銀行に預けるとお金が減る時代。海外の一部銀行ではすでにマイナス預金金利がスタート

配信日: 2019.12.13

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銀行に預けるとお金が減る時代。海外の一部銀行ではすでにマイナス預金金利がスタート
日銀がマイナス金利の導入を発表してから、来年の1月で丸4年となります。
 
これまでのところは、一般家計にとっては、住宅ローン金利の低下などのメリットの方が大きく感じられていたかもしれません。しかしマイナス金利政策が長引き、その甚大な影響はついに個人の預金にも及ぶ気配が濃厚となっています。
 
※本記事は12月4日に執筆されました
 
北垣愛

執筆者:北垣愛(きたがき あい)

マネー・マーケット・アドバイザー

証券アナリスト、FP1級技能士、宅地建物取引士資格試験合格、食生活アドバイザー2級
国内外の金融機関で、マーケットに関わる仕事に長らく従事。
現在は資産運用のコンサルタントを行いながら、マーケットに関する情報等を発信している。
http://marketoinfo.fun/

そもそも、個人の預金にマイナス金利は適用できるのか?

マイナス金利政策といっても、そもそも、預金の金利をマイナスにするということは法的に可能なのでしょうか?
 
マイナス金利と預金・貸出金利との関係については、金融法務を専門とする弁護士や学者で構成される金融法委員会が、2016年2月に一つの見解を発表しています(※1)。
 
その委員会では、預金にマイナス金利を適用することは法的に難しいとする結論が出されました。また、貸し出しや社債の金利についても、下限をゼロとみなすのが合理的だとの見方が示されました。この見解に法的拘束力はありませんが、専門家の集まりの解釈だけに、銀行業界にとっても一定の重みがあると考えられます。
 

海外の一部の銀行では、個人の預金にも実質的にマイナス金利

日本よりも一足早く、2014年6月にマイナス金利が導入された欧州では、一部の銀行が個人の預金にも実質的にマイナス金利の適用を始めました。企業向けの預金では先行して適用していた例もありましたが、厳しい経営環境が続く中、ついに個人にも負担を求め始めた形です。
 
スイス金融大手のUBSやクレディ・スイスは、200万スイスフラン(約2億2000万円)超の個人の預金残高に対して、年0.75%の手数料を11月から課すこととしました。
 
またデンマーク大手のユスケ銀行では、75万クローネ(約1200万円)を超える口座に年0.75%の手数料を12月から徴収すると発表しています。スイスとデンマークの政策金利はともに-0.75%であり、世界で最も低い水準となっています。
 
ドイツでは、国内2位の信用金庫であるベルリナー・フォルクスバンクが、10万ユーロ(約1200万円)を超える個人預金に年0.5%の手数料を課し始めました。
 
さらに別のミュンヘン近郊の小さな銀行では、今後全ての新規口座から、年0.5%の手数料を徴収するとしています。ドイツを含むユーロ圏の政策金利の下限は、現在-0.5%です。
 
マイナス金利政策のコストを個人預金にも転嫁する動きは、ドイツ国内では確実に広がりを見せているようで、11月末にドイツ連邦銀行が発表した調査結果によれば、国内の23%の銀行が個人預金の一部にマイナス金利に対応する手数料を課していると回答しています。
 

国内でも手数料徴収の地ならし始まる?

今年8月29日の講演で、三菱UFJ銀行出身の鈴木人司日銀審議委員は、「収益の下押し圧力に耐え切れなくなった金融機関が預金に手数料等を賦課し、預金金利を実質的にマイナス化させることも考えられる」と言及しました。
 
この発言からも感じ取れる通り、預金口座へ手数料を課すことに対する理解は、金融当局内で進んでいる可能性が高いと見られます。すでに2017年11月時点でも、中曽宏日銀副総裁(当時)が、「適正な対価を求めずに銀行が預金口座を維持し続けるのは困難になってきている」と講演で発言していました。
 
また、半年に一度、日本銀行が発表している金融システムレポートの2018年10月号(※2)では、米欧金融機関のリテール関連手数料徴収に対する取り組みを紹介しています。
 
そしてその最後を、「日本の金融機関においても、(中略)顧客利便性や安全性の改善につながるサービス内容の高度化に努めながら、提供するサービスの適正対価に関する顧客の理解を得ていくことが望まれる。」と締めくくっているのです。
 
ちなみに、先に書いた金融法委員会の見解の中で、「預金口座を通じたサービスの対価を預金約款に従って徴収する余地はある」ことは認められています。
 

現金の保管コストを覚悟する時代へ

今のところ、国内の大手行からはマイナス金利に対応する手数料徴収に関する正式な発表はありません。
 
一部の地方金融機関の間で、休眠口座に口座維持手数料を課す動きが見られ始めている程度です(編集部注:12月5日夕、三菱UFJ銀行が一定期間取引のない口座について、年1200円の口座管理手数料を導入する方向で検討に入ったと複数社が報道)。
 
しかし、三井住友信託銀行の橋本勝社長は、マイナス金利が深掘りされた場合、口座維持手数料の導入を検討する考えを示したと一部で報道されました(その後、同行は「現時点で導入予定はない」とコメント)。
 
銀行を取り巻く収益環境が長期にわたって悪化を続けている中、どの銀行でも何らかの口座手数料の導入を検討していると考えるのが自然でしょう。
 
マイナス金利政策の弊害に関する議論はここでは置いておくとして、現状が変わらなければ、口座維持手数料の導入は時間の問題と考えておいた方がよさそうです。
 
むしろ、日銀が現在銀行に課している-0.1%というマイナス金利をさらに引き下げる見通しとなった場合、欧州の一部の銀行のように、それに見合って上昇するような手数料体系を導入するところが出てくるのかが注目されます。
 
これからは、銀行預金は利殖のためではなく、貴重品たる現金の保管のためであると頭を切り替える必要がありそうです。預金も、コストを意識し、利用を選択する時代になったということです。
 
出典
(※1)金融法委員会 マイナス金利の導入に伴って生ずる契約解釈上の問題に対する考え方の整理
(※2)日本銀行 金融システムレポート 2018年10月号
 
執筆者:北垣愛
マネー・マーケット・アドバイザー


 

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