もし、親が認知症になったらどのくらいお金がかかる? 事前に知っておきたい制度とは
配信日: 2022.01.20
厚生労働省の資料によると、2025年には、65歳以上の高齢者のうち5人に1人が認知症になるという推計があります。もし自分の親が認知症になったら、心配なのは介護やお金のことではないでしょうか。
そこで今回は、認知症になったらどのくらいお金がかかるのか、また知っておきたい制度についてしっかりとお伝えします。
認知症になったらどのくらいお金がかかるのか?
認知症は、症状を遅らせることはできても完治が難しく、症状が急に進むこともあり、いつまで介護が続くのか、どのくらいお金がかかるのか予測がつかないことで不安を抱える家族が多くいます。具体的にどのくらいお金がかかるのでしょうか。
認知症を発症後、すぐに施設に入居することは少なく、始めは自宅で介護をする場合が多く、介護用ベッド、車いす、歩行器などのほか、場合によっては手すりや階段昇降機の取り付けなど、初期費用はおおむね50万円以上が必要です。
ただし住宅改修や福祉用器具の購入費用については後から介護保険で8~9割が給付されます。ヘルパーさんを頼んで介護や生活支援をしてもらうなら、その費用もかかるでしょう。しかし、徘徊や暴言といった精神的にも負担の大きい認知症患者の介護は、長く自宅で続けるのは難しいのが現実です。
施設への入居を希望する場合は、認知症ケア専門の施設で「グループホーム(認知症対応型共同生活介護)」と呼ばれる施設が全国に1万2000ヶ所(2021年12月現在)ほどあり、65歳以上で要支援2以上、要介護1以上の方が対象になります。
毎月の利用施設費は12~18万円程度、入居一時金は0~100万円程度です。しかし「グループホーム」は患者数に対して数が少なく、症状が進むと退去しなくてはならないため、介護認定で要介護3以上の方を対象にした「特別養護老人ホーム」や「有料老人ホーム」を検討することになります。
この「特別養護老人ホーム」は、毎月の利用施設費が5万円~15万円、入居一時金はかかりませんが、待機高齢者が多く、入所できるまで4~5年待つこともあります。
「有料老人ホーム」であれば比較的すぐに入所できますが、一般的に費用が高く、入居一時金100万円~数千万円を預けた上で、毎月の費用が数十万円かかります。
これらを踏まえ、例えば最初の5年間は自宅、その後の5年間は施設で計10年間の介護生活とすると、その費用は3500万円以上かかることも珍しくないようです。
総務省の統計では、老後の平均生活費は単身世帯であれば月に15万1800円なので、10年間の生活費は1800万円超です。認知症になれば、その倍近くのお金がかかることになります。
本人の年金や貯蓄で賄えればいいのですが、不足分を家族が負担したり、サービスのレベルを落とした施設に移す必要も出てくるでしょう。
認知症によってできなくなるお金のこと
認知症になると、他人にだまされやすくなったり、お金の管理ができなくなったりするほか、次のようなことも考えられます。
財産の凍結
定期預金の解約、お金の引き出しや新規口座の開設といった手続きは、原則、本人でなくてはできません。亡くなった人の金融機関の口座が凍結されるトラブルを耳にすることがありますが、認知症など本人の判断力が衰えた状態になった場合も同じようなことが起こります。
例えば、「認知症の親に代わって生活費を引き出していたキャッシュカードを失くしたので再発行をしたい」と申し出ても、本人が認知症で意思が確認できなければ金融機関で手続きしてもらうことはできず、その後はお金を引き出せなくなってしまうことがあります。
不動産の売却など
金融機関の手続きができなくなるのと同様、認知症になると不動産の売買や賃貸といった契約もできなくなります。例えば親が認知症になり、その「介護費用を捻出するために空き家になった自宅を売却したい」という場合でも、やはり本人の意思が確認できなければ売却などはできません。
相続の問題
相続人が複数人いる場合、遺言書がなければ遺産分割協議で財産の分け方を決めますが、遺産分割協議は法律行為の1つであるため、相続人の中に認知症の人がいた場合はまとめることができません。
後で詳しく述べますが、こういった全ての法律行為を行うには、後見人を立てるなどの対策が必要になります。
知っておきたい制度とは?
