高齢者の金融トラブルに要注意! 理解不足が要因になることも
配信日: 2021.12.16
長く低金利が続いているため、少しでも資産を増やしたいという気持ちをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、失敗しないように注意したいものです。
よく確認してから金融商品を購入
株式や投資信託をめぐる金融トラブルに巻き込まれる人のなかには、65歳以上の高齢者も多くいらっしゃいます。
例えば、高齢者が、親しい証券会社の担当者から、投資信託の購入を勧められることがあります。その際に「元本をあまり減らすことなく、月々に分配金ももらえます」というセールストークを信じ込み購入したとします。月々の分配金が「普通分配金」なら、利益が出ているのですが、「特別分配金」だと、元本を取り崩して分配をしていることになります。
2つの分配金の区別を理解していないと、特別分配金は受け取ることで、元本が次第に削られていることに気づかないのです。あとで気づいても、「リスクは説明しました」との答えしか返ってこないかもしれません。こうした例に見られるように、「元本をあまり減らすことなく」いう言葉を信じすぎ、その前提となる「現在の経済情勢が続けば・・」などの説明を、覚えていないというケースもあります。
高齢者から金融商品に関するトラブルを受け付けているセンターへの苦情も、商品の元本割れに関する説明の不足など、金融商品の仕組みに関する案件が多くなっています。金融機関側は「どうしても売りたい!」、購入する高齢者側は「少しでも資産を増やしたい!」との間で、あうんの呼吸で合意しているのかもしれません。
金融トラブルになりやすい要因
高齢者が金融トラブルに巻き込まれるには、いくつかの原因があります。
最も多いケースは、金融商品の仕組みをよく説明されていない、あるいは説明されても正しく理解していないことから生まれるトラブルです。証券会社の担当者から「利益が確実に出る」と言われたことを、うのみにしてしまうケースがこれに該当します。
特に元本割れのリスクを理解していないと、必ずトラブルになります。投資信託以上に仕組みが複雑な金融商品(例えば、仕組み債、外貨建て保険など)の購入に際しても、為替変動などへの理解が乏しいと同様のトラブルは起こりえます。さらに最近話題の「暗号資産」は投機性が高く、瞬間的に大暴落する可能性もあります。個人が設計・運用している信用度の低い暗号資産も多いため、高齢者の購入はお勧めできません。
また、手数料についても誤解が生まれます。特に人気の高い商品のなかには複雑な設計の商品もあり、その分手数料も高額になりがちです。少ない利益ではトータルで赤字となる商品もあり、利益が出ないために解約を選択し、結果として損失が膨らんだ、といったこともあります。手数料を軽視して少額で済むと理解していると、結果として十分な成果が上がらないために、トラブルにもなります。
本人の投資スタンスが明確でない場合も、トラブルの原因になります。「元本は絶対確保したい」「高い収益も確保したい」という期待は、経済情勢によっては必ずしも両立しません。
運用に成功している場合はよいのですが、そうでないと、トラブルに発展してしまいます。高い利益を生み出す可能性のある商品は、その分元本割れをするリスクもあるからです。高齢者は投資に目を向ける前に、自分自身がどういう姿勢で臨むのかをはっきりさせていれば、トラブルになる機会は少なくなるかもしれません。
高齢者は若い世代と比べて、預貯金などの金融資産を多く持っていることが多いです。金融機関からのアプローチが増えることは、当然かもしれません。例えば、会社を定年退職し1000万円を超える退職金が入ったため、どのように運用したらよいのか悩む方もいらっしゃいます。そこに向かって金融機関が、自社の金融商品を熱心に販売しようとしてきます。
しかし、勧誘を受けた時点で「よくわからないのでよろしく!」といった姿勢では、手数料の高額なリスク商品を勧められ、そのまま購入してしまう可能性も出てきます。後で「話が違う」と抗議しても遅いのです。「投資は自己責任」との姿勢で、自分自身どのようにしたいのかを、はっきりさせてから金融機関と接する必要があります。
金融トラブルを未然に防ぐ努力を
高齢者自身が金融トラブルに巻き込まれないためには、どこに注意したらよいでしょうか。
まず高齢者自身が、投資への考え方をはっきりさせることです。保有資産の元本割れは避けたいのか、リスクをとってでも資産を増やしたいのか、許容できる損失額はどのくらいか、などを決めておきましょう。資産を増やしたいので「何でもお任せします!」という姿勢は論外です。
金融機関が、リスクの高い商品の詳しい説明をせずに、「元本割れは絶対にない」「利回りが良く必ずもうかる」といった誇張したうたい文句での販売は、法的にもできません。そのために、リスク内容の説明を受けるのですが、高齢者の側がそれを十分に理解しないまま、わかったような顔をして金融機関に向き合い、勧められた商品をそのまま購入してしまうことは、厳に慎むべきでしょう。
高齢者自身に多少の知識があっても、投資信託の購入や新型保険への新規加入などの際には、担当者の説明をうのみにせずに、家族や知人に一度相談することが大切です。
また家族の側でも、高齢者がどんな金融商品を購入しようとしているのかは、確認したいものです。高齢者は、「人に聞くのが恥ずかしい」と考え、1人で判断し行動することは避けるべきです。特に購入時の手数料はどのくらいか、また途中の換金・解約の際に不利となる条件があるのか、などを家族と一緒に調べ、納得してから購入しましょう。
またトラブル発生時の対処方法、特に相談窓口についても確認しておくと安心です。公的な相談センターや業界団体の窓口では、こうした高齢者の金融トラブルに対して相談に乗ってもらうことができます。トラブルとなった事情を詳しく説明することで、解決に向けた示唆を得ることができます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。