更新日: 2021.05.25 その他老後
高齢者はどの程度保険に加入すればよい? 医療保険加入時の注意点とは
しかし、リスクを心配するあまり、保険への加入数が多くなり、家計を圧迫しているかもしれません。どの程度、保険に加入すればよいか、死亡保険と医療保険を中心に考えます。
若い世代に必要な死亡保険
日本人の多くは、保険に強い関心をもってきました。30代、40代の子育て世代では、生活を支える世帯主が亡くなった場合、遺(のこ)された子どものためにも、死亡保険は必要です。死亡保障のつきの満期返戻金のある養老保険へ加入する人もいらっしゃるようです。
一度加入した死亡保険の保険料を、高齢世代となっても払い続けている人は意外に多くいます。保険料も加入時と同じ定額な保険も多く、負担を感じにくいかもしれません。義理で保険に加入し放置してきた人や、満期の保険を、保険営業の担当者から他の保険への乗り換えを提案され移した人もいるかもしれません。
ただ外貨建ての保険などは、減額リスクも高い保険のため、高齢者の加入に適した保険ではありません。また、同種の保険に複数加入している人は、家計の負担にもなるため整理したいものです。
確かに高額の保険金があれば、遺族は安心できます。そのため遺族に迷惑をかけたくないとの思いで、例えば1000万円を超える高額な保険金が受け取れる保険に新規加入する人もいるかもしれません。
ただ、高齢で収入も減っている人にとって、保険料が高い毎月支払うタイプの保険は負担となります。高齢者は、(1)保険の目的は保障であり貯蓄ではない、(2)複数ある同種の保険は整理、(3)満期の保険の乗り換えは慎重に、という姿勢が必要です。
死亡保険の掛け過ぎを見直す
高齢者はどの程度の死亡保険に加入していればよいか、ポイントとなるのが、自分が亡くなった後の遺族の生活です。
まず、現在どの程度金融資産(預金、株式など)を保有しているかです。その金融資産が、月々の生活費の赤字補填に使われているかどうかも問題になります。例えば、金融資産が約1000万円で、毎年120万円を生活費に補填していると、金融資産は8年ほどで底をつきます。死亡保険金は最低限必要といえます。
一方で、金融資産が5000万円を超え、生活費への補填がない家計ならば、死亡保険のニーズは高くありません。
次に、現在受け取っている年金額です。本人が厚生年金への加入歴があり、老齢厚生年金と老齢基礎年金を受け取り、配偶者も老齢基礎年金だけを受け取っている家庭では、本人が亡くなると、配偶者へは本人の老齢厚生年金の4分の3が遺族厚生年金として移り、配偶者自身の老齢基礎年金と併せて受け取れます。
自営業の人だと基礎年金だけの人も多いため、配偶者の受け取る年金額はほとんど増えません。それぞれの家庭でケースに応じて受け取れる金額を計算し、配偶者が生活できるかを検討します。
子どもが独立していない家庭や、退職金で住宅ローンを返済し手元に預金がない家庭、定年後もローンが残っているといった家庭では、どうしても死亡保険は欠かせないかもしれません。これらの条件を検討し、遺族の生活設計にどうしても不足する金額を死亡保険金に決め、それ以上加入している場合は解約をお勧めします。
公的医療保険は意外に手厚い
次に医療保険を考えます。まず前提として、日本では国民皆保険が進んでおり、公的な医療保険(いわゆる健康保険)は思いのほか充実しています。
74歳までの国民健康保険、75歳以上の後期高齢者保険の加入者が、医療行為を受けた際の負担割合は、2割または1割です。ただ現役並み所得のある人は、どちらも3割負担です。通常の治療や投薬、例えばリハビリ費用や糖尿病や高血圧の治療薬など、公的保険で医療行為を受けられます。
高額な医療費がかかる病気にかかった際も、保険適用が受けられる病気であれば、医療費の自己負担に上限があり、一定額以上払う必要はありません。いったん支払った後で戻ってくる仕組みです。
例えば、年収が370万円以下の人ならば、治療費・入院費などを含めて、支払いの上限が月額5万8000円ほどの負担で済みます。開業医などへの外来受診でも、支払い上限額が年収に応じて決まっています。病気にかかったときを心配するあまり、多く加入することには慎重になったほうがよいでしょう。
民間医療保険に加入する際の注意点
最近では、公的保険ではカバーできない保障をセールスポイントにした民間の保険が多く販売されており、選択肢は広がっています。その際、いくつか注意点があります。
第1のポイントは、高齢者が新規に加入すると、保険料が割高なことです。満70歳の人と満30歳の人が、同じ保障が得られる保険に加入した場合、70歳の人の保険料は高くなります。保障内容が保険料に見合っているかを、よく検討する必要があります。
第2のポイントは、病歴がある人は、期待した保障が得られないケースが多いことです。例えば、これまでにかかった病気を申告していないと「告知義務違反」と認定され、思った保障が得られません。
持病がある人、過去に大病をした人は、医療保険の契約内容を細かくチェックし、「告知義務違反」と指摘されないことが必要です。告知義務もなく無条件で加入できる医療保険は、その多くが通常より保険料が割高な傾向にあります。
第3のポイントは、公的医療保険でカバーできない特別な治療を希望するかどうかです。例えば、がん治療のために特殊な免疫療法を受けたいと考え、選んだ保険が特約などでカバーしているのであれば、加入する必要はないかもしれません。
特殊な免疫療法などは、公的保険が使えないため、保険外だと非常に高額になります。しかし、これに対する保険料は思ったほど高額ではありませんので、必要と思われる人は加入してもよいと思います。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。