更新日: 2023.11.30 教育ローン
奨学金は「繰り上げ返済をしない方が得をする」とSNSで見ました。それって本当?
執筆者:柘植輝(つげ ひかる)
行政書士
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。
かつて「奨学金を繰り上げ返済すべき」といわれていた理由
昔は「奨学金は繰り上げて早めに返済すべき」と言われていました。その理由はいくつか考えられます。
最も多く考えられるものに、利息の存在があります。日本学生支援機構の第二種奨学金における利息は0.5%から3%です。仮に月額10万円借りていたとして、返済時の利率を1%で考えると、貸与総額は48ヶ月間で480万円になり、それに対して返済総額は532万1420円になります。
上記条件で借り入れし、機関保証制度を利用している場合、繰り上げ返済によって返済期間が短縮されると保証料が返還されます。それによって月額保証料5491円が節約できるという理由もあります。
また、奨学金の長期間返済が続くことによる心理的圧迫や結婚への影響を恐れて、繰り上げ返済を検討する方もいるでしょう。現実的なところでは「住宅ローンを組む際にも奨学金の有無が審査の材料とされるので、その影響を避けるため」という理由もあるかもしれません。
「奨学金を繰り上げ返済しない方が得をする」といわれる理由
上記のように、奨学金を繰り上げ返済することには、一定の理由があるようです。にもかかわらず、なぜ「繰り上げ返済しない方が得をする」といわれるのでしょうか。その理由には「現金を投資で運用するため」というものが考えられます。
近年は、iDeCoやNISAといった、税制優遇を受けながら資産運用のできる制度が、人気を集めています。過去30年の実績でいうと、全世界株式の指数に連動する投資信託で運用すれば、平均で年率7.7%のリターンが得られるようです。これは奨学金の利率よりはるかに高いリターンです。
そのため、理論上は、奨学金の支払いは最低限に抑え、資金に余裕があれば繰り上げ返済ではなく投資に回した方が得をする、ということになります。このようなことから「奨学金は繰り上げ返済をしない方が得をする」といわれるのです。
他にも「早く起業するための資金をためたい」、「自己投資をして出世するために、お金を稼げるようになってから返した方が、トータルで得をする」という理由で、繰り上げ返済をしない方がよいと考えている方もいるようです。
例えば、月給22万円からコツコツと毎月2万円を10年間繰り上げ返済していったとしましょう。すると繰り上げ総額は240万円です。同じ金額であれば、返済に回すよりも、これを元手に起業したり自己投資に充てたりして、月に80万円や100万円稼げるようになる方が、長い目で見ると得をする、と考えられるのです。
結局のところ、繰り上げ返済はするべきなのか
奨学金の繰り上げ返済をする方がよいかどうか、それについては明確な答えがないというのが現実です。「繰り上げ返済をするべきである」という意見も、「繰り上げ返済はしなくてもよい」という意見も、一定の納得できる理由があります。
迷っているのであれば、基本的には繰り上げ返済をせず、奨学金のモデルケースとして示されている返済例に従い、無理のない範囲で計画的に返済していく方が無難でしょう。
利息の金額も元本の0.5%から3%と、一般的な借り入れに比べて低率であり、無理に繰り上げ返済をする必要もないでしょう。同様に、何か目的があり、そちらにお金を使いたい場合も、繰り上げ返済しない方が無難です。
一方で、「奨学金の返済を抱える心理的負担を軽減したい」、「リスクをできる限り取らずに、利息分の返済額を減らしたい」というのであれば、繰り上げ返済をしてもよいでしょう。
まとめ
「奨学金を繰り上げ返済しない方が得をする」といわれる理由は、主にその繰り上げ返済に回せる分を投資や起業資金に充てることで、金利分を上回るリターンを得られる、という点にあります。
しかし、それらは必ず想定どおりのリターンが得られるとは限りません。繰り上げ返済する場合もしない場合も、他者の意見に流されることなく、両者によって得られるメリットとデメリットを考慮し、自分の考えに沿った方を選ぶことが大切です。
出典
独立行政法人日本学生支援機構 大学・返還例
独立行政法人日本学生支援機構 2023年度 保証料月額(目安)
執筆者:柘植輝
行政書士