自宅の「買い手」を探していたら、まさかの「隣人」が立候補!当事者間で“取引”することは可能でしょうか? 不動産会社を通さずに行うのが心配です…。
ただし、そこにはメリットと、場合によってはそれを上回るリスクが潜んでいます。本記事では、いわゆる「個人間取引」のメリットとデメリットについて解説します。
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。
長期に渡り離婚問題に苦しんだ経験から、財産に関する問題は、感情に惑わされず冷静な判断が必要なことを実感。
人生の転機にある方へのサービス開発、提供を行うため、Z FinancialandAssociatesを設立。
個人間取引に向いた人とは?
不動産の個人間取引とは、その名のとおり不動産会社に売買の仲介を依頼せずに、売り主と買い主の当事者だけで不動産の取引を行うことです。不動産の取引に慣れていない方にとっては、「そんなことができるの?」と思われるかもしれませんが、次のようなケースでは行われることがあります。
ただし、下記をご覧いただくと分かるとおり、当てはまる人はそれほど多くないといえそうです。
1. 親子などの親族間や、親しい隣人など、信頼できる者同士で取引する場合
2. 金融機関から住宅ローンを受けずに、現金で取引を行う場合
3. 土地の形状や境界が明らかで、そのままの状態で引き渡すことが可能な場合
4. 山奥の山林など、評価額が比較的低い土地である場合
5. 当事者が不動産取引に関わる手続きや法律などに精通している場合
私たち一般的な消費者であれば、特に1と2は大きなハードルでしょう。隣人でかつ信頼できる仲であり、そのうえ購入代金を全て現金で用意できるケースは多くありません。
表題の方は隣人から家を売ってほしいと持ち掛けられたようですが、果たして上記のケースに当てはまるでしょうか。
もし個人間取引を検討するのであれば、どのようなメリット・デメリット、そして注意点があるのか、次に解説します。
個人間取引のメリットとは?
不動産の個人間取引には、次のようなメリットがあります。
1. 仲介会社を探す手間を省ける
不動産を売却するときに、私たちは通常、仲介会社に依頼します。
なぜでしょうか? さまざまな理由がありますが、最も大きな理由は、「自分では買い手を見つけることができないから、ではないでしょうか。そこで、仲介会社に自宅の買い手を見つけてもらうことを考えます。
しかし、表題の方のように、すでに買い手候補が見つかっている場合はどうでしょうか? わざわざ自分にとって信用できる仲介会社を探す手間を省き、当事者で済ませたい、と考えるのも無理はありません。
2. 面倒な事務手続きを簡略化できる
仲介会社を経由する不動産取引では、民法や宅建業法などの法律に沿った書面を取り交わす、担当者との打ち合わせ等で時間がかかります。
一方、当事者同士での取引では、そうした手間を省くことができます。ただし、後述するデメリットも多く、注意が必要な点でもあります。
3. 不動産取引にかかる費用を抑えることができる
不動産取引には、不動産仲介手数料や登録免許税、所有権移転登記費用など各種の費用がかかります。土地や家屋の評価額が高額になればなるほど、これらの費用は高額になるため、無視できません。
個人間取引では、このうち不動産仲介手数料を節約でき、さらに登記も自分で行えば司法書士に依頼する費用も節約できます。特に、評価額が極めて低い土地を売買する方にとっては、検討したい点でしょう。
このように、手続きが面倒で、かつ費用を極力抑えたい方にとって個人間取引は大きなメリットです。
しかし、節約と簡略化と引き換えに次のような大きなデメリットが生じることも知っておくべきでしょう。
個人間取引のデメリットとは?
1. 不動産取引に関わる書面の準備や作成を自分で行わなければならない。
物の売買を行うとき、私たちは品質や金額、支払い方法やタイミング、問題が起こったときの事後対応などを考えたうえで判断します。
しかし、日用品であれば厳密に考えなくてもなんとかなりそうですが、一生に一度ともいわれる高額な不動産取引であれば、そうはいきません。細かい条件を一つでもおろそかにすると、取り返しのつかない結果を招いてしまいかねません。
そこで、通常の不動産取引では、不動産の権利関係や法令上の制限、手付金の額や契約解除の手段、不動産に瑕疵(かし)があった場合の責任などを細かく記載した「重要事項説明書」を仲介会社所属の宅地建物取引士が買い主に説明し、手渡します。
個人間取引の場合は、重要事項説明に相当する事項を自分たちで確認するか、もしくは何らかの形でトラブルがないよう、双方で準備しておく必要があります。しかし、実際は不動産の専門知識に精通した人でもないかぎり、とても難しいといえるでしょう。
2. 住宅ローンを利用できない可能性が高い
個人間取引のケースにて前述しましたが、個人間取引をする場合は現金取引が中心となります。なぜなら、住宅ローンを組むことが極めて難しいからです。
通常、住宅ローンの本審査では次の書類の提出が求められます。
・不動産売買契約書
・重要事項説明書
・登記事項証明書
・本人確認書類や収入確認書類
・工事請負契約書や見積書など取引内容に応じた書類
個人間取引ではこれらをそろえるのも大変ですが、それ以上に第三者(仲介会社)を介していない取引は、金融機関側にとって大きなリスクとなります。その結果、審査が通る可能性が極めて低くなります。
3. 当事者間で全てのトラブルを解決しなければならない
仮に、重要事項説明も行い、個人間取引で売買ができたとしても、後から建物に新たな傷が見つかった、土地に汚染などがあった、などのトラブルが見つかることがあります。こうした事態に直面したとき、仲介会社に連絡することは当然できず、自分たちで解決を試みなければなりません。
個人間取引に安易に応じない姿勢も大切
では、本記事のまとめの代わりとして、隣人から「家を売ってほしい」と言われている表題の方に向けて、その疑問に回答を試みます。
もし、次のような条件に合致しているのであれば、個人間取引を検討してもよいかもしれません。
・対象の家の評価額を適正に評価できる。もしできない場合は第三者(不動産鑑定士など)に依頼できる。
・評価額が比較的低額であり、損害のリスクが少ない
・表題の方も隣人の方も、不動産取引に慣れている。
・事後のトラブルにも、双方が協力の上対処できる自信がある。
ただし、上記の点に当てはまる場合でも、思わぬ落とし穴が潜んでいる場合があります。少しでも自信がない場合は、仲介会社や司法書士などの専門家に入ってもらうのが無難です。
また、仮に隣人から個人間取引を一方的に持ち掛けられた場合、少しでも不安があるようであれば、安易に応じない姿勢も大切です。
個人間取引は難易度の高い選択
ここまで、不動産の個人間取引について解説しました。
個人間取引は可能ではありますが、非常に難易度の高い選択です。単に費用を節約できるから、という安易な選択をせず、リスクや後々のトラブルも考慮したうえで、慎重に判断してください。
執筆者 : 酒井 乙
CFP認定者、米国公認会計士、MBA、米国Institute of Divorce FinancialAnalyst会員。

