更新日: 2023.12.29 住宅ローン

「家賃と同額程度の返済額で住宅を買えます」 家賃と同じくらいの住宅ローンは危険でしょうか?

「家賃と同額程度の返済額で住宅を買えます」 家賃と同じくらいの住宅ローンは危険でしょうか?
「家賃と同額程度の返済額で住宅を買えます」という不動産広告を目にすることがあります。毎月の返済額が家賃とほぼ変わらないなら、ローンで住宅を購入しようと考える人もいるでしょう。
 
しかし、住宅ローンの利用や住宅の所有に当たっては、賃貸とは異なるさまざまな費用がかかります。本記事では、住宅ローンを組んで住宅を購入し、所有する場合の注意点について解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
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住宅購入時に必要となる諸費用と借入金利

住宅の購入に際しては、物件の価格に諸費用を加えた購入価格を準備する必要があります。また、住宅ローンの借入金利は、融資率(購入価格に占める借入金額の割合)に応じて変わります。
 

1. 諸費用

住宅を購入する際には、仲介手数料、印紙税、登録免許税、不動産取得税、住宅ローンの融資手数料(事務手数料、保証料)といった諸費用がかかります。諸費用は、金融機関や物件の種類、住宅ローンの内容でも変わりますが、物件価格の3~10%程度が目安となります。
 
また、新築マンションを購入する場合は、将来の大規模修繕の費用に充てるための修繕積立基金を諸費用として支払う必要があり、金額は物件の立地や規模などによって20万~40万円程度となっています。
 

2. 頭金

頭金とは、住宅ローンを借り入れる際に購入価格の一部に充当するお金で、頭金が多ければ借入額を減らして融資率を抑えられます。
 
最近では、頭金がなくても購入価格の全額を住宅ローンで賄うことができますが、融資率が9割を超えると図表1(長期金利固定型住宅ローン「フラット35」の例)のように、住宅ローンの借入金利が一般的に高くなります(※1)。
 
図表1

    

【フラット35】取扱金融機関の金利の範囲と最も多い金利(2023年12月20日現在)
融資率 金利の範囲 最も多い金利
9割以下(頭金1割以上) 年1.910%~年3.470% 年1.910%
9割超(頭金1割未満) 年2.050%~年3.610% 年2.050%

※借入期間は21年以上、35年以下
※住宅金融支援機構「最新の金利情報:長期固定住宅ローン【フラット35】」を基に筆者作成
 
したがって、融資率を9割以下に抑えられる頭金を準備できなければ借入金利が高くなるため、毎月の返済額が同じく家賃と同額程度でも、住宅ローンで借り入れ可能な金額は少なくなります。また、金利が高ければ、借入額に対する総返済額(元金に支払利息の総額を加えた額)が多くなります。
 
家賃10万円の方が、毎月の返済額10万円でフラット35(返済期間35年)を利用して住宅ローンを組む場合、融資率の違いによる借入可能額や購入できる物件の価格、総返済額を比較すると図表2のとおりになります。
 
図表2

融資率 10割 9割
借入金利(注1) 年2.050% 年1.910%
借入可能額(注2) 2995万円 3061万円
頭金の額 0円 341万円(注3)
購入可能な物件価格 2995万円 3402万円
総返済額(注4) 4200万円 4200万円

注1:フラット35の最も多い金利(2023年12月20日現在)
注2:(※2)のローンシミュレーションを使用して計算
注3:借入可能額の1割相当の額
注4:(※3)のローンシミュレーションを使用して計算
 
※筆者作成
 
すなわち、341万円の頭金を準備することができれば、毎月10万円の返済額で3402万円の物件を購入できますが、頭金がない場合は毎月の返済額、総返済額が同じでも、2995万円の物件しか購入できないことになります。
 

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住宅の所有に伴う必要経費

住宅を所有することによって、賃貸住宅では必要がなかった費用が新たにかかります。
 

1. 固定資産税・都市計画税

土地や家屋などの不動産を所有すると、固定資産税と都市計画税が課税されます。税額は、固定資産の評価額(課税標準額)に固定資産税は1.4%、都市計画税は0.3%(市町村により異なる)の税率を掛けて求められます。
 
ただし、新築住宅では特例により、固定資産税が3年間(マンション等の場合は5年間)は2分の1に減額されます(※4)。特例の適用期限は、令和6年3月31日です。 また、住宅の所在地によっては都市計画税が課税されない場合があります。
 

2. 管理費と修繕積立金

マンションを購入して居住する場合、毎月の管理費と大規模修繕の費用に充てる修繕積立金を支払う必要があります。
 
5年に一度行われる国土交通省の「マンション総合調査(平成30年度)」によると、全国のマンションにおける平均額は、管理費が月額1万5956円、修繕積立金が月額1万2268円となっています(※5)。
 
なお、一戸建て住宅であっても、将来の修繕に必要な資金を自分自身で積み立てておく必要があるでしょう。
 

経済動向などに関する注意点

今後の経済動向などによって収入が減ったり、住宅ローン金利が上昇したりすることが考えられます。
 

1. 収入減少の影響

経済動向のほか、例えば病気やけがで就労できなくなって収入が減少した場合、賃貸住宅であれば家賃の安い物件に転居することが可能ですが、持ち家の場合は住宅ローンの返済が困難となり、売却を余儀なくされるケースも考えられます。
 

2. 住宅ローン金利上昇の影響

国土交通省の「民間住宅ローンの実態に関する調査」(令和4年度)では、令和3年度に住宅ローンを借り入れた方の76.2%が変動金利型の住宅ローンを利用しており、全期間固定金利型を利用した人は3.4%にとどまっています(※6)。
 
経済動向によって住宅ローン金利が上昇した場合、変動金利型で住宅ローンを借り入れている方は返済額が増加します。その結果、住宅ローンの返済が家計を圧迫し、状況によっては自宅の売却を検討しなければならなくなることもあるでしょう。
 

まとめ

毎月の返済額が家賃相当額であれば、住宅ローンで持ち家が手に入ると安易に考えることには注意が必要です。
 
なぜなら、住宅の購入では物件の価格に諸費用を加えた購入価格を支払う必要があり、住宅ローンの借入金利を低く抑えるためには、購入価格に対して十分な頭金を準備する必要があります。さらにローンの返済以外にも、住宅の所有に伴う税金や管理費・修繕積立金といった経費が生じるためです。
 
また、経済動向などによる収入の減少や住宅ローン金利が上昇した場合には、住宅ローンの返済が困難になって、自宅を売却しなければならない事態にもなりかねません。
 
住宅を購入する際には、頭金などの資金を準備するとともに、将来の家計の収支を見積もったうえで、無理のない返済額となるように借入額を決定しましょう。借入金利が上昇局面にあることから、固定金利で住宅ローンを組むことも検討してください。
 

出典

(※1)住宅金融支援機構 フラット35 金利情報
(※2)住宅金融支援機構 フラット35 毎月の返済額から借入可能金額を計算
(※3)住宅金融支援機構 フラット35 借入希望金額から返済額を計算
(※4)国土交通省 新築住宅に係る税額の減額措置
(※5)国土交通省 マンションに関する統計・データ等
(※6)国土交通省 令和4年度 民間住宅ローンの実態に関する調査 結果報告書
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
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