SNS投稿「年収300万円は生活保護レベル」が話題!「働くの馬鹿らしくなった」の声もあるけど、生活保護で“200万円も受け取れる”? 実際の「受給額・会社員の手取り額」を比較して分かる“働くメリット”
毎日働いて得る給料の手取り額と、国から支給される生活保護費が「同じくらい」だとしたら、確かに働くモチベーションは大きく下がってしまうかもしれません。多くの方も、日本の給与水準や社会保険料の負担の重さについて、不満や疑問を感じたことがあるのではないでしょうか。
今回は、公的データをもとに生活保護での受給額と「年収300万円」の実際の手取り金額をシミュレーションします。
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント
目次
【検証1】1人暮らしの生活保護費は「年間200万円」もらえる?
まずは、「生活保護でもらえる金額は200万円ほど」という点について検証してみましょう。
生活保護費は、住んでいる地域(級地)や世帯人数によって支給額が大きく異なります。ここでは東京都内の市部(1級地-1)である「八王子市」に住む、40歳未満単身者(1人暮らし)を例にシミュレーションしてみましょう。
八王子市の基準に当てはめると、単身者に支給される生活保護費の上限目安は以下のようになります。
・生活扶助(食費や被服費などの生活費):7万6420円
・住宅扶助(家賃給付の上限額):5万3700円
・月額の支給額(目安):13万120円
これを1年間(12ヶ月)に換算すると、年間で約156万円となります。生活保護を受給すると医療費が無料になるといった「現物給付」のメリットもありますが、手元に入る現金ベースで見ると、単身者の場合は年間200万円には届きません。
SNSでの書き込みは、配偶者や子どもがいる世帯など、単身世帯より支給額が大きくなりやすいケースを想定しているのかもしれません。
【検証2】年収300万円の独身会社員、本当の手取り額はいくら?
次に、「年収300万円の手取りは200万円ほど」という点について見ていきましょう。会社員の場合、額面の年収から「所得税」「住民税」「社会保険料(健康保険、厚生年金、雇用保険)」が天引きされます。
国税庁や日本年金機構の保険料率等をもとに試算したデータによると、東京都在住、独身で40歳未満、年収300万円(月収25万円、ボーナスなし)の場合、年間で引かれる税金などの金額と手取り金額の目安は以下の通りです。
所得税:2万5900円
住民税:11万7900円
健康保険:15万3660円
厚生年金:28万5480円
雇用保険:1万5000円
子ども・子育て支援金:3588円
天引き額合計:60万1528円
手取り年収の目安:約240万円(月あたり約20万円)
SNSの投稿では「年収300万円の手取りは200万円ほど」とされていましたが、実際は約240万円です。先ほど算出した単身者の生活保護の年間支給額(約156万円)と比較すると、年間で約84万円(月額にして約7万円)の差があり、これでは決して「生活保護でもらえる金額もそのくらい」とは言えません。
強引に解釈すれば、「10万円の桁で四捨五入すると、両方とも200万円になる」とは言えますが、これはあまりにも不誠実な表現でしょう。
つまり今回話題になったSNSへの投稿は、生活保護費は過大に、労働による所得の手取り額は過小に評価されたものになっており、実態とはかなり乖離していると言えます。
この投稿は、筆者にはいわゆる「バズ狙い」「インプレッション目的」の典型的な書き込みに思えてなりません。投稿者の都合にあわせて実態を過剰に表現して投稿し、誤った認識を世間に広めてしまう、実害のある書き込みだと言えるでしょう。
生活保護と「年収300万円」での勤労、そこまで変わらない? それでも働くメリットとは
「手取りで月7万円の差しかないなら、毎日8時間働くより生活保護のほうが楽ではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、会社員として「働くこと」には、以下のように目先の金額以上の大きなメリットと意味があると、筆者は考えています。
1. 資産形成と消費の自由がある
生活保護を受給する場合、原則として車や持ち家などの資産を持つことはできず、貯金にも厳しい制限がかかり、クレジットカードを作ることも困難です。一方、働いて得たお金であれば、趣味に使うことも、新NISAなどを通じて資産形成に回すことも自由です。このように「お金の使い道に選択肢がある」ことは、極めて大きなメリットです。
2. 将来の年金受給額が大きく異なる
会社員として働き「厚生年金」に加入している期間が長ければ長いほど、将来もらえる老齢年金の額は確実に増えます。生活保護を受給して国民年金保険料が免除されている状態と比較すると、老後の安心感という点において、現役時代に社会保険料を納めている恩恵は大きいといえます。
3. キャリアアップと収入アップの可能性がある
年収300万円はあくまで現在の通過点です。労働を通じてスキルを身につけ、転職・独立や昇進を果たせば、年収400万円、500万円と上げていくことも可能ですが、生活保護費は自分自身の努力で金額を増やすことはできません。収入アップに「自主性」が存在するということは、見逃されがちですが人生において重要なメリットです。
キャリアコンサルタントでもある筆者は基本的に「働くことは素晴らしいこと」という信念を持っているので、その分を差し引いて読んでいただきたいのですが、上に書いたようなメリットを考えると、「薄給で働くよりは、生活保護を受けたい」という考え方はあまりに不健全だと思います。
まとめ
SNSで話題になった「年収300万円の手取りと生活保護費は同じ」という投稿は、実際の数字を比較すると、やや極端な誇張が含まれていることがわかりました。
年間で約84万円という手取りの差があるだけでなく、資産を持つ自由やキャリアアップの可能性など、「働くことで得られるメリット」は、金額だけでは計れないものもあります。読者の皆様は、ネット上のセンセーショナルな情報に惑わされず、自分のキャリアについての価値観をしっかり持っていただきたいです。
出典
厚生労働省 生活保護制度における生活扶助基準額の算出方法(令和8年4月)
執筆者 : 山田圭佑
FP2級・AFP、国家資格キャリアコンサルタント
