更新日: 2022.01.25 その他老後
老後2000万円問題、海外では起きない理由って? 社会保障という切り口で比較してみました
老後の生活に大きく関わる社会保障を比較することで、多くの日本人を悩ます老後2000万円問題が海外では起きない理由を解説します。
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部(ふぁいなんしゃるふぃーるど へんしゅうぶ)
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ファイナンシャル・プランナー
住宅ローンアドバイザー ,宅地建物取引士, マンション管理士, 防災士
サラリーマン生活24年、その間10回以上の転勤を経験し、全国各所に居住。早期退職後は、新たな知識習得に貪欲に努めるとともに、自らが経験した「サラリーマンの退職、住宅ローン、子育て教育、資産運用」などの実体験をベースとして、個別相談、セミナー講師など精力的に活動。また、マンション管理士として管理組合運営や役員やマンション居住者への支援を実施。妻と長女と犬1匹。
目次
そもそも老後2000万円問題とは?
金融庁の金融審議会が2019年に公表した「高齢社会における資産形成・管理」において、収入が年金給付のみとなった高齢夫婦無職世帯においては、毎月生じる平均5万円分の不足を貯蓄から賄わなくてはならないため、老後30年間では合計約2000万円の貯蓄が必要であるという試算が出ました。
つまり、年金給付のみで老後を過ごす場合には、65歳時点で平均して2000万円の貯蓄が必要になるということです。この試算が、老後2000万円問題として世に広まったのです。
ここで注意が必要なのは、65歳時点の高齢夫婦無職世帯には平均貯蓄額が2252万円もあるという報告がされている点です。つまり、多くの高齢夫婦無職世帯では、不足する2000万円分を貯蓄で賄えます。
しかし、働き方が多様化する現代においては、給与や退職金、年金給付額などに差が生じているため、本当に65歳までに2000万円の貯蓄ができ、老後に豊かな生活ができるのかが不安である人も多いでしょう。
老後の生活を大きく左右する老齢年金制度の比較から見る世界の老後事情
厚生労働省がまとめた「主要国の年金制度の国際比較」には、日本、アメリカ、ドイツなどの主要国における社会保障制度についての比較が記載されています。これらの国における老後に大きく影響を与える公的な老齢年金制度の比較から、海外で老後問題が起きづらい理由を説明します。
まず、日本の公的な老齢年金は主に、自営業者などが加入する国民年金と会社員や公務員などが加入する厚生年金があります。
厚生労働省の「令和元年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2019年度末時点での国民年金の平均給付月額が5万5946円、厚生年金の平均給付月額は14万4268円となっています。支給開始年齢は、国民年金と厚生年金ともに65歳です。
次に、ドイツの公的な老齢年金は主に、一般年金保険と呼ばれ、会社員や公務員、また自営業者、無業者が加入することができます。被保険者期間における各被保険者の報酬点数や全被保険者の可処分所得の伸び率などに応じて給付額が決められます。
2019年の老齢年金の平均給付月額が旧西ドイツ地域で910ユーロ、旧東ドイツ地域で1132ユーロです。1ユーロを約130円とすると、それぞれ約11万8300円と約14万7160円の給付となります。支給開始年齢は、2012年から2029年にかけて、65歳から69歳へと段階的に引き上げられています。
この三カ国における公的な老齢年金制度の比較では一見、年金給付額に大きな差がないように見えます。しかし、日本の年金制度にはアメリカやドイツにない特徴があります。それは、働き方によって加入することができる年金が区別され、年金給付額が大きく二極化している点です。
日本では、自営業者や短期労働者は厚生年金に加入することができませんが、アメリカやドイツでは自営業者であっても会社員や公務員と同じ公的な老齢年金制度に入ることができます。
国民年金と厚生年金では給付月額に10万円近くの差があるように、加入している年金制度で給付額が大きく異なることで、日本の年金給付額には格差が生まれているのです。
この格差を、iDeCoなどの私的年金やNISAを利用した資産運用などで埋めていくことを日本は勧めていますが、それらも当然掛け金を払う必要があるため、現役時代の所得格差を是正する訳ではありません。
アメリカやドイツには、多様化する働き方に対応し、包括的に運用できる年金制度があるため、現役時代の働き方や所得格差による老後の生活への影響が抑えられています。
海外で老後2000万円問題が起きない理由は、多様化する働き方や所得格差に対応した年金制度があるから
日本においても、平均的には老後の生活は安泰です。しかし、世界と比べて働き方や所得の違いによって給付額の格差が大きい年金制度によって、年金給付額に大きな差が生まれています。
もしも、日本の老後問題を解決したいのならば、海外のように多様化する働き方や所得の格差に対応し、包括的に運用できる年金制度にしていく必要があるでしょう。
出典
厚生労働省海外の年金制度
金融庁金融審議会「高齢社会における資産形成・管理」
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
監修:高橋庸夫
ファイナンシャル・プランナー