更新日: 2022.01.28 定年・退職

定年退職時に必要な手続き、忘れたらどうなるの?

執筆者 : 辻章嗣

定年退職時に必要な手続き、忘れたらどうなるの?
会社員などの方が定年退職時に必要な手続きには、年金、健康保険、雇用保険および税金に関するものなどがあります。手続きの期限を過ぎたり、書類に不備があったりすると、公的な保障が受けられなかったり、受け取れるはずのお金がもらえない場合がありますので、必要な書類を確認して必ず提出するようにしましょう。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

年金に関する手続き

定年退職時の年金に関する手続きには、本人および配偶者に係る手続きがあります(※1)。なお、ここでは年金の請求手続きについては触れていません。
 

1. 本人の年金手続き

60歳以上で退職した場合は、基本的に年金の加入手続きは必要ありません。ただし、20歳から60歳の間に年金の未納期間などがあって、満額の老齢基礎年金を受給できない場合は、申し出により65歳まで国民年金に任意加入することができます。
 
国民年金の任意加入手続きは、住所地の市区町村役場の年金窓口、または年金事務所で行います。特に期限はありませんが、申し出のあった月からの加入となり、さかのぼって任意加入することはできないため、退職後、速やかに手続きするといいでしょう。
 

2. 配偶者の年金手続き

退職した第2号被保険者の方に扶養されていた60歳未満の配偶者は、第3号被保険者から第1号被保険者に変更となり、国民年金保険料を納付しなければなりません。国民年金の種別変更の手続きは、住所地の市区町村役場の年金窓口で退職日の翌日から14日以内に行います。
 
この手続きを忘れると国民年金保険料が未納となって、老齢基礎年金の受給額が減ることがあります。
 

健康保険に関する手続き

退職後の健康保険は「家族の被扶養者となる方法」、「加入していた健康保険の任意継続被保険者になる方法」および「国民健康保険に加入する方法」があります。選択肢が複数ある方は、支払う保険料の総額などを比較して選択するといいでしょう。
 
健康保険の手続きが遅れると、その間は無保険状態となり、医療機関を受診する際は医療費が全額負担となるので速やかに手続きをしてください(※1、2)。
 

1. 家族の被扶養者となるための手続き

健康保険に加入している家族(被保険者)の三親等内の親族で、主として家族(被保険者)によって生計を維持されている場合などの条件を満たせば、家族(被保険者)の被扶養者になることができます。
 
被扶養者になるためには、扶養することになった日から原則5日以内に家族(被保険者)が事業主を通じて健康保険組合などに必要な書類を提出します。この場合、被扶養者は保険料を支払う必要はありません。
 

2. 任意継続被保険者になるための手続き

退職する日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヶ月以上ある方は、申請することで退職日の翌日から2年間に限り、在職中に加入していた健康保険組合の任意継続被保険者になることができます。
 
任意継続被保険者になるための申請手続きは、退職日の翌日から20日以内に健康保険組合などに行います。
 
任意継続被保険者になると、これまで労使で折半していた健康保険料を全額支払うことになりますが、保険料の算定根拠となる標準報酬月額には上限が設けられていることや、被扶養者は保険料を支払う必要がないなどのメリットがあります。
 

3. 国民健康保険に加入するための手続き

退職などにより健康保険(被用者保険)の被保険者資格を喪失した人は、国民健康保険に加入することができます。手続きは、退職日の翌日(他の健康保険の被保険者、またはその被扶養者でなくなったとき)から14日以内に住所地の市区町村役場で行います。
 
国民健康保険料(税)は前年の所得や、その世帯の国民健康保険に加入している方の人数によって決定されるため、退職の翌年は前年の所得に応じて保険料が高くなる場合があります。なお、各市区町村によって健康保険料(税)の算定方式は異なります。
 

雇用保険に関する手続き

雇用保険の被保険者の方が定年による離職後、「失業の状態」にある場合、65歳未満の方には「基本手当」が、65歳以上の方には「高年齢求職者給付金」が支給されます(※3)。
 
「失業の状態」とは、ハローワークで求職の申し込みを行った方が、積極的な意思や就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても職業に就くことができない状態をいいます。
 

