敷金が返ってこない!? 賃貸退去時に「払わなくていい費用」を請求されないために知っておくべきこと
配信日: 2025.04.05

2023年に国民生活センター寄せられた相談の件数は1万3247件です。原状回復をめぐるトラブルをみていきましょう。

執筆者:大泉稔(おおいずみ みのる)
株式会社fpANSWER代表取締役
専門学校東京スクールオブビジネス非常勤講師
明星大学卒業、放送大学大学院在学。
刑務所職員、電鉄系タクシー会社事故係、社会保険庁ねんきん電話相談員、独立系FP会社役員、保険代理店役員を経て現在に至っています。講師や執筆者として広く情報発信する機会もありますが、最近では個別にご相談を頂く機会が増えてきました。ご相談を頂く属性と内容は、65歳以上のリタイアメント層と30〜50歳代の独身女性からは、生命保険や投資、それに不動産。また20〜30歳代の若年経営者からは、生命保険や損害保険、それにリーガル関連。趣味はスポーツジム、箱根の温泉巡り、そして株式投資。最近はアメリカ株にはまっています。
そもそも原状回復とは?
そもそも原状回復とは、どのようなことを意味するのでしょうか?
アパートやマンションを「借りる前の状態に戻す」ことが原状回復ではありません。また、アパートやマンションが建ったときの状態、いわゆる新築の状態まで戻すことが原状回復ではありません。
令和5年3月に国土交通省住宅局参事官から出された『「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料』には、原状回復について、以下のように定義しています。
『賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること』
つまり、アパートやマンションの一般的な住まい方であれば、原状回復の義務を負う必要はありません。そもそもアパートやマンションといった建物や建物に付属する設備は、使っていても使わなくても、時間の経過と共に価値が減少していきます。いわゆる経年劣化があります。
どんなときに原状回復の義務があるの?
では、アパートやマンションで退去するときに原状回復の義務が生じるのはどのようなときでしょうか?具体例を挙げてみましょう。
・クロスへの落書き
・誤ってつけたフローリングのキズ
・結露を放置したために拡大したカビやシミ
・喫煙によって生じた臭いやクロスの変色
など
(出典:厚生労働省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料)
逆にいえば、以上の具体例などのようなことがないように、気を付けて生活すればよいわけです。
原状回復が必要になったら
トラブルを未然に防ぐためにも、アパートやマンションを引っ越しする直前には、大家さんや管理人さんと一緒にお部屋の状況を確認しましょう。もちろん、写真も撮っておきましょう。
もし原状回復をしなければならなくなったときは、どのようにすればよいのでしょうか?
まず原状回復が必要な箇所を特定し、明確にします。そして、その修繕の代金についても、見積書を見せてもらうと共に、先述の経年劣化の分も考慮した額になっているかも確認しましょう。
目的はあくまでも修繕であって、グレードアップではありません。例えば部屋一面をピカピカのクロスと交換する必要もなければ、床を見事なフローリングに張り替える必要もありません。
修繕の代金よりも差し入れた敷金の額のほうが高ければ、差額を返してもらいましょう。また、金額に納得がいかない、そもそも原状回復が必要だとは思えないというときは、大家さんや管理人さんと話し合いましょう。
話し合いで解決ができなければ、民間賃貸住宅分野の「裁判外紛争解決手続(ADR)」という制度もあります。ADRは、事前に手続きの内容、進め方、費用等についての説明を受け、説明に納得できたら手続きを進めます。具体的には、専門家が退去者と大家さん・管理人さんとの間に入った話し合いです。
まとめ
原状回復をめぐるトラブルが起きないようにするためには、実は入居前の契約のときから、やらなければならないことがあります。例えば、「原状回復とは何か」という説明を受けると共に、「敷金を返してもらえない具体例」を教えてもらうことです。入居者と大家さん・管理人さんとの間で、原状回復と敷金についての理解を共有しておくことが大切です。
出典
国民生活センター 賃貸住宅の現状回復トラブル
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドラインに関する参考資料
国土交通省 民間賃貸住宅分野の「裁判外紛争解決手続(ADR)」をご利用ください
執筆者:大泉稔
株式会社fpANSWER代表取締役