認知症の親の財産管理をしたい。「成年後見制度」を利用するといくらかかる?

配信日: 2021.11.28

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認知症の親の財産管理をしたい。「成年後見制度」を利用するといくらかかる?
「認知症になると、口座からお金が引き出せなくなる」という話を聞いたことがある人もいると思いますが、そうした際、「成年後見制度」を利用すると口座のお金が使えるようになります。
 
便利な制度のように思えますが、利用する人はあまり増えていません。近年では高齢期の財産管理制度として、「民事信託」の利用が増加しています。
宿輪德幸

執筆者:宿輪德幸(しゅくわ のりゆき)

CFP(R)認定者、行政書士

宅地建物取引士試験合格者、損害保険代理店特級資格、自動車整備士3級
相続専門の行政書士、FP事務所です。書類の作成だけでなく、FPの知識を生かしトータルなアドバイスをご提供。特に資産活用、相続トラブル予防のため積極的に「民事信託(家族信託)」を取り扱い、長崎県では先駆的存在となっている。
また、離れて住む親御さんの認知症対策、相続対策をご心配の方のために、Web会議室を設置。
資料を画面共有しながら納得がいくまでの面談で、納得のGOALを目指します。
地域の皆様のかかりつけ法律家を目指し奮闘中!!
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口座のロックとは

冒頭の「認知症になると……」というのは正確ではなく、現実には「口座名義人の意思能力がないことを銀行が知った」ときに口座がロックされます。意思能力とは、自己の行為の意味や結果を判断し得る精神的能力のことです。

民法 第一編 第二章 第二節 意思能力
第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。

上記の民法により、認知症で意思能力のない人が口座からお金を引き出した場合、後でその行為を無効とされる可能性があるのです。こうなると銀行はトラブルに巻き込まれる可能性があるので、口座をロックしてしまいます。こうしてロックされた口座を使えるようにできるのが、「成年後見制度」です。
 
成年後見人は、被後見人(口座名義人)の法定後見人であり、本人を代理してお金を引き出すことが可能です。法律上で認められた代理人のため、銀行も成年後見人の請求には応じることになります。
 

成年後見制度の始まり

成年後見制度は、介護保険制度と同時に平成12年(2000年)4月にスタートしました。介護保険制度では、介護事業者と利用者が契約してサービスが提供されますが、認知症で有効な契約ができない利用者を支援するために成年後見制度が必要になったのです。
 
当初、親族が後見人になる割合が9割ほどでしたが、横領などのトラブルが多発したため親族後見人の割合が減少し、令和2年には約2割(19.7%)となっています。親族以外の後見人としては、司法書士や弁護士などの専門職後見人が主になります。
 

報酬の目安は年24万円から72万円

成年後見を申し立てるのであれば、制度を理解する必要があります。最悪の場合、希望しない後見人による後見と報酬の支払いが死亡するまで継続することになります。成年後見(法定後見)の注意点として、以下のようなものがあります。
 

<制度利用上の注意点>

(1)後見等は、申し立ての目的(預貯金解約、遺産分割など)を達した以後も原則として本人が死亡するまで続き、後見人等は本人の財産を管理し、家庭裁判所に報告する義務を負います。
(2)後見人等になっても、本人の財産を本人以外の者のために自由に消費、処分することはできません。
(3)後見人等は、後見等事務に関して裁判所または後見等監督人の監督を受け、事務の内容を報告する義務があります。
(4)手続きを申し立てると、自由にやめること(取り下げ)はできません。裁判所の許可が必要です。
(5)申立書に記載された後見人等候補者が、必ず後見人等に選任されるとは限りません。裁判所において適任と考える方を選任します。

専門職の後見人が選定された場合、報酬が発生します。報酬の目安は、管理する財産額に応じて月額2万円から6万円となっています。
 
専門職後見人の報酬の目安

財産額 報酬月額
1000万円以下 2万円
1000万円超~5000万円 3~4万円
5000万円超 5~6万円

※東京家庭裁判所 東京家庭裁判所立川支部 「成年後見人等の報酬額のめやす」を基に筆者作成
 
後見は、被後見人が死亡するまで継続しますので、多額の財産を持つ方が後見制度を10年利用した場合、合計720万円(6万円×12月×10年)の報酬を支払うことになります。これは財産管理の報酬であり、身上監護(施設の契約や介護保険の手続きなど)があったときは、その報酬も別途発生します。
 

認知症になる前に対策

成年後見制度には、「法定後見」と「任意後見」があり、前述したのは法定後見です。認知症になる前であれば、任意後見契約により本人が後見人を指定することができます。また、財産の管理処分権限を子などに移動する「民事信託」を利用することも可能です。
 

・任意後見

本人の判断能力が十分なうちに、あらかじめ後見人となる人を指定しておき、認知症になったときに後見人となってもらう制度です。
 
公正証書で契約書を作成し、後見人が必要になったときに家庭裁判所が「後見監督人」を選定してから後見人による財産管理がスタートします。後見人には親族を指定できますが、後見監督人は後見人の事務を監督する役割があるため、専門職が選定されることがほとんどです。当然、報酬も発生しますが、法定後見人の報酬よりは低額になります。
 

・民事信託

本人が委託者として受託者と信託契約を締結し、信託した財産を受託者に管理してもらう制度です。
 
信託した財産は受託者の名義になりますので、委託者が認知症になっても管理処分に影響しません。例えば、本人が認知症のため施設に入居して自宅が空き家になったとき、受託者の判断で自宅を売却し、そのお金を施設の費用に充てるということも可能です。
 
民事信託は裁判所の関与はありませんので、親の財産を子が受託者として管理処分することで、親の老後の生活の保全と、財産の円滑な承継を図れる制度として注目されています。また、親族を受託者にすれば報酬は発生しません。
 

まとめ

認知症が進行してしまい、法定後見を利用すると家族の負担は大きくなります。認知症になる前であれば、法定後見を回避する対策も可能ですが、高齢者が自身で対策するのは困難です。家族の生活を守るためにも、親が元気なうちに検討を始めておきましょう。
 
出典・参考
e-Gov法令検索 民法
最高裁判所事務総局家庭局 成年後見関係事件の概況 ―令和2年1月~12月―
長崎家庭裁判所 成年後見等申立ての手引
東京家庭裁判所 東京家庭裁判所立川支部 成年後見人等の報酬額のめやす
 
執筆者:宿輪德幸
CFP(R)認定者、行政書士

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