1. 基本手当の請求手続き

退職の日以前の2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12ヶ月以上ある65歳未満の方が失業の状態にある場合、「基本手当」(いわゆる失業手当)を受給することができます。
 
手続き方法は、まず住居地を管轄するハローワークにおいて求職の申し込みを行いますが、この際には離職後に会社から送付される「雇用保険被保険者離職票」が必要です。また、その後は4週間に一度、失業認定を受ける必要があります。
 
なお、雇用保険の受給期間は原則として離職した日の翌日から1年間ですので、この期限を越えると基本手当を受給することはできません。ただし、60歳以上の方が定年退職した場合は、離職の日の翌日から2ヶ月以内に手続きをすることにより、受給期間を最大で1年間延長できます(※4)。
 

2. 高年齢求職者給付金の請求手続き

原則として退職の日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6ヶ月以上ある65歳以上の方が失業の状態にある場合は、「高年齢求職者給付金」が支給されます。
 
請求手続きは基本手当と変わりませんが、失業認定は1回限りとなります(※3、4)。
 

税金に関する手続き

税金に関する手続きには「退職金に関する手続き」、「その年の確定申告に関する手続き」および「住民税に関する手続き」があります。
 

1. 退職金に関する手続き

退職金は退職所得として原則、他の所得と分離して課税されます。そのため、一般的には退職金から所得税と住民税が源泉徴収され、その差額が支給されます。この場合は退職金に関する手続きは必要ありませんので、会社から退職金に関する源泉徴収票を受け取り、保管しておきましょう(※5)。
 
源泉徴収されなかった場合は、次に述べる確定申告において退職所得を申告する必要があります。
 

2. 確定申告に関する手続き

会社員の場合、支払われる給与から前もって所得税が源泉徴収されていますが、実際に支払う所得税額と一致しない分は年末調整で過不足が調整されます。従って、一般的に給与以外の所得や医療費などの控除がない場合は、確定申告をする必要はありません(※6)。
※給与所得2000万円超の方や、2ヶ所以上から給与をもらっている方などは確定申告が必要となります。
 
しかし、年の途中で退職した場合は年末調整が行われないため、翌年2月16日から3月15日の間に確定申告を行う必要があります。確定申告の手続きは、住居地を管轄する税務署のほか、郵送やインターネット(e-Tax)で行うことができます。
 
なお、確定申告には、退職時までに源泉徴収された税額が記載された源泉徴収票が必要となります(※7)。
 

3. 住民税に関する手続き

住民税の納付方法には、納税者が直接納付する「普通徴収」と、給与や年金から源泉徴収される「特別徴収」があります。
 
在職中は給与から特別徴収されていますが、退職後は納税者が直接納付する普通徴収に切り替わり、居住地の市区町村役場から住民税の納付書が届きますので、記載された期日までに納付しましょう(※8)。
 
普通徴収では納付書による支払いのほか、銀行口座からの引き落としやクレジットカードを利用することもできます。
 

まとめ

退職時には、年金、健康保険、雇用保険および税金に関する手続きが必要となります。それぞれの手続き先と期限は下表のとおりとなりますので、手続きに漏れや遅れのないようにしてください。
 

区分 手続き内容 手続き先 手続き期限
年金 国民年金の任意加入 市区町村役場
年金事務所
65歳になるまで
第3号被保険者から第1号への変更 市区町村役場 退職日の翌日から14日以内
健康保険 家族の扶養手続き 家族の勤務先 扶養することになった日から5日以内
任意継続被保険者 健康保険組合など 退職日の翌日から20日以内
国民健康保険の加入 市区町村役場 退職日の翌日から14日以内
雇用保険 受給手続き ハローワーク 離職の日から1年以内
受給期間の延長 離職の日の翌日から2ヶ月以内
税金 確定申告 税務署 翌年の2月16日から3月15日
住民税の納付 市区町村役場 納付書に記載された納税期限

(※1)~(※8)を基に筆者作成
 
出典
(※1)日本年金機構 退職後の年金手続ガイド
(※2)全国健康保険協会 退職後の健康保険について
(※3)ハローワークインターネットサービス 基本手当について
(※4)東京ハローワーク 求職者給付に関するQ&A
(※5)国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
(※6)国税庁 No.2662 年末調整のしかた
(※7)国税庁 No.2020 確定申告
(※8)総務省 個人住民税
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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