではないでしょうか。
なぜ日本の皇室の方々は肖像画にならないのか
イギリスではエリザベス女王やチャールズ国王が紙幣の肖像画として描かれているように、国王が在位する国では王が肖像画として採用されることが多くあります。それなのに日本では、天皇陛下をはじめとした皇室の方々が紙幣の肖像画にならないのはなぜでしょう。
日本銀行が公表している人物選定の基準に天皇が採用されない旨は記載されていません。しかしこれには日本人の皇室に対する考え方と宗教観が関係しているのではないかと考えられます。
諸説ありますが、日本人にとっては古来から天皇、つまり「帝」は「神の末裔」であり、初代天皇といわれる神武天皇の父は、神話に出てくる神の1人であるウガヤフキアエズノミコトとの言い伝えもあります。
現在ではさまざまな考え方があると思いますが、日本人の天皇信仰が神道に基づいていると考えると、多くの人の手に渡って「穢(けが)れ」となるお札にその御姿を使用するのは日本人の感覚的に不遜と感じるのではないかと推察できます。
ただし、過去には政府紙幣という特別な紙幣ではありますが、「神功皇后像」が使われたこともあります。そのため今後も皇室の方々が肖像画として採用されないかというと、必ずしもそう言い切れるものではないでしょう。
また、貨幣についても紙幣と同様に考えられており、かつて明治政府が新しい貨幣を発行する際に「欧米各国のように元首の肖像を入れては」という意見もありました。しかし「現人神(あらひとがみ)の天皇の肖像が人民の手に触れて汚れることは畏れ多い」という理由で不採用になったという出来事もあります。
まとめ
海外では国王のデザインが多く使用されているにもかかわらず、日本では天皇陛下のデザインが採用されたことはありません。これは、国によって違いはありますが、海外での国王の位置付けは、国民にとって偉大な存在ではあるといえ、とても身近な存在と考えられているところがあります。
一方、日本においては、天皇陛下に対して「畏敬の念」を抱いている人が多いことから、紙幣という身近なものの肖像画として使用するのは畏れ多いと考えられているのではないでしょうか。
このように「お金」のデザインからも、国民と国王・皇室の関係性の一端がうかがい知れるようで面白いですね。
出典
独立行政法人国立印刷局 新しい日本銀行券特設サイト2024年7月3日お札が変わりました
日本銀行 お金の話あれこれ(3)お札に登場した人物、動物
独立行政法人 造幣局 貨幣に関すること 貨幣Q&A
執筆者:渡辺あい
ファイナンシャルプランナー2級