更新日: 2023.10.23 子育て
育児休業を延長したら、会社から給料を下げられた! そんな場合の対処法って?
この記事では、育児・介護休業法の改正内容と、育児休業給付金を受給するための要件と受給手続きについて詳しく解説します。
執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士
元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/
育児・介護休業法の改正
男女とも仕事と育児を両立できるように、令和3年に育児・介護休業法が改正され、育児休業に関する規定も大幅に見直されました(※1)。
主な改正内容は、以下のとおりです。
育児休業の分割取得と取得時期の柔軟化
改正前は育児休業を分割して取得することはできませんでしたが、同一の子について2回まで分割して取得することができるようになりました。また、1歳以降に育児休業を延長する際の申請は、1歳と1歳半の時点に限られていましたが、改正により状況に応じて育児休業の開始日を柔軟に設定できるようになりました。
産後パパ育休の創設
男女とも仕事と育児を両立できるように、産後パパ育休(正式名称は「出生時育児休業」)が創設されました。それにより、男性が従来の育児休業とは別に、子の出生後8週以内で4週間の育児休業を取得することができるようになりました。なお、産後パパ育休も2回まで分割取得することができます。
また、産後パパ育休に対しても「出生時育児休業給付金」が支給されますが、今回の記事では説明を割愛させていただきます。
育児休業給付金の受給要件
育児休業給付金を受給するためには、以下の全ての要件を満たす必要があります。
育児休業を取得した、雇用保険の被保険者であること
育児休業給付金の支給対象となる「育児休業」とは、以下のどちらにも該当する休暇です。
ア 事業主が取得を認めた育児休業
イ 当該休業に係る子が1歳(父母ともに育児休業を取得する場合は1歳2ヶ月、延長が認められた場合は最長2歳)になるまでにあるもの
なお、産後休業(出産日の翌日から8週間)は、育児休業給付金の対象外となります。しかし、健康保険からの出産手当金の受給は可能です(※3)。
育児休業を取得する直近2年間に、11日以上働いた月が12ヶ月以上あること
休業開始日前2年間に賃金支払い基礎日数が11日以上(または賃金支払いの基礎となった時間数が80時間以上)の月が、12ヶ月以上あることが要件となります。なお、病気などやむを得ない理由により30日以上賃金の支払いを受けることができなかった場合は、最長で4年間を対象期間とすることができます。
育児休業中の就業日数が月10日以下または就業時間が月80時間以下であること
支給単位期間(育児休業を開始した日から起算して1ヶ月ごとの期間)中の就業日数が10日以下、または就業時間数が80時間以下であることが支給要件となります。
育児休業終了後も雇用契約が継続すること
養育する子が1歳6ヶ月(延長が認められた場合は2歳)に達する日までの間に、労働契約(労働契約が更新される場合は更新後の契約)が満了しないことが支給要件となります。
育児休業中の給料が、休業開始時賃金月額の80%未満であること
育児休業中に支払われる給料が、休業開始時賃金月額の80%以上支払われる場合は、支給されません。
育児休業給付金の支給額と申請手続き
育児休業給付金は、原則として2つの支給単位期間ごとに申請手続きを行い、支給単位期間ごとに以下の額が支給されます(※2)。
支給額
支給単位期間ごとに支給される育児休業給付金の額は、下式のとおりとなります。
支給額=休業開始時賃金日額(注1)×支給日数(注2)×67%(注3)
注1:休業開始時賃金日額とは、同一の子に係る育児休業開始前直近6ヶ月間に支払われた賃金の総額を180で除した額となります。
注2:支給日数は原則30日で、休業終了日が属する支給単位期間は休業終了日までの日数になります。また、支給単位期間の途中で離職した場合、喪失日の属する支給単位期間の前の支給単位期間までが支給対象です。
注3:育児休業開始から181日目以降は50%となります。
事業主から育児休業中に給料が支払われた場合は、表1のとおり育児休業給付金が減額されます。
表1
支払われた賃金の額 | 給付金の支給額 |
---|---|
「休業開始時賃金月額」 の13%(30%)以下 |
休業開始時賃金日額×休業期間の日数 ×67%(50%) |
「休業開始時賃金月額」 の13%(30%)超~80%未満 |
休業開始時賃金日額×休業期間の日数 ×80%-賃金額 |
「休業開始時賃金月額」の80%以上 | 支給されません |
( )内は、育児休業の開始から181日目以降の数字となります。
申請手続き
(1)育児休業開始時の申請
事業主は、育児休業を付与した時点で、育児休業給付金の受給資格確認の手続きと支給申請を行います。
育児休業給付金の受給資格が認められると、被保険者には「育児休業給付受給資格確認通知書」および「育児休業給付金支給決定通知書」が交付されます。
(2)2回目以降の支給申請
育児休業給付金の申請は、原則として2ヶ月に一度行います。被保険者には2ヶ月に一度、2ヶ月分の給付金が指定口座に振り込まれます。
ただし、被保険者が希望する場合は、1ヶ月に一度申請することもできますので、希望する場合は事業主に申し出るとよいでしょう。
(3)支給期間の延長手続き
保育所での保育が受けられない場合などには、その子が1歳6ヶ月になるまで育児休業を延長することができます。さらに、その後も保育が受けられない場合は、最長でその子が2歳になるまで育児休業を延長することもできます。
保育を受けられないことなどを理由に育児休業を延長する場合は、事業所の所在地を管轄するハローワークに事業主が「育児休業給付金支給申請書」を提出して申請する必要があります。この際、延長理由に該当することを確認できる書類(保育所入所保留通知書など)を添付する必要があります。
まとめ
育児休業は、子を養育するために労働者が取得することができる権利です。事業主には、育児休業中の労働者に給料を支払う義務はありません。その代わりに、雇用保険から育児休業給付金が支給されます。
育児休業中に会社からの給料が減額された場合などは、育児休業給付金を受給することで対処をしましょう。
出典
(※1)厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
(※2)厚生労働省 育児休業給付の内容と支給申請手続
(※3)全国健康保険協会 出産手当金について
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士