更新日: 2023.07.10 教育ローン

日本学生支援機構の奨学金は優れたローン制度。活用しない手はない?

日本学生支援機構の奨学金は優れたローン制度。活用しない手はない?
進学後の教育資金の不足額を賄う借入制度には、保護者が借りる教育ローンと学生本人が借りる奨学金があります。
 
日本学生支援機構の貸与奨学金に対して「学生に多額の借金を負わせるのはいかがなものか」といった批判もありますが、借金(ローン)の中では最も優れています。
 
借金はしないに越したことはありませんが、大学進学には、「資格取得に有利」、「就職対象の企業の選択肢が広がる」、「人脈が広がる」などのメリットがあります。資金が足りず大学進学を諦めるのではなく、奨学金を有効活用すれば未来への投資になります。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

日本学生支援機構の貸与奨学金の特徴

日本学生支援機構の資料(※)によると、貸与奨学金には、以下のような一般的な民間金融機関のローンにはない特徴があると紹介しています。
 

(1)無与信で、かつ、所得が一定以下である世帯の学生に限定して貸与していること
(2)採用に当たっては、学業成績や意欲に関する基準を設けていること
(3)在学中、学業成績や修学状況を確認し、奨学生としての適格性をチェックしていること
(4)優れた業績を上げた大学院生に対する返還免除制度があること
また、貸付条件についても、
(1)無利息又は低利で貸与していること
(2)返還困難な場合の減額返還制度や返還期限猶予制度があること
(3)最長で20年間という長期間の返還期間を設定していること
(第一種奨学金(無利子)の場合は、所得に応じて月々の返還額が変動する「所得
連動返還方式」も選択可能)
(4)延滞した場合、民間金融機関のローンや国税、公共料金などと比較して低率な延
滞金(遅延利息)を設定していること
など、様々な側面から返還中の方の負担軽減に努めています。

 
※引用:日本学生支援機構の奨学金事業について【Q&A】より抜粋
 
この中から、いくつか詳しくみてみましょう。
 

本人の与信不要

一般的に金融機関が融資を行う場合、貸したお金の回収を確実にするために、資金使途や返済能力などを基に、どの程度信用を与えるか(与信限度額)厳格な審査が行われます。信用力が高ければ融資額は大きく、信用力が低ければ融資額は低くなります。
 
しかし、貸与奨学金の場合、借りる本人は学生なので、返済能力等を審査することはできず本人の与信は不要となっています。
 
たとえば、有利子の第二種奨学金の月額貸与額は2万円~12万円(1万円単位)ですが、12万円を選択した人が2万円を選択した人に比べ不利になるということはありません。
 

利率(金利)が他のローンに比べ圧倒的に低い

教育ローンの金利をみてみましょう(2023年7月)。都市銀行の教育ローンの金利(保証料込み)を見ると、固定金利は4.45%、変動金利は2.200%~4.475%となっています。
 
なお、銀行により、住宅ローンの契約者には金利を割り引くなど金利の優遇措置がある場合があります。
 
なお、申込時ではなく、融資実行時点の金利が適用されます。また、融資額の上限は銀行により300万円または500万円、返済期間は6ヶ月以上10年以内(1ヶ月単位)となっています。
 
国の教育ローンは、固定金利(保証料別)1.95%です。変動金利型はありません。融資限度額は原則350万円、返済期間は18年以内です。
 
奨学金の場合は、借入総額に応じて返還期間は9年~20年に決まります。返還期間は任意に設定できません。利率は卒業など貸与終了時に決まります。したがって、在学中は無利子です。また、利率の上限が3%と定められていますので、将来の市場金利が上昇して3%を超えても安心です。
 
利率の算定方式は、利率固定方式と利率見直し方式(おおむね5年ごとに利率を見直す)があります第二種奨学金の貸与利率(2023年6月)は、固定利率方式0.537%、利率見直し方式は0.050%となっています。
 
このように奨学金の利率は、他の教育ローンに比べて圧倒的に低利です。
 

所得連動返還方式

返還方式には、貸与総額に応じて毎月の返還額が一定の「定額返還方式」と、前年の課税対象所得に応じて毎月の返還額が増減する「所得連動返還方式」があります。有利子の第二種奨学金は「定額返還方式」のみですが、無利子の第一種奨学金は「定額返還方式」のほか、「所得連動返還方式」(保証制度は機関保証のみ)も選択できます。
 
「所得連動返還方式」の最低返還月額は月額2000円です。なお、返還初年度のみ定額返還方式で算出した金額の半分または2000円が返還月額となります。
 

返還が困難になったときの救済措置

返還が困難になったときの救済措置が制度化されているのも奨学金の特長といえます。災害、傷病、その他経済的理由により奨学金の返還が困難になった場合、「減額返還制度」と「返還期限猶予制度」があります。
 
当初の返還月額を2分の1または3分の1に減額して返還するのが「減額返還制度」です。経済的事由の場合は、目安として所得証明書等の年間収入金額325万円以下(給与所得以外の所得を含む場合は年間所得金額225万円以下)が対象です。1年ごとの願出で、通算適用期間は15年(180ヶ月)が限度です。
 
また、一定期間返還を待ってほしい場合に利用できるのが「返還期限猶予制度」です。経済的事由の場合は、目安として所得証明書等の年間収入金額300万円以下(給与所得以外の所得を含む場合は年間所得金額200万円以下)が対象です。
 
1年ごとの願出で、適用期間は通算10年(120ヶ月)が限度です。ただし、災害、傷病、生活保護受給中、産前休業・産後休業および育児休業、一部の大学校在学、海外派遣の場合は10年の制限がありません。
 

企業の奨学金返還支援(代理返還)制度

社員に対して貸与奨学金の返還額の一部または全額を支援する企業が増えています。これまでは各企業から社員の方に直接支援する方法のみでしたが、2021年4月より企業から日本学生支援機構に直接送金できるようになりました。
 
本制度のメリットは、従業員にとっては、支援を受けた額は「学資に充てるための費用を支出したとき」として所得税が非課税となり得ますし、確実に返還できます。また、企業にとっては、学支に充てる費用となるため、損金算入ができ、法人税の節税になりますし、人材獲得にも役立つでしょう。
 

まとめ

借金自体は、良いも悪いもありません。要は使い方次第です。学びたいことがあるのに、借金が嫌だから大学進学を諦めるというのは後悔の原因になります。奨学金という最も有利な貸付制度を有効活用して夢を実現しましょう。
 
なお、奨学金は、進学後にしか利用できませんので、進学前の教育資金の不足分は教育ローンで賄います。
 

出典

日本学生支援機構ホームページ
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー
 

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