更新日: 2021.08.08 その他老後

扶養控除内で陥る人生100年時代の不安

扶養控除内で陥る人生100年時代の不安
人生100年時代といわれ、老後の生活も長くなってきています。
 
以前、話題になった老後に2000万円が不足するという問題がありましたが、この2000万円は夫婦2人で生活していく場合の金額で、男性は平均寿命が女性より短く、配偶者の妻が1人となると年金額も少なくなってしまいます。
 
今回は、いくつかの例を挙げて夫が先立った後のことについて考えてみたいと思います。
吉野裕一

執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)

夢実現プランナー

2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている

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老齢年金について考える

そもそも老後に受け取ることができる年金といっても、夫婦2人であれば必ずしも同じ年金を受け取る訳ではありません。夫が20歳から国民年金に加入し、その後に会社員などではなく自営業をされていた場合、受け取れるのは老齢基礎年金のみとなります。
 
配偶者の妻も同じように自営業として国民年金のみ加入の場合には、65歳以降はそれぞれ老齢基礎年金を受給することになり、令和3年度の老齢基礎年金の満額は年額78万900円、月額にすると6万5075円です。この額を偶数月に2ヶ月分、夫婦2人で26万300円を受け取ることになります。
 
しかし、夫が会社員で妻が専業主婦の場合は、老齢年金は夫が老齢厚生年金と老齢基礎年金を受給し、さらに65歳未満の妻を扶養している場合には加給年金と生年月日に応じて特別加算を受け取れます。妻が65歳になると夫への加給年金は支給が停止され、妻は老齢基礎年金と振替加算を受け取ります。
 
夫が扶養している親族が妻だけのときには、加給年金は令和3年度で年額22万4700円(月額換算で1万8725円)となり、他の年金と同じように偶数月に2ヶ月分ずつ支給されます。
 
生年月日に応じて受け取れる配偶者の加給年金の特別加算の金額は、3万3200円~16万5800円で、例えば昭和18年4月2日以降生まれの方では16万5800円、加給年金の合計は39万500円となります。
 
また、妻が大正15年4月2日から昭和41年4月1日までに生まれた方であれば、65歳となり自身の老齢基礎年金を受け取れるようになると、夫の加給年金は停止され、妻に振替加算として生年月日に応じて年額1万5055円~22万4700円が支給されるようになります。
 
記事の執筆時点(令和3年7月)で昭和41年4月2日以降生まれの方は、老齢年金の受給開始年齢である65歳に達していませんが、今回は昭和41年4月2日以降に生まれた同じ年齢の夫婦2人が65歳になったと仮定し、振替加算はないものとして計算します。
 
夫が会社員として40年間務め、平均の月収が50万円だとすると、老齢厚生年金が年額131万5440円、令和3年度の老齢基礎年金の満額が年額78万900円、妻の老齢基礎年金の78万900円と合計して年額287万7240円となり、月額にすると夫婦2人の年金は23万9770円です。
 

老齢年金の受給中に夫が亡くなった場合

前項の例で見ると、夫婦が健在で過ごしている間は生活費も保つことができるように感じますね。
 
しかし、日本は長寿化といわれていても男女では差があり、令和元年の65歳の男性の平均余命は19.83歳(84.83歳)となっていますが、女性の場合は24.63歳(89.63歳)です。女性の方が平均寿命が長いのはよく知られていますが、平均余命でも5年程度は長生きとなっています。
 
夫婦で老齢年金を受給している場合、例えば夫が先に亡くなったときには妻が受け取る年金や金額も変わってきます。
 
夫が受け取っていた老齢基礎年金と老齢厚生年金は亡くなると停止され、遺族年金が支給されます。遺族基礎年金は18歳未満の子(一定の障害状態にある子は20歳未満)がいる妻には支給されますが、要件に合う子がいない場合には支給はありません。
 
一方、遺族厚生年金は亡くなった夫の老齢厚生年金額の4分の3もしくは、夫の老齢厚生年金額の3分の2と自身の老齢厚生年金額の2分の1を足した額の多い方が支給されます。
 
ただし、前項で例にしたような夫が会社員、妻が20歳から国民年金のみに加入している専業主婦のケースでは、夫の老齢厚生年金の4分の3の方が多くなり、妻が受け取れるのは年額98万6580円(令和3年度)の遺族厚生年金と老齢基礎年金の年額78万900円で合計176万7480円です。
 
月額では14万7290円と、夫婦2人分の老齢年金より10万円近く減少してしまうことになります。
 

扶養控除の範囲外で働くメリット

遺族厚生年金の受給額は2つの計算方法がありましたが、妻が専業主婦、または所得税などの扶養控除範囲内でのみ働いていた場合、国民年金の老齢基礎年金だけでは夫が亡くなった後は急に収入が減ってしまうので、ある程度の資産が必要になってきます。
 
仮に妻も平均月収25万円で20年間働いたとすると、妻の老齢厚生年金は年額32万8860円となり、老齢基礎年金と合わせて年額110万9760円の年金を受け取ることができます。
 
この条件で夫が亡くなった場合、夫の老齢厚生年金の3分の2の87万6960円とご自身の老齢厚生年金の2分の1の16万4430円で、104万1390円の遺族厚生年金と78万900円の老齢基礎年金が受給できるため、年額182万2290円、月額約15万1858円と少しでも年金額を増やすこともできます。
 
扶養控除内で働かれる場合には、年収103万円以内に抑えることを考えると月に約8万5000円になるので、現役時代の家計の足しになると思います。
 
しかし、平均月収25万円で20年間働いた場合には、所得税の扶養控除内である103万円以内の年収を得た場合に比べて現役世代での収入も多くなり、老後の資産形成に使うこともできるほか、老後の生活費も増やせます。
 

まとめ

今回の試算は簡易的なものなので、参考程度の金額ではありますが、人生100年時代で女性の方が長生きするということを考えると、所得税や健康保険の扶養控除内にこだわって税金や社会保険料を抑えることだけでなく、収入を増やして老後に備えることも大切だと考えます。
 
出典
厚生労働省 「令和元年簡易生命表の概況
日本年金機構 「遺族年金ガイド」
 
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー

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