老朽化マンションが危ない! 相続を躊躇する人も増加中?

配信日: 2020.10.22

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老朽化マンションが危ない! 相続を躊躇する人も増加中?
昭和40年代から急速に建設が進んだマンション。最近では築50年を超える物件も増えています。
 
居住者が亡くなった後も、相続を躊躇し放置されたり、居住者が移転し空室となったマンションも見られます。一戸建て住宅に比べ、改修も思うように進まず放置された状態が続くと、さまざまな問題が起こります。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

築年数とともに改修や解体に課題が

例えばURのように管理機能が整備されていれば、改修や解体も住民合意のもとに進めることが、ある程度可能です。しかし民間業者が建設し販売したマンションは、よほどの施工ミスでもないかぎり、販売後の管理業務は購入者任せとなり、通常の管理などは住民の「管理組合」と委託された「管理会社」で行うことになります。
 
管理組合が機能し、改修工事や建て替え計画などもつくり、対応できればよいのですが、管理組合が機能していないマンションも散見されます。住民が亡くなった後も、相続人自身が居住しないどころか、登記もせずに放置された居室が多くなると問題が起こります。
 
建て替えはもちろん、修繕も希望しない居住者もいます。「子どもがいないので、死後のことは考えない」とする居住者が増えると問題です。相続人がいない、売却もせずに退去し空室となった、といったマンションへは新たに入居しづらくなります。
 
未登記の空室が増えてしまう事態は、避ける必要があります。行政は、相続税法の改正に伴い、登記の義務化を進めようとしていますが、一戸建て住宅の登記に比べ、老朽化したマンションの相続・登記には、尻込みをする人も多いようです。
 

解体となると費用も高額に

現在では、築40年程度のマンションの多くは、すぐに解体という事態にはなりません。しかし築年数が50年、60年を超えるマンションが今後増えてくると、資産価値も下がり建て替えができずに、解体だけが求められるケースが確実に増加すると思われます。戸建て住宅と違い、解体費用も高額になります。
 
新聞報道などで紹介されましたが、滋賀県野洲市の老朽化し鉄骨がむき出しとなった倒壊寸前の危険なマンション(3階建て9戸)を、市の行政代執行で解体しました。1億1800万円の費用がかかったため、市は所有者1人につき1300万円を請求しました。所有者の所在がわからず現在も捜索しており、もし所有者にたどり着けない場合は、市の税金が投入されることになります。
 
いずれにせよ改修を定期的に行い、マンションの寿命を延ばすことができていれば、当面は居住できます。しかし建て替えができずに解体となる場合は、解体費用は覚悟しておく必要があります。そのため、今後はマンションを放棄し退去する人や、所有者が亡くなって後に、相続人が相続放棄するケースも増えるかもしれません
 

登記の義務化も現在は道半ば

築年数が古いマンションでも、空室が少なく所有者がわかっていれば、行政も比較的安心です。しかし実際は築年数が40年以上のマンションは全国に90万戸以上あり、その10%以上の居室が所有者不明となっており、築50年を超えると約20%が所有者不明と推定されます。
 
特に郊外型のマンションや小規模マンションの中には、管理組合が十分に機能しておらず、補修や修繕が十分に進まないまま空室が増え、相続時に登記がされずに放置されているケースが目立ちます。
 
相続をしても登記は現在は任意のため、登記をしなくても罰則はありません。マンションを所有していた親が亡くなった後に、相続放棄はもちろん、相続しても登記をしないことも可能なのです。
 
こうした事態を減らすために、国は相続法の中に登記の義務化を進めようとしています。また現状では、老朽化マンションから退去し、空き家にすることも可能です。住まいを転々とすることで、逃げ得になるかもしれません。
 
特にマンションが法人名義で登記されていると、その企業が移転や社名変更を繰り返すことで、マンションとは無関係かのように行動ができるのです。
 

建て替え要件の緩和と管理組合の責任強化

国は建て替え要件の緩和をしつつ管理組合の責任強化に乗り出し、相続の円滑化と空き家問題の解決を目指しています。現在マンションの建て替え要件として、全体の5分の4の賛成が必要です。高齢で建て替えに反対の人もいるので、かなりのハードルです。
 
一方で、敷地自体の分割を可能にする、建て替えに時には容積率を緩和する、などが決められました。今後は建て替え要件を緩和し、3分の2以上にすることも検討されています。
 
管理組合の責任も重大になってきました。管理会社任せではなく、外壁の修繕や、庭やエレベーターなど共有部分の補修などのハード面はもちろん、現金出納簿や総会議事録の管理、修繕積立金の実情把握などソフト面での主体的責任も課せられます。
 
通帳と印鑑を1人の人間で管理することなど問題外です。居住者1人ひとりが「管理会社に任せておけば大丈夫」では済まされなくなっています。
 
行政もこれまでの姿勢を改め、マンション管理組合の責任には目を光らせるようになりました。ハード面・ソフト面双方の実情把握に努め、将来の建て替えに向けた資金計画などが円滑にできる体制をつくろうとしています。マンションの管理状況に関する書類の提出を義務づける自治体も増えてきました。
 
新規購入者も、そうした管理・運営が実行されている中古マンションの資産価値は評価され、購入時に役立つ情報を得ることができます。新規購入の際に選別基準が明確となり、相続財産としても認められると思われます。今後はこうした管理・運営ができないマンションは、生き残れなくなると思われます。
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。


 

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