認知症になってからでは遅い。認知症になる前に備えたいこと

配信日: 2021.04.23

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認知症になってからでは遅い。認知症になる前に備えたいこと
2025年には、65歳以上の5人に1人となる、約730万人が認知症になると推計されています(※)。認知症になると本人の財産が凍結されます。認知症になってしまうと、法定後見制度を利用する選択肢しかありません。
 
それより前の段階であれば、任意後見制度や民事信託なども選択肢になります。事前に知っておきたい対策を解説します。
新美昌也

執筆者:新美昌也(にいみ まさや)

ファイナンシャル・プランナー。

ライフプラン・キャッシュフロー分析に基づいた家計相談を得意とする。法人営業をしていた経験から経営者からの相談が多い。教育資金、住宅購入、年金、資産運用、保険、離婚のお金などをテーマとしたセミナーや個別相談も多数実施している。教育資金をテーマにした講演は延べ800校以上の高校で実施。
また、保険や介護のお金に詳しいファイナンシャル・プランナーとしてテレビや新聞、雑誌の取材にも多数協力している。共著に「これで安心!入院・介護のお金」(技術評論社)がある。
http://fp-trc.com/

遺言をめぐるトラブル

認知症によって判断能力が低下してから作成した自筆証書遺言は、無効になるリスクがあります。また、自筆証書遺言は法律の定める様式で作成しないと無効になってしまいます。
 
例えば、遺言書は原則、遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自ら書き、これに印を押さなければなりません。例外的に、自筆証書に財産目録を添付するときは、その目録については自書しなくてもよいことになっていますが、すべてのページに押印が必要です。
 
認知症で判断能力が低下すると、自筆証書遺言の作成ルールを守らず作成したり、正確な財産目録を作れなかったりするなどのリスクがあります。また、保管場所を忘れてしまったり、うっかり捨ててしまったりするかもしれません。
 
仮に法律のルールどおりに遺言書を作成しても、遺言の内容に不満をもった親族から、「その遺言は遺言能力のないときに作ったものなので無効」という主張をされるリスクもあります。
 

遺言のトラブルへの予防策

遺言がルールどおりに作成されず無効になるリスクを避けるには、判断能力が十分あるときに作成し、専門家のチェックを受けることが大切です。
 
費用はかかりますが、公正証書遺言を利用するという方法もあります。公正証書遺言は、公証役場で法律の専門家である公証人が本人の希望を踏まえて作成するもので、形式の不備や内容のチェックもしてもらえます。
 
遺言の保管に関するトラブルについては、公正証書遺言や、令和2年7月10日より始まった法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することにより防ぐことが可能です。
 
遺言能力をめぐるトラブルを回避するには、遺言作成時に遺言能力があった証拠を残すことが大切です。例えば、医療機関を受診し遺言作成時の認知機能検査などの検査データを取っておく、遺言作成時のビデオを撮って本人の状況がわかるようにしておくとよいでしょう。
 
なお、公正証書遺言ならば安心かというとそうではありません。公証人は医学的判断ができないからです。
 

成年後見制度(法定後見)の問題点

認知症になり判断能力が不十分になると、不動産や預金などの管理、介護サービスや施設入所の契約などができなくなります。また、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような問題点を解決する制度に法定後見制度があります。
 
しかし、法定後見制度にはいくつかの問題点があります。
 
まず、親族が後見人を選ぶことができないという点です。多くは家庭裁判所によって弁護士、司法書士などの専門職後見人が選ばれる傾向にあります。そして、後見人が選ばれると、本人の財産を家族でも自由に使えなくなります。また、後見人による使い込み、という心配もあります。
 
そのほか、本人が亡くなるまで後見人に毎年裁判所が決めた報酬を支払わなければならない、後見人は基本的に解任できない、などもあります。
 

任意後見制度、民事信託の活用

認知症になってしまった場合、財産の凍結を解除するには、法定後見人を立てるしか手だてがありません。法定後見にはすでに指摘したような問題点があります。これを避けるには、判断能力が十分あるときに、「任意後見制度」や「民事信託」を検討しましょう。
 
任意後見制度とは、判断能力があるうちに、自分の判断能力が衰えてきたときのために、あらかじめ任意後見人を誰にするか、将来の財産管理や身の回りのことについてその人に何を支援してもらうか、自分で決めておくことができる制度です。
 
民事信託は信頼する人に自分の財産を受託者に移し、代わって管理してもらう制度です。その中でも家族が受託者となって行う民事信託のことを「家族信託」と呼んでいます。
 
財産の名義が受託者に代わりますので、本人が認知症になっても、財産が凍結されることはありません。これが民事信託の最大のメリットです。受託者は本人との契約に基づき財産を管理します。不動産の売却や資産運用などが、ほぼ本人の思いどおりにできます。
 
民事信託は遺言のデメリットもカバーします。遺言では、次の遺産相続人しか指定できませんが、民事信託では、自分が死んだときは妻、妻が死んだときは長男などと、遺産を継承できる順番を指定することも可能です。
 
また、任意後見契約は、本人の判断能力が不十分となった後に、親族等が任意後見監督人の選任の申し立てを行って初めて効力を発揮するのに対し、民事信託は契約の締結など手続きが完了した時点から効力が発生します。
 
成年後見制度では、本人が所有する土地にアパートを建て収益や相続税の軽減を図ることができませんが、民事信託なら可能です。一方、本人の治療、療養、介護などの身上監護に関する手続きを行うことはできません。
 
(※)
厚生労働省「第78回社会保障審議会介護保険部会」
厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について P4」
が引用している「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値より
 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。

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