更新日: 2021.07.25 介護

介護施設をどう選ぶか 費用の抑制が最大のポイント

介護施設をどう選ぶか 費用の抑制が最大のポイント
人生100年時代といわれるようになり、老後は長くなっています。病気で身体的機能が衰えたり、認知症を発症したりして、自宅で療養することができず、介護施設へ入居する人がいらっしゃいます。
 
しかし入居のためには、ある程度資金を準備する必要があります。
黒木達也

執筆者:黒木達也(くろき たつや)

経済ジャーナリスト

大手新聞社出版局勤務を経て現職。

中嶋正廣

監修:中嶋正廣(なかじま まさひろ)

行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

長野県松本市在住。

入居費用は安く抑えたいのだが

身体的な衰えが進み、家族から老人ホームへの入居を勧められても、やはり費用のことは気になります。収入が年金中心だと、かなりの預貯金が必要です。公営のホームから民間のホームまで各種の施設がありますが、入居費用の確認と同時に、どの程度介護が必要なのか、実際の介護度によっても入居施設は異なってきます。
 
介護度が高くなれば、行き届いたサービスを提供する施設への入居が必要になります。入居した施設が、費用は安くても、介護スタッフが手薄な施設では、十分な介護が受けられない可能性があります。
 
しかし介護体制が充実している施設の費用と、自宅で介護ヘルパーを依頼する費用とでは大きな差があります。自宅での介護を望む高齢者も多いですが、現実には“老老介護”になり、介護する側は大きな負担です。
 
介護施設に入居できた後、実際何年その施設で暮らすも重要です。自宅と比較して、介護サービスが行き届き、生活に慣れてくると長生きも可能になります。そのため、5年程度の余命と考えた資金計画が、施設での生活が長期化することで破綻するかもしれません。多少体力的な衰えがあっても、想定より寿命が長くなると想定して資金計画を立てましょう。
 

特別養護老人ホームへ入居する条件

地方自治体もしくは委託された社会福祉法人などが運営するのが「特別養護老人ホーム」(通称・特養)です。比較的費用も安く、介護サービスもかなり充実しています。
 
入居に際して一時金も不要で、月々の費用が安く抑えられており経費の高い施設ではありません。ただ誰もがすぐに入居できるのではなく、多くの施設で「要介護3」以上の人でなければ原則入居できません。都心にある施設は入居待ちのケースも多く、希望すれば入れる状態にはありません。介護度が軽い人は別の施設を探す必要があります。
 
特別養護老人ホームは最後まで入居できる施設ですが、同様の運営主体で「老人保健施設(通称・老健)」や「療養型医療施設」があります。入居期間が決められており、比較的短期間の入所が前提です。そのため、特別養護老人ホームへの入居待ちの人や、急に症状が悪化し自宅療養が難しい人などが一時的に入居します。月々にかかる費用は特養と比べるとやや割高になります。
 

民間の有料老人ホームは入居しやすい

特養と比較して経費は割高なりますが、民間の有料老人ホームが数多くつくられ、入居もしやすくなっています。健常者から要介護者まで、幅広く入居できます。入居一時金が必要な施設が多く、東京などの都市部では、健常者中心で豪華ホテル並みの環境で、入居一時金が大変高額な施設もあります。
 
毎月の費用も、要介護1程度の人でも特養と比較すると割高になる傾向です。民間の有料老人ホームの場合、価格を決める大きな要素は立地と居住環境です。地価の高い都市部の施設ほど費用は高額になり、逆に郊外や地方ほど費用は安くてすみます。どの地域の施設に入居したいかで、入居費用も大きく変わります。
 
特に現在、日本人の平均寿命は延び、女性の2人に1人、男性でも4人に1人は90歳までは生きるとされています(※)。自分があと何年生きるかは判断しにくいですが、長期的な見通しを立てて施設選びをすることが大切です。
 

長期入居ほど費用抑制の工夫を

入居費用のことを考えると、自宅で過ごした後、要介護3段階になって「特別養護老人ホーム」へ入居できれば良いのですが、思いどおりにいくとは限りません。認知症の初期症状があり、数年後には「要介護3」段階となることが予測できれば、取りあえず民間の有料老人ホームなどに入居し、その後に特養に移る選択肢も、経費面を考慮するとあり得ます。
 
民間有料老人ホームに長期入居の可能性がある場合は、特に立地にはこだわらないことが重要です。都心の施設では、入居一時金から月々の経費まで高額です。居住環境や介護サービスが同レベルの施設で、都心と郊外の施設を比較すると、郊外の施設のほうが安く入居できる可能性があります。
 
最近では、東京23区の特別養護老人ホームでも、地価の安い郊外や地方に新規施設を建設する動きもあり、その動向に注視したいところです。
 
長期の入居を想定すると、毎年かかる経費の差は非常に重要です。特に70歳代で入居する場合は、2年や3年という期間ではなく、最低でも10年入居を念頭に資金計画を立てる必要があります。年金が収入の柱だと、毎月の赤字を補填(ほてん)できる預貯金が必要になります。長期入居を前提に、医療サービスの提供態勢をよく確認しましょう。
 
少なくとも10年間分の「年金+預貯金」(収入)の合計額と入居費用(支出)の合計を計算し、問題なく過ごせる条件を満たしたいものです。場合によっては、自宅の売却も有力な手段になるかもしれません。
 
手持ちの預貯金を増やすだけでなく、空き家のまま放置すると、入居費用に加えて、自宅の固定資産税や修繕費なども払い続けなければならないからです。その場合は自宅を売却したほうが、経費面では楽になります。
 
ただし、施設の運営会社などの経営状態が悪化し、経営破綻などで施設から退去を迫られる事態にならないよう、確認したいものです。施設の運営母体の経営基盤は大丈夫か、事業の継続期間や空室率を、調べておくことが大切です。仮に退去という事態になれば、頼る親族がいないと、要介護でありながら、住む場所がなくなる危険もあるからです。
 
出典
(※)生命保険文化センター「日本人の平均寿命はどれくらい?」
 
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
 
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。

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