更新日: 2020.03.14 子育て
社会問題化する「奨学金破産」企業や自治体による返還支援制度とは
大学の授業料が高騰する昨今、奨学金を利用せず進学をするのが難しいのが現状です。一方、卒業後の若者が奨学金の返済に苦慮し、返済滞納や自己破産など社会問題化しています。
このような状況を踏まえ、経済的・心理的な負担を取り除き、従業員が安心して働くことのできる職場環境を整備し社員の定着を図るとともに、優秀な若手人材を確保するために、奨学金の返還を支援する企業や自治体が増えています。
執筆者:新美昌也(にいみ まさや)
ファイナンシャル・プランナー。
ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
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重くのしかかる奨学金の返還
日本学生支援機構の資料によると、平成29年3月に貸与が終了した奨学生(大学の学部生)の奨学金の平均貸与総額は、無利子の第一種奨学金が241万円、有利子の第二種奨学金が343万円となっています。
仮に、第一種奨学金240万円を借りた場合、毎月1万3333円を15年間返還する計算です。第二種奨学金384万円を借りた場合は、毎月1万6458円を20年間返還することになります(利率0.27%と仮定)。
もし、返還が困難になった場合、「減額返還制度」や「返還期限猶予制度」などの救済措置がありますが、3ヶ月以上延滞すると「個人信用情報機関」に登録され、ローンを組んだり、クレジットカードを利用したりすることが困難になります。3ヶ月以上の延滞者は平成29年度末、15万7000人でした。これは返還者数の3.7%です。
さらに延滞が続くと最悪、自己破産になります。奨学金返還者本人(約410万人)のうち、平成28年度に新たに自己破産となったのは2009件(0.05%)です。
民間企業の奨学金返還支援制度
各社により奨学金返還支援制度の内容は異なります。いくつか見てみましょう。
A社では、入社1年目の10月から毎月の給与に、返済支援金として3万円上乗せして支給(最長で5年間)、支給総額は最高180万円。
4年制大学、大学院の新卒入社社員が対象で、奨学金返済支援制度を利用する条件は、
(1)貸与型の奨学金であること(日本学生支援機構、地方公共団体の奨学金を原則とする)
(2)支給期間中に在籍していること
(3)必ず奨学金返済に充てること
です。
なお、一定期間の就業義務は設けておらず、返済支援金受給後に退職する場合も返還は求めることはありません。あくまで社員の経済的負担軽減と就業専念支援が目的であり、長く働いてもらえるよう企業努力をする方針とのことです。
B社では、2019年度以降に入社する正社員を対象とし、勤続3年目、5年目、7年目に、返済中の残高額に対して最大20万円ずつ(総額最大60万円)を一時金として勤続年度の賞与に加算して支給します。対象となる奨学金の種類は、日本学生支援機構の奨学金、地方公共団体の奨学金です。
C社では、2012年7月1日時点の勤続年数を計算し、勤続年数が5年と10年が経過している社員で、奨学金の返済残高のある者を対象に、奨学金未返済分に対して最大100万円(合計最大 200 万円)を支給しています。
日本学生支援機構、通学校(大学、専門学校等)、行政の貸与奨学金制度の利用者が対象です。所得税と雇用保険、社会保険(健康保険、厚生年金、介護保険 [40歳以上対象])も合わせて支給しています。
D金融機関では、奨学金返済義務のある若年層の従業員(新入社員も含む)を対象に、すでに借り入れている奨学金を共済組合で借り換えします。入行後、最長5年間は奨学金の返済を据え置きできます。
給与天引きで返済(元利均等返済)し、返済期間は20年以内(240回以内)です。また、勤続年数(経過年数)に応じて、毎年2万円(入行後10年目まで)、勤続3年で10万円、勤続6年で20万円の返済支援金(1人あたり最大50万円)が支給されます。
地方自治体が行う奨学金返還済支援制度
地方自治体では企業への補助金や助成金を通じて、社員の奨学金返還を支援しています。
山口県高度産業人材確保事業奨学金返還補助制度、鳥取県未来人材育成奨学金助成金、徳島県奨学金返還支援制度、香川県の日本学生支援機構第一種(無利子)奨学金を活用した返還支援制度「大学生等かがわ定着促進基金」、富山県理工系・薬学部生対象奨学金返還助成制度、新潟県Uターン促進奨学金返還支援事業などがあります。
例えば、山形県若者定着奨学金返還支援事業では、山形県における将来の担い手となる若者の県内定着・回帰を促進するため、県内の高等学校等を卒業した大学生等を対象に、県・市町村・産業界等が連携して奨学金の返還を支援しています。
支援の対象となる奨学金は日本学生支援機構の第一種・第二種奨学金、県内の市町村が実施する奨学金です。支援金額(上限)は、2万6000円×支援対象の月数、または、奨学金の返還残額のいずれか低い額を、県内に居住・就業して3年経過後に奨学金貸与機関に一括で支払う、となっています。
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー