更新日: 2021.11.30 介護

親が認知症になったら…年金の手続きは? 成年後見人は利用するべき?

執筆者 : 當舎緑

親が認知症になったら…年金の手続きは? 成年後見人は利用するべき?
令和3年版高齢社会白書(※1)によると、令和2年10月現在で、日本の65歳以上人口は3619万人となり、総人口に占める高齢化率は28.8%。急激に超高齢化社会が進んでいる日本では、いまや「老老介護」も珍しくはありません。
 
認知症はだれでもなりうる病気です。理解を深めるために、今回は、もし親が認知症になったらどうすればよいのか考えてみましょう。
當舎緑

執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)

社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
 

認知症になったら成年後見制度を利用するべき?

認知症の進み方は、ゆっくり進む場合もあり急激に進む場合もありと、予想はできないという点から、予兆を見逃さず「なった場合にはこうしよう」とあらかじめ考えることが大切です。ただ、病状や進み方も人それぞれであり、どう備えるのか難しいという気持ちもわかりますから、まず「後見人を立てるべきかどうか」を考えておくとよいでしょう。
 
成年後見人には、認知症の程度によって、「補助」「保佐」「後見」と3つの分類があります。親が認知症になった時に、何ができなくなっているのか……
 
例えば、郵便物が来てもたまる一方で処理ができないのか、ATMで暗証番号などが思い出せなくなっているのか、外出する時に戸締まりがきちんとできないのか、など「何ができなくなっているのか」の程度によって、後見制度を利用するかの判断ができます。裁判所のサイト(※2)を見てみると、「どんな時に」利用するのか例示されています。
 

認知症になった時のために知っておきたい年金の手続き

財産管理が自分でできないなど、成年後見人等が選任された時には、本人名義の口座ではなく、成年後見人用の口座を作ることとなります。
 
成年後見人等は、書類の郵送先を変更したり、年金の受取機関・口座名を変更したりできます。その場合は専用の申出書があります。
 
送付先を変更する場合には、

(1)法務局が証明する「登記事項証明書」原本
(2)後見開始の申し立てを受け、家庭裁判所が発行する「審判所の謄本」(コピー可)と「審判確定証明書」(原本)
(3)市区町村長が証明する「戸籍全部事項証明書」(原本。*未成年後見人の場合に限る)

のいずれかが必要です。
 
ただ、認知症になったからといって、必ず後見制度を利用しないといけないわけではありません。老人ホームに入居していても定期的に親族が郵便物を確認できたり、もしくは自宅にヘルパーさんが定期的に訪問して、様子を見てもらえるような状況もあるでしょうから、本人が認知症になったとしても、ご本人の環境によって手続きをするかどうかを考えるとよいでしょう。
 

後見人を立ててしまうと困ること

子どもや親族がいない時に利用することが多い成年後見制度ですが、子どもがいても成年後見制度を利用せざるを得ない場合はあります。
 
ただ注意していただきたいのは、後見人候補の中に子どもの名前が入っていて選任されないこともありますし、その際、不服申し立てもできません。これまで、親の口座を預かって、預金の引き出しなどをしていたとしても、後見人の審判が確定してしまえば、そのような行為はできなくなります。
 
また、法定後見制度を利用する必要がなくなったから「やめたい」ということもできません。例えば、認知症の妻が遺(のこ)されて、夫の遺族厚生年金を請求するような時を考えてみましょう。
 
年金の請求ができるのは原則として本人です。本人以外が代理で請求する場合には、委任状(※3)を書いてもらう必要があります。委任状のフォーマットを見ていただければわかりますが、この網掛け枠内を「自筆」で書くというのは大変です。認知症が軽ければ、症状が安定している時に、自筆で署名をしてもらって、社会保険労務士などが代理で請求することも可能でしょう。
 
ただ、自筆で署名できないほどの認知症であれば、年金の請求、保険金の請求など、本人と同様の権限を持つ後見人を立てざるを得ません。ところが年金の請求が終わったから、その後の金銭管理は子どもがするということはもうできないのです。後見制度を利用するべきかどうかには慎重な判断と理解が求められます。
 
2025年には約700万人(高齢者の5人に1人)が認知症になるとも予測されています(※4)。少しでも軽い時期に発見し、対処するために利用できる制度はたくさんあります。生命保険の「指定代理請求制度」などもそうですが、あらかじめ対応策を知っておくことが、親が認知症になってもあわてないコツだといえるのでしょう。
 
出典
(※1)内閣府「令和3年版高齢社会白書」
(※2)裁判所「裁判手続 家事事件Q&A/成年後見制度のタイプについて」
(※3)日本年金機構「委任状」
(※4)厚生労働省「認知症」
 
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。

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