【実例】住宅ローン控除と確定拠出年金 陥りやすい節税の落とし穴とは?
配信日: 2019.01.04 更新日: 2021.02.12
今回は、ファイナンシャル・プラニングに際し、よくあるご相談を例として取り上げてみます。そこから、住宅ローン控除などの節税についての考え方や、ライフプランについて考えてみたいと思います。
執筆者:重定賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
明治大学法学部法律学科を卒業後、金融機関にて資産運用業務に従事。
ファイナンシャル・プランナー(FP)の上級資格である「CFP®資格」を取得後、2007年に開業。
子育て世帯や退職準備世帯を中心に「暮らしとお金」の相談業務を行う。
また、全国商工会連合会の「エキスパートバンク」にCFP®資格保持者として登録。
法人向け福利厚生制度「ワーク・ライフ・バランス相談室」を提案し、企業にお勤めの役員・従業員が抱えている「暮らしとお金」についてのお悩み相談も行う。
2017年、独立行政法人日本学生支援機構の「スカラシップ・アドバイザー」に認定され、高等学校やPTA向けに奨学金のセミナー・相談会を通じ、国の事業として教育の格差など社会問題の解決にも取り組む。
https://fpofficekaientai.wixsite.com/fp-office-kaientai
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ローン控除額が減るから確定拠出年金に加入したくない?
節税は悪いことではありませんが、「節税ありき」で国の制度を活用する考え方が広がってしまっているのではないでしょうか。それが、本来の制度設計の目的にそぐわない結果をもたらしているのではないかと、ファイナンシャル・プラニングの実務を通じて感じています。
まずは、所得税の計算式を簡単におさらいしてみましょう。
(1)収入-控除=課税所得額
(2)課税所得額×所得税率=所得税
(3)所得税-税額控除
よくあるご相談の例として、「夫が会社で確定拠出年金に入ることになりました。知り合いから住宅ローン控除の金額が減るからやめた方がいいと言われましたが、どうすればいいでしょうか」というご質問です。
このケースの場合、所得税をいかに節約するかというところに力点が置かれています。少し整理してみましょう。
まず、確定拠出年金の掛け金は、所得税の計算過程では(1)に該当しますが、この中で「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除されます。これを活用すると、「結果的に」納める所得税は少なくなります。
次に、「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」ですが、所得税の計算過程では(3)に該当します。これは税額控除のひとつであるため、算出された所得税から税額控除として住宅ローン控除の金額が差し引かれます。
これについては、所得税から直接差し引かれますが、「結果として」納めた所得税が戻ってくる(所得税の還付)可能性があるため、こちらも節税効果としては高いと言えます。
ご相談された方は、このような話をどこかで聞いて、「どっちの方が得かな?」と思ってしまったわけですが、そもそも「小規模企業共済等掛金控除」と「住宅ローン控除」は目的が違います。
前者は老後の生活資金を補うためのもの、後者は住宅ローンを借りているご家庭の生活負担を和らげるためのものです。
そして、「小規模企業共済等掛金控除」は「所得控除」として、「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」は「税額控除」として、「結果的に」所得税が軽減されるという制度です。
このようなことから、このご質問の答えとしては、「住宅ローンを組んでいても、家計にとって負担にならなければ、老後の生活資金を補うために確定拠出年金に入ればいい」ということになります。
節税にとらわれすぎないことが大切
相談者のご質問の趣旨としては、「住宅ローン控除の適用を受けている中、確定拠出年金に入った場合と入らなかった場合、所得税がどれぐらい違うのか知りたい」ということですが、これは今の家計だけを中心にした考え方です。
対象としているものが今の家計なら所得税の計算をして金額を比べれば済みますが、将来の家計にかかわる確定拠出年金を比較対象としているため、単純に税金だけで計算できる話ではありません。
ということは、このご質問について答えを導くためには、老後にわたる長期のライフプランを作成し、それにもとづいて資金シミュレーションをしないと、答えが出ないということになります。
ほかのケースでもよくあることですが、節税にとらわれると、問題の本質を見失い、必要な答えを逃してしまいます。この点には気をつけて、税金と向き合うようにしていきましょう。
次回は、住民税における住宅ローン控除のあつかいについてお伝えしていきます。
Text:重定 賢治(しげさだ けんじ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP)
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