シングルマザー、高3の息子を大学進学させてあげたいです。国立大に行けるほどの学力がないので私立大になりますが貯金があまりありません…… 諦めたほうがいいでしょうか?
配信日: 2024.11.21
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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母子世帯の現状
厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯で母自身の平均年間収入は272万円、平均年間就労収入は236万円、同居親族を含む世帯全員の平均年間収入は373万円となっています。
親の就業状況では、母子世帯の母の86.3%が就業しており、そのうち正規の職員・従業員は48.8%です。パート・アルバイト等が38.8%を占めます。養育費の取り決めは46.7%がしていますが、養育費の取り決めをしている世帯のうち、「現在も受給している」は、母子世帯で57.7%にすぎません。
多くの母子世帯は、子どもの教育・進学に悩みを持っています。
子どもに関する最終進学目標は、半数が「大学・大学院」 を希望していますが、大学進学率は41.4%と、全世帯の子どもの進学率(54.9%、文部科学省「令和3年度 学校基本調査」より)と比べて経済的な理由等により低いです。なお、母子世帯の母の最終学歴は高校が最も多くなっています。
大学の学費
国立大学の入学金と授業料は、文部科学省が定める標準額(入学料28万2000円、授業料53万5800円)の20%増を上限に各大学で決めています。
授業料は2005年以降、入学料は2002年以降、ほとんどの国立大学は標準額に合わせています。現在、標準額と異なる額を設定しているのは、入学金では東京芸術大学の33万8400円、授業料(年額)に関しては、東京工業大学が63万5400円、東京芸術大学と千葉大学、東京医科歯科大学、一橋大学、東京農工大学、東京大学(2025 年4月入学者より)が64万2960円となっています。
公立大学の学費は、国立大学に準じています。入学料の平均額については、文部科学省「2023年度 学生納付金調査結果」によると、地域外からの入学者は37万4371円、地域内の入学者は22万4066円、授業料は、53万6191円となっています。
このように、公立大学では地元の人には、入学金が割引になる優遇制度があるのが特徴です。例えば、埼玉県立大学の場合、埼玉県内の方の入学料は21万1500円ですが、埼玉県外の方は42万3000円となっています。
一方、私立大学は、文部科学省「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果」によると、入学料の平均額(令和5年度)が24万806円、授業料の平均額は95万9205円と国立大学の授業料の約1.8倍となっています。
国公立大学と違い、学部により学費が大きく異なるのが私大の特徴で、施設設備費等も必要です。2023年度初年度納付金(入学料、授業料、施設設備費)の平均額は、文科系119万4841円、理科系153万451円、医歯系482万1704円などとなっています。
高等教育の修学支援制度をまず検討しよう
大学生等の約3人に1人が利用している日本学生支援機構の奨学金には、大学卒業後に返還の義務のある「貸与奨学金」と、原則として返還不要の「給付奨学金」があります。利用には「家計基準」と「学力基準」を満たす必要があり、高校3年の春に高校を通じて申し込むのが一般的です。
2020年度からは、ひとり親世帯(親・高校生・中学生・小学生の4人家族)の場合、年収373万円程度以下未満を対象に授業料等の減免や給付型奨学金が支給される「高等教育の修学支援新制度」がスタートしました。
例えば、私立大に自宅外通学するケースでは、年約91万円の給付奨学金が支給され、入学金は約26万円、授業料は約70万円まで、それぞれ免除されます。住民税非課税世帯への支援額は年収に応じて減額され、年収約298万円未満では3分の2、年収約373万円未満では3分の1になります。
さらに、2024年度からは、ひとり親世帯(4人家族)のケースでは、年収630万円程度の世帯まで対象を拡大しました。新たに対象となるのは、年収約630万円までの世帯のうち、扶養する子どもが3人以上いる多子世帯と、私立の理工農系学部に通う学生等です。
年収約373万~年収約630万円までの多子世帯の場合、入学金・授業料減免と給付型奨学金を合わせて、最大で約47万円の支援が受けられます。私立の理工農系学部に通う学生等は、給付奨学金の支援はなく、最大で約32万円の入学金・授業料減免が受けられます。
2025年度から、多子世帯については、所得制限なく、国が定める一定の額まで大学等の授業料・入学金が減免されます。
なお、世帯年収は目安であり、世帯構成等により対象となる世帯年収は異なります。原則として、申し込み年の前年1~12月の収入に基づく住民税情報をもとに判定が行われますが、申し込み時期によっては、前々年1~12月の収入を用いる場合があります。
民間団体の給付型奨学金も活用しよう
企業や公益財団法人、NPO法人などの給付型奨学金も増えています。「成績」や「家計の状況」などの条件をクリアしなければなりませんが、ひとり親世帯を対象とした給付型奨学金もありますので、奨学金検索サイトなどを活用して、自分の状況に合った奨学金を探し申請してみましょう。
貸与奨学金・教育ローンの利用も視野に
高等教育の修学支援新制度で、すべての学費を賄うことはできません。貸与奨学金や教育ローンとの併用も検討しましょう。
奨学金(給付・貸与)は、入学後に一定額が振り込まれるため入学前に発生する費用は奨学金ではカバーできない点に注意しましょう。入学前までの不足分は、教育ローンで賄う必要があります。
ひとり親家庭は、市区町村の「母子寡婦福祉資金貸付金」をまず検討しましょう。保証人がいれば、無利子で入学金や授業料を借りることができるからです。成績も問われません。
ただし、申し込みから融資まで1ヶ月以上かかる場合があります。また近年では、「年内入試」が広がり、入学手続きも早まっています。私立大学では入学手続き時納付金として、最小限「入学金+前期分授業料等」を、合格発表後1~2週間以内に納付するケースが多いので、早めに市区町村の担当窓口に相談にいきましょう。
教育ローンのなかでは、日本政策金融公庫の教育ローン(国の教育ローン)が有利です。母子家庭、父子家庭等の方は通常の利率のマイナス0.4%(固定金利)で借りることができます。また、連帯保証人の代わりに保証機関を利用する場合の保証料が、通常の2分の1の額となります。
進学後、日本学生支援機構の給付奨学金と貸与奨学金を併用する場合、無利子の第一種奨学金との併用は、貸与額が調整されます。例えば、大学の場合、住民税非課税世帯は、調整後の第一種奨学金の貸与月額は0円となります。
母子寡婦福祉資金貸付金も日本学生支援機構の奨学金との併用について制限があります。詳細は担当窓口でご確認ください。
出典
厚生労働省 令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告(令和3年11月1日現在)
文部科学省 令和3年度 学校基本調査
文部科学省 国公私立大学の授業料等の推移
文部科学省 2023年度学生納付金調査結果(大学昼間部)
文部科学省 私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について
文部科学省 高等教育の修学支援新制度の在り方検討会議
独立行政法人日本学生支援機構 大学・短大・専修学校(専門過程)へ進学予定の方
内閣府 男女共同参画局 母子父子寡婦福祉資金貸付金制度
日本政策金融公庫 国の教育ローン
独立行政法人日本学生支援機構 給付奨学金と併せて利用する第一種奨学金の貸与月額(併給調整)
執筆者:新美昌也
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