地域福祉権利擁護事業
症状が軽い場合は、地域の社会福祉協議会が行っている「地域福祉権利擁護事業」を利用することができます。これは、判断能力が不十分で日常生活に困っている方に対し、自立した地域生活を安心して送れるよう福祉サービスなどの利用援助を行うものです。
デイサービスなどの福祉サービスの利用手続きのサポートや、預貯金を管理し、公共料金や家賃の支払い、銀行での引き出しの手伝いをしてもらうことができます。年金証書や保険証書など大事な書類を保管してくれるサービスもあります。
費用については、1回1時間まで1500円~3000円程度、書類等預かりは月1000円程度です。
ただし、本人が利用に必要な契約内容を理解でき、社会福祉協議会と契約ができることを条件としていますので、認知症で判断能力の衰えが著しい場合などは利用できません。
成年後見制度
認知症などにより、権利や義務の生じる大事な契約などの法律行為ができなくなった本人に代わって財産を管理してくれる人を家庭裁判所が決める制度で、家庭裁判所が後見人を決める「法定後見制度」と、本人が元気なうちにあらかじめ家族や信頼できる第三者に後見人を決めておく「任意後見制度」があります。
「法定後見制度」は、親族が家庭裁判所に申し立てをしてから2~4ヶ月間の審判を経て後見人がつき、家庭裁判所が後見人を通じて本人の財産を管理する形になります。
「任意後見制度」の方は、本人が自分の意思で後見人を選び、財産の管理を任せられますが、「任意後見監督人」が就き、任意後見人がその仕事を正しく行っているかを確認し、家庭裁判所に報告します。
ちなみに法定後見人の場合は、家族が後見人に選ばれたときや、裁判所が必要だと判断した場合、申し立てがあった場合に後見監督人が選任されます。
なお、後見人にも費用がかかります。家族が後見人に選ばれることは3割程度で、それ以外は専門職後見人と呼ばれる弁護士、司法書士などが就くことが多く、管理財産額が1000万円~5000万円であれば基本報酬月額は3~4万円、財産額が5000万円を超えれば月額5~6万円の費用が発生します。
家族が後見人になった場合には、後見監督人に費用がかかり、管理財産額が1000万円~5000万円で月額1~2万円、財産額が5000万円を超えれば月額2.5~3万円です。
家族信託
成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができるといわれる制度で、本人の財産を分け、家族が信託された分の財産の管理運用処分の裁量を広く与えられます。ただし契約を結ぶ条件として本人に判断能力があることが必要なため、すでに認知症などで意思能力が失われていれば契約できません。
この家族信託は、次に財産を継がせる人を定めておくと遺言をすることと同様の効果を得ることができ、しかも家族信託と遺言が両方ある場合には、家族信託の契約内容が優先します。また、2番目に継がせる人だけでなく3番目以降の人も決めることもできるという、遺言にはない効果もあります。
さらに家族信託契約により承継者を決めておくことで、相続時の遺産分割協議が不要になることも大きなメリットです。
しかし、一部を除いた投資信託や農地などの信託できない財産があったり、成年後見制度では対応している、生活や治療、介護などの身上監護に関する法律行為の代行は厳密には認められないなどのデメリットもあります。また、よく浸透しているとはまだいえず、専門家の中でも詳しい人を頼る必要があると思います。
まとめ
今回は、認知症とお金についてお伝えしましたが、いかがだったでしょうか。親御さんに認知症やお金の話を切り出すのはなかなか難しいかもしれません。
しかし、将来、介護が必要になったとき、親御さんに少しでも快適な生活を送ってもらい、家族の負担や不安を軽減するためにも、元気なうちにお金の管理ができなくなった後のことや、どのくらいのお金を介護に使えるのかなどをよく話し合っておきたいですね。
出典
内閣府 「平成29年版高齢社会白書(概要版)」
総務省統計局 「家計調査年報(家計収支編)令和元年(2019年)」
厚生労働省 「日常生活自立支援事業」
執筆者:藤丸史果
ファイナンシャルプランナー