更新日: 2020.11.13 その他暮らし
利息をもらえるどころか、おカネを取られる! マイナス金利の実態と備えておきたいこととは?
同年4月には日銀が「異次元緩和」といわれる量的・質的金融緩和の政策を導入し、そして2016年2月からは「マイナス金利」政策も始まりました。ついこの間だった気もしますが、結構時間がたっているのです。
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
聞くことはあるけれど、「マイナス金利」とは?
銀行に預金をすると利息がつきます。今や普通預金でベースが[年0.001%]など、ほぼなしにも等しいレベルですが一応つくのです。
マイナス金利はその逆で、預金などの資金を提供すると手数料のようにおカネを取られてしまう状態。個人の日常の生活では、なかなか実感のない世界です。
一方、金融ビジネスの世界ではもう珍しいことではない状況で、国債がマイナス金利で取引されることがあるとか、各銀行の日銀への預金にマイナス金利が適用されているなどの話を耳にする機会も結構あります。
日銀は「銀行の銀行」とも呼ばれていて、民間金融機関は一定額を日銀に預金することを義務付けられ、また余剰資金を預けることもあるのです。
マイナス金利の実態は?
日銀の公表値(末尾※1参照)によれば、各金融機関から日銀への当座預金でマイナス金利が適用される残高は次の通りです(一部金融機関を抜粋して表示)。
数字は次々に変動し、また銀行業態によってそれぞれ事情は異なりますが、マイナス金利の預金に巨額な残高が積まれるケースがあるのは驚きです。
実は、日銀の当座預金は次のような三層構造となっています。
(1)はもともとあった(義務ではない)残高で、(2)は預ける義務のある残高など。マイナス金利政策開始時で(1)約210兆円、(2)約40兆円でした。
市中に出回るおカネを増やすために(3)の措置で日銀への預金流入を抑制したものの、金融機関の経営に配慮してマイナスではない金利のベース部分が確保されたのです。
また、金融緩和策の一環で日銀が銀行等から国債を購入したりすると(3)の残高が増えてしまいます。
そこで、マイナス金利の影響を緩和するために「基準比率」という仕組みも当初から導入されています。(1)に対する一定比率を設定してその分は(2)のゼロ金利対象として扱う措置で、結果的に(3)の残高増加を抑制する効果があります。
こうした措置によって、マイナス金利の預金が多かった金融機関でも次のような残高状況です。
このように当座預金トータルで金利がマイナスの金融機関は、実は今のところないのです。
なお、基準比率の数値は当初のゼロから3ヶ月ごとに見直されて2019年9月時点で[37.0%]まで増えています。今後、この数値を増やせなくなると(3)の残高増加につながります。
またマイナス金利の幅が現在より増える事態も想定されます。仮に[▲0.2%]に深堀りされると、上記の例では(3)の残高が倍増するのと同じですから、信託銀行は当座預金トータルでマイナス金利となりかねない計算です。
まとめ
海外では、預金に口座維持手数料がかかるケースが見られます。
日本でも、外資系の流れをくむSMBC信託銀行で月額2000円(税抜き)、りそな銀行やローソン銀行では未利用口座に口座管理手数料として年額1200円(税抜き)などの設定例が既にあります。
今のところは一定額の預金やローンなどの取引残高があれば免除される措置もあり、目的に沿って実際に利用していれば負担せずに済むことが多いでしょう。
しかし、低金利と一部マイナス金利の長期継続による経営環境の厳しさから、各種手数料の引き上げや紙書類発行・郵送等のサービス廃止や有料化などの動きの広がりは今後も避けられない状況です。
このように、マイナス金利の影響のシワ寄せは個人の預金者にも既にきていますし、個人の預金口座にマイナス金利が普通に適用される日がこないとは断言もできないのです。
保有している銀行口座を再点検して、今の自分のニーズや生活スタイルに本当に合っているかどうかを見直し、そして必要度の低い銀行口座は整理したりもっと適していそうな銀行を選び直す。そんなことが必要なタイミングにきているのではないでしょうか?
出典
日本銀行「業態別の日銀当座預金残高」「公表データ」(2019年10月16日掲載)
日本銀行「金融政策に関する決定事項等 2019年」9月9日「日本銀行当座預金のマクロ加算残高にかかる基準比率の見直しについて」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士