マネーリテラシーの落とし穴!お金の知識だけでは豊かになれない理由とは
配信日: 2025.03.07


執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
お金の知識は、人々が持っている価値観に依存する
「人権」は、「個人の尊厳」を源とし、それを具体化したものです。
日本国憲法では「基本的人権」が保障されていますが、個人の尊厳に基づく基本的人権を保障しているため、日本国憲法は「国家の最高法規」と呼ばれます。
基本的人権にはいくつかの種類があり、自由権、平等権、社会権、参政権、受益権(請求権)、幸福追求権(新しい人権)に大別されます。そして、それぞれの人権のなかに、さらに具体的な権利が細かく分類されています。
さて、私たちは生きていくために働き、収入を得ます。そうでなければ、人生設計を組み立てるのは難しいでしょう。万が一、自分の勤めている企業が身の安全を図ってくれないとしたらどうなるでしょうか。
仕事を辞め、収入が途絶えたり、たとえ職場に残っても不利益な扱いをされ、心身ともに大きなダメージを受けたりする恐れがあります。そして、仮にこのような事態に遭遇してしまった場合、人生設計に狂いが生じます。
私たちは、人生設計(ライフプラン)をある程度イメージしながら生きています。その過程でお金の知識(マネーリテラシー)が必要になってきますが、お金の知識を持っているだけでは、企業のガバナンス不全に対応することはできないでしょう。
なぜならば、人権侵害はお金の話ではなく、法律の話であったり、組織風土の話であったり、人間関係の話であったりするからです。だからこそ私たちは、私たちを取り巻く環境を意識する必要があり、また、そこに流れている共通の価値規範に関心を持つ必要が出てくるのです。
お金の知識は、基本的人権をもとに、社会をよくするために活用する
ところで、ウェル・ビーイング(Well-being)という言葉があり、直訳すると「よい状態」となります。また、ウェル・フェア(Welfare)という言葉もあり、これは「福祉」と訳されます。福祉は「幸福」や「幸せ」という意味ですが、福祉というと、私たちは「困っている人を助けること」と思いがちです。
このような傾向があるのは、「人権」という言葉がわれわれ日本人の頭のなかにスッと入ってこないからなのかもしれません。
これらの言葉は基本的人権のうえに成り立つ概念で、「基本的人権が確保されたうえに幸せがある」という考え方を表しています。
そして、ファイナンシャル・ウェル・ビーイング(Financial Well-being)という言葉があります。これは「経済的によい状態」と訳すことができますが、基本的人権が確保されたうえでの経済的なよい状態という意味です。
昨年発足した金融庁管轄の金融経済教育推進機構(J-Flec)では、ファイナンシャル・ウェル・ビーイングを「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」と定義しています。
このような定義のもと、J-Flecは「ファイナンシャル・ウェル・ビーイングを実現し、自立的で持続可能な生活を送ることのできる社会づくりに貢献する」としています。
つまり、「お金の知識は人権を意識しながら、社会をよい方向に導くために使うものである」ということが、ここからも伺えます。
まとめ
お金の知識、つまりマネーリテラシーの現在地は、基本的人権を基盤にしているという所にまで進んでいます。このことは同時に、お金の知識を身に付けたとしても、基本的人権という価値観を前提にしなければ、それは無味乾燥としたものになることを表しています。
価値観には、人権思想だけでなく、社会規範、法律、慣習、個々人の考え方や感情などが含まれます。マネーリテラシーを身に付けることは今や、これらのことを意識したうえで取り込んでいくという「質」の段階に来ているのではないでしょうか。
出典
金融経済教育推進機構(J-Flec) 組織・事業の概要 Mission&Vision
執筆者:重定賢治
ファイナンシャル・プランナー(CFP)