「枚数を割増してサービス」していた回数乗車券。新しく始まった「枚数は変えずに金額をサービス」するタイプとは?
配信日: 2020.04.19 更新日: 2020.04.20
執筆者:上野慎一(うえのしんいち)
AFP認定者,宅地建物取引士
不動産コンサルティングマスター,再開発プランナー
横浜市出身。1981年早稲田大学政治経済学部卒業後、大手不動産会社に勤務。2015年早期退職。自身の経験をベースにしながら、資産運用・リタイアメント・セカンドライフなどのテーマに取り組んでいます。「人生は片道きっぷの旅のようなもの」をモットーに、折々に出掛けるお城巡りや居酒屋巡りの旅が楽しみです。
鉄道の回数券のおトク度とは?
そこまでの利用頻度がない場合でも、“まとめ買い”しておトクになるのが回数券(回数乗車券)でしょう。例えば、東京メトロで販売されているものは、次の3つのタイプです。
<普通回数券>
・発売金額など 乗車区間の普通運賃を10倍した額で11枚
(割引率:約9.1%)
・利用時間など 制限なし
・設定 大人、小児
<時差回数券>
・発売金額など 乗車区間の普通運賃を10倍した額で12枚
(割引率:約16.7%)
・利用時間など 平日の10時から16時
土曜、日曜、祝日、休日、12月30日、12月31日、
1月 2日、1月3日の終日
・設定 大人
<土・休日割引回数>
・発売金額など 乗車区間の普通運賃を10倍した額で14枚
(割引率:約28.6%)
・利用時間など 土曜、日曜、祝日、休日、12月30日、12月31日、
1月2日、1月3日の終日
・設定 大人
例えば、大人普通運賃で切符200円(ICカード199円)の区間ならば、おトク度は次のようになります(小数点以下は四捨五入して単価を表示)。
<普通回数券>:11枚
・1枚あたり182円(切符より18円割安)
<時差回数券>:12枚
・1枚あたり167円(切符より33円割安)
<土・休日割引回数券>:14枚
・1枚あたり143円(切符より57円割安)
有効期間は発売日から3ヶ月で、同じ運賃区間であればどこでも使えます。さらに金券ショップに行けば、上記が例えば【普通回数券190円、時差回数券180円、土・休日割引回数券170円】といった価格でバラ売りされていて、1枚から利用することもできます。
かなりおトクな料金設定で、バラ売りを買えばその都度だけの利用もできるなど、使い勝手も悪くないといえるでしょう。なお、JR東日本の普通回数乗車券は200キロ以内の区間で発売されていますが、乗車区間が指定されているタイプです。
また多くの私鉄などでも3タイプが発売されていますが、乗車区間が指定されているケースが少なくありません。
今年4月から登場した新タイプとは?
このような従来の鉄道回数券に比べて少しユニークなのが「小田急電鉄チケット10」(※)で、今年4月1日から発売開始されました。従来と同じく3つのタイプが用意されていますが、その特徴は次の点です。
(1)枚数は3タイプとも10枚に統一
(2)有効期間は2ヶ月に統一
(3)枚数分の各回数券のほかに、使用条件などを記載した「表紙券」を1枚発行
(1)ですが、従来は価格を統一(10枚分)したうえで増やす枚数で割引率を変えていましたが、枚数を10枚に統一し価格で割引率を変えているのが特徴。同電鉄の大人普通運賃190円区間で1枚当たり単価(小数点以下は四捨五入)の変化を比較すると、次のとおりとなります。
[従来回数券] [新回数券]
<普通回数券> 173円 172円
<時差回数券> 158円 158円
<土・休日割引回数券> 136円 135円
(2)の有効期間は2/3に短縮され、少し消化しづらくなりました。そして、もっと気になるのが(3)です。新回数券は、従来と同様に磁気券対応の自動改札機を利用しますが、その際に先ほどの表紙券を持参しなければなりません。
表紙券を持つ人と同時であれば複数人での利用が可能ですが、利用の際に表紙券を確認される場合があるそうです。従来の回数券にはなかったことで、先ほども触れたような“回数券をバラ売りする行為”を制度上は閉ざしているようにも見えます。
まとめ
1枚当たり単価ではあまり変化はないようですが、従来よりも割引率は少し高まり(一部、割引率の変わらない区間あり)、10枚セットに統一したことで分かりやすくなったのです。
一方、有効期間が短縮され、何よりも表紙券の持参が義務化された点は、利用者にとって改良・改善とはいい切れない面があります。
今回の制度変更は、回数券発売について固定する対象を【総額】から【枚数】に変えたものですが、使い勝手の面でもかなりの変質が感じられます。他の鉄道会社にもこうした動きが広がっていくのかどうか、少し気になるところです。
※2020/04/20 記事を一部修正いたしました。
[出典]
(※)小田急電鉄株式会社「『小田急チケット10』3種を2020年4月1日(水)から発売します」
執筆者:上野慎一
AFP認定者,宅地建物取引士