退去後、管理会社から“壁紙の張り替え費用”を請求されました。子どもが付けた小さな汚れはありますが、長く住んでいた場合でも“全額”を負担する必要があるのでしょうか?

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退去後、管理会社から“壁紙の張り替え費用”を請求されました。子どもが付けた小さな汚れはありますが、長く住んでいた場合でも“全額”を負担する必要があるのでしょうか?
賃貸物件を退去する際、多くの人が頭を悩ませるのが「原状回復」の費用負担です。特に小さなお子様がいる家庭では、壁紙(クロス)に汚れや傷が付いてしまうことは珍しくありません。
 
しかし、管理会社から提示された見積書に「壁紙全面張り替え」として高額な費用が記載されていると、そのまま支払うべきか迷ってしまうものです。
 
結論から言えば、長期間入居していた場合、たとえ入居者の不注意で汚した箇所があっても、張り替え費用の全額を負担する必要がないケースがほとんどです。
 
本記事では、令和2年に施行された改正民法のルールや国土交通省のガイドラインに基づき、適正な負担の考え方を詳しく解説します。
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原状回復の定義と令和2年施行の改正民法

国土交通省によると、消費生活センターに寄せられる賃貸住宅のトラブルは毎年3~4万件 です。そのうち、「敷金ならびに原状回復トラブル」は3~4割程度を占めており、特にトラブルになりやすい事案であるとされています。
 
賃貸借契約における「原状回復」とは、決して「入居時と全く同じ、新品の状態に戻すこと」ではありません。令和2年4月1日に施行された改正民法(第621条)では、賃借人の原状回復義務について重要なルールが明文化されました。
 
そこでは、入居者が退去時に損傷を復旧する義務を負う一方で、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗(通常損耗)」や「賃借物の経年変化」については、復旧の義務を負わないことが明記されました。
 
具体的には、以下のようなケースは「通常損耗・経年変化」とみなされ、その修繕費は毎月の家賃に含まれていると解釈されます。したがって、これらは原則として貸主(大家)側の負担となります。


・日光(日照)による壁紙の変色
・家具を設置したことによる床のへこみや跡
・テレビや冷蔵庫の背面の黒ずみ(電気ヤケ)
・下地ボードの張り替えが不要な程度の画鋲やピンの穴

一方、「借主(入居者)の負担」になるのは、以下のようなケースです。不注意や故意、あるいは手入れを怠ったことによって生じた損傷です。


・子どもによる落書きや、おもちゃをぶつけた傷
・タバコのヤニ汚れや臭いの付着
・結露を放置して拡大させたカビやシミ
・引っ越し作業中に生じたひっかき傷

今回のケースの「お子様が付けた小さな汚れ」は借主の過失に該当する可能性がありますが、それでも「全額負担」とは限りません。
 

壁紙の耐用年数「6年」と借主の負担割合

たとえ入居者に修繕の責任(原状回復義務)がある場合でも、負担額は「設備等の経過年数(耐用年数)」を考慮して決定されます。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、壁紙(クロス)の耐用年数は「6年」と定められています。
 
壁紙の価値は時間の経過とともに減少し、6年が経過した時点(72ヶ月)で、その残存価値は「1円(ほぼ0%)」になるという計算式を想定しています。この考え方に基づくと、入居期間が長ければ長いほど、入居者が負担すべき割合は以下のように減少します。


入居して3年で退去:壁紙の価値はまだ約50%残っているため、過失箇所の張り替え費用の約半分を負担します。

入居して6年以上で退去:壁紙の価値は理論上「1円」です。そのため、たとえ不注意で汚した箇所があっても、壁紙の「材料代」としての負担は極めて限定的(ほぼ1円)となります。

ただし、注意点があります。壁紙の価値が1円になったとしても、入居者には「善管注意義務(善良なる管理者の注意義務)」があり、部屋を大切に使う義務があります。
 
たとえば、耐用年数が過ぎた壁紙であっても、あまりにひどい不注意や故意で破損させた場合、壁紙そのものの代金は1円でも、修繕工事に伴う「工賃(人件費)」などの一部を負担するように求められる可能性があります。
 

修繕範囲のルールと特約の注意点

張り替え費用の「範囲」についても明確なルールがあります。原則として、修繕は傷や汚れがついた箇所の、「1枚」や「㎡(平方メートル)単位」で行うのが基本です。補修に必要な最低限度の工事費用に限定するためです。
 
しかし、壁紙の一部だけを張り替えると、周囲の古い壁紙と色が合わず、部屋の美観を損ねる場合があります。そのため、ガイドラインでは、毀損箇所を含む「壁一面分」までの張り替え費用を入居者が負担することは、やむを得ない、としています。
 
一方で、色を合わせるために「部屋全体の壁紙」を張り替える場合、汚れがない他の面の張り替え費用は、全額が貸主の負担となります。
 
また、契約書の「特約」についても確認が必要です。「退去時のクリーニング代や壁紙張り替え費用は一律で入居者負担とする」といった特約が記載されていることがあります。
 
ただし、特約は以下3つの条件を満たしている場合に有効とされます。


1. 特約の必要性があり、暴利的でないなどの客観的・合理的理由があること
2. 通常の原状回復義務を超えた負担を負うことを、入居者が認識していること
3. 入居者が特約による義務負担の意思表示(合意)をしていること

あまりに一方的に入居者に不利な内容は、「消費者契約法」によって無効とされることもあります。判断に困ったり、不当な要求だと思われるときは、消費生活センターに相談することができます。
 

まとめ

管理会社から高額な壁紙の張り替え費用を請求された際、まずは落ち着いて以下の手順で対処しましょう。


1. 詳細な明細書を請求する:張り替え面積(㎡数)、単価、工賃の内訳、そして「経過年数(入居年数)」がどのように考慮されているかを確認

2. ガイドラインに基づいて交渉する:「6年以上住んでいるので、壁紙の残存価値は1円のはずだ」「一面分以上の負担は納得できない」と、公的な基準をもとに話し合う

3. 証拠を確認する:入居時や退去時の写真があれば、提示された請求内容が実際の損傷と合致しているか照らし合わせる

4. 公的な窓口に相談する:話し合いが平行線をたどる場合は、「消費者ホットライン(188番)」に電話し、最寄りの消費生活センターへ相談

退去費用は、知識を持って交渉することで適正な金額に収めることが可能です。泣き寝入りせず、ルールに基づいた誠実な精算を目指しましょう。
 

出典

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に関する参考資料
国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)
e-Gov 法令検索 民法
東京都 賃貸住宅トラブル防止ガイドライン 第4版
国民生活センター 賃貸住宅の原状回復トラブルにご注意!
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー

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