更新日: 2021.10.06 介護
離れて暮らす親が不安…高齢の親の住む家と子どもの家の距離はどれくらいが多いの?
執筆者:伊藤秀雄(いとう ひでお)
FP事務所ライフブリュー代表
CFP®️認定者、FP技能士1級、証券外務員一種、住宅ローンアドバイザー、終活アドバイザー協会会員
大手電機メーカーで人事労務の仕事に長く従事。社員のキャリアの節目やライフイベントに数多く立ち会うなかで、お金の問題に向き合わなくては解決につながらないと痛感。FP資格取得後はそれらの経験を仕事に活かすとともに、日本FP協会の無料相談室相談員、セミナー講師、執筆活動等を続けている。
日本の世帯人数について
まず、6月に速報値が発表された令和2年の国勢調査(※1.)から、人口と世帯数を確認します。日本の人口は、前回2015年の調査で統計開始以来初めて減少しました。今回2016年から2020年の5年間も前回調査から0.7%の減少でした。
一方、世帯数は増加し続けており、1世帯あたりの平均人数は減少の一途をたどっています。次のグラフをご覧ください。
表1.
※1.総務省統計局 「令和2年国勢調査」から著者作成
昨年の調査では平均世帯人数が2.27人まで下がっています。背景として、結婚年齢の上昇による独身期間の長期化、非婚化、平均寿命の延びによる高齢夫婦世帯の増加、そして離別・死別後の高齢独居期間の長期化が挙げられます。都道府県別では、東京都が1.95人と初めて2人を割り込みました。
介護保険料が安い場合があるなどの理由で、あえて世帯は子と別にするケースもありますが、実際に住んでいる場所には、どのような傾向があるのでしょうか?
要介護世帯の子どもたちはどこに住んでいるのか
65歳以上の高齢者について、最も近くに住む子どもの居住地をまとめた調査があります(※2.)。
1番多いのは「同じ市区町村」で3割程度ですが、子世帯が頻繁に訪ねやすく、日頃から様子を確認しやすい距離感は、やはりとなり近所までではないかと考えます。ただ、実態は少数派です。このような分布と、実際に親世帯が望む子世帯との距離感にはどのようなギャップがあるのか、次の項で確認していきます。
表2.
※2. 国立社会保障・人口問題研究所 第7 回(2014年)「世帯動態調査」から著者作成
スープの冷めない距離が良い?
では、高齢者世帯の意識について、2つの調査結果を見ていきましょう。
国土交通省の調査(※3.)によると、世帯主が65歳以上の高齢者世帯では、子の住まいとの距離別不満足率は、「徒歩5分程度の場所」が15.7%で最も低く、「片道1時間以上のところ」と「一緒に住んでいる」がともに21%台と、上位2つを占める結果となっています。遠くても、近すぎても不満足度が上がるのですから、なかなか難しいものですね。
次は、どの程度の距離に住みたいか、親の希望を聞いた調査です。
表3.
※3. 国土交通省 平成30年「住生活総合調査」から引用
希望を聞いても、同居は一貫して減少しています。平成30年では「同じ敷地内」から「片道1時間未満」までの近場の別居希望が計28.3%と同居希望の2倍以上あり、前出の不満足調査の結果と表裏の関係でした。距離よりも、同じ屋根の下に住むかどうかがポイントになるのがよく分かります。
同居に関しては、親が呼び寄せ後すぐに認知症を発症した、あるいは子世帯の生活リズムと合わないということもあるかもしれません。最善と考え親を説得したのに・・・と後から振り返るケースもあるでしょう。
なお、「特にこだわりはない」(平成10年以前は「子と関係なく住む」)には距離の問題ではなく、今の家から動きたくない人が一定数含まれていると考えられます。多少不便でも勝手知ったる住み慣れた家、いざとなれば頼れるご近所や掛かりつけ医などの存在は、高齢期を自立して生活するために培ってきた、大切な資産といえます。
まとめ
健康状態や年金収入等の生活力の違いで一概にはいえませんが、老後を子に頼るのではなく、自立・独立した生活を大事にしたい高齢者が増えてきたのは確かなようです。この高齢者の意識を子世帯が理解していることはとても重要です。
親に良かれと思って建てた2世帯住宅も、相続する頃には自分の子どもが独立し、広くて持て余すことになりかねません。親の分も増える固定資産税やメンテナンスの負担、完全分離でないと他人にも貸せない、広すぎると売却しにくいなど、将来扱いづらくなるリスクがあることを理解して検討することが必要です。子(自分)の生活だって大事なのです。
また、誰もが徒歩5分圏内には住めませんよね。介護が必要になった際、遠方に離れていても、その地域の介護保険サービスメニューや医療・看護・コミュニティーのネットワークの支えで、実家暮らしが続けられないか、可能性を確かめておくことで老後の生活の場の選択肢を増やせます。
長い老後を、住み慣れた自宅で社会との接点を保ちながら、遠慮することなくできるだけ自分らしく過ごしたい。そんな声をまずしっかり聴き取ることが大切と考えます。
出典
(※1.)総務省統計局 「令和2年国勢調査」
(※2.)国立社会保障・人口問題研究所 第7回(2014年)「世帯動態調査」
(※3.) 国土交通省「平成30年住生活総合調査(確報)」
執筆者:伊藤秀雄
CFP(R)認定者、ファイナンシャルプランナー技能士1級、第1種証券外務員、終活アドバイザー協会会員、相続アドバイザー。