更新日: 2022.03.29 定年・退職

退職するなら59歳がお得といわれる理由は? 落とし穴はない?

執筆者 : 辻章嗣

退職するなら59歳がお得といわれる理由は? 落とし穴はない?
60歳になって定年退職するよりも、59歳(60歳未満)で退職すると失業手当の受給条件が有利になるといわれています。今回は、退職するなら59歳がお得といわれる理由とデメリットなどについて解説します。
辻章嗣

執筆者:辻章嗣(つじ のりつぐ)

ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

元航空自衛隊の戦闘機パイロット。在職中にCFP(R)、社会保険労務士の資格を取得。退官後は、保険会社で防衛省向けライフプラン・セミナー、社会保険労務士法人で介護離職防止セミナー等の講師を担当。現在は、独立系FP事務所「ウィングFP相談室」を開業し、「あなたの夢を実現し不安を軽減するための資金計画や家計の見直しをお手伝いする家計のホームドクター(R)」をモットーに個別相談やセミナー講師を務めている。
https://www.wing-fp.com/

退職するなら59歳がお得といわれる理由

いわゆる失業手当(雇用保険の基本手当)は、雇用保険の被保険者が離職し、新しい仕事を探す間の生活を支えるために支給されます。
 
失業手当を受け取ることができる日数(所定給付日数)と支給額(基本手当日額)は、離職日の年齢、雇用保険の被保険者であった期間および離職の理由によって決定されます(※1)。
 
勤続年数(雇用保険の被保険者期間)20年以上の方が、59歳(60歳未満)で退職する場合と、60歳で定年退職する場合の失業手当の受給要件を比較すると、下表のとおりとなります。
 

(※1)(※2)(※3)(※4)を基に筆者作成
 

59歳での退職がお得になるケース

60歳で定年退職するよりも59歳(60歳未満)で退職する方がお得になるケースとは、どのような場合でしょうか。
 
1. 会社都合で退職する場合
会社の都合により59歳(60歳未満)で退職する場合は、失業手当の所定給付日数が330日となり、60歳で定年退職するよりも180日多くなります(※2)。
 
ただし、退職理由が会社都合となるのは、倒産や解雇、会社が希望退職を募った場合などに限られ、離職時に交付される離職票(雇用保険被保険者離職票)に会社都合の退職であることが明記されている必要があります(※3、5)。
 
2. 基本手当日額が7096円以上になる場合
失業手当の1日当たりの支給額である「基本手当日額」は、下表のとおり、原則として離職した日の直前の6ヶ月に毎月支払われた賃金(賞与などは除く)の合計を180日で割って算出した金額(賃金日額)に対して、およそ50%~80%(60歳~64歳は45%~80%)になります。
 

離職時の年齢 賃金日額 給付率 基本手当日額
45歳~59歳 2577円以上、4970円未満
4970円以上、1万2240円以下
80%
80%~50%
2061円~3975円
3976円~6120円
1万2240円超、1万6530円以下 50% 6120円~8265円
1万6530円(上限額)超 8265円(上限額)
60歳~64歳 2577円以上、4970円未満
4970円以上、1万1000円未満
80%
80%~45%
2061円~3975円
3976円~4950円
1万1000円超、1万5770円以下 45% 4950円~7096円
1万5770円(上限額)超 7096円(上限額)

(※6)を基に筆者作成
 
基本手当日額の上限額(令和3年8月1日から)は前述のように、59歳(60歳未満)では8265円、60歳では7096円となっています(※6)。
 
自己都合により59歳(60歳未満)で退職した場合の所定給付日数は、60歳で定年退職した場合と同じ150日となるので、基本手当日額が60歳での定年退職時の上限である7096円よりも高い場合に限り、59歳(60歳未満)で退職する方がお得になります。
 

59歳(60歳未満)で退職するデメリット

60歳で定年退職を迎える人が、自己都合により59歳(60歳未満)で退職した場合のデメリットについて整理すると、以下の2つがあります。
 
1. 失業手当に給付制限期間がある
失業手当を受給する際、60歳での定年退職の場合は給付制限期間がありませんが、自己都合により59歳(60歳未満)で退職した場合は、2~3ヶ月の給付制限期間があり、この間、失業手当は給付されません(※4)。
 
2. 退職金が減る可能性がある
退職金の支給要件と支給額は会社の規定により定められていますが、通常、定年など会社の定める時期まで勤続した社員と、中途で退職した社員では、退職金の支給額に差を設けています。
 
従って、60歳で定年退職を迎える人が、自己都合により59歳(60歳未満)で退職した場合は、退職金が減ることを覚悟しなければなりません。
 

まとめ

60歳で定年退職するよりも59歳(60歳未満)で退職する方が、失業手当の所定給付日数が多く、基本手当日額の上限額も高くなります。ただし、所定給付日数が多くなるのは希望退職に応じた場合など、会社の都合による退職に限られます。
 
一方、定年退職を待たず、自己都合により59歳(60歳未満)で退職すると、失業手当を2~3ヶ月受給することができず、退職金も減ることがありますので、慎重に考えましょう。
 
出典
厚生労働省職業安定局 ハローワーク インターネットサービス 基本手当について
厚生労働省職業安定局 ハローワーク インターネットサービス 基本手当の所定給付日数
厚生労働省職業安定局 ハローワーク インターネットサービス 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
厚生労働省 「給付制限期間」が2か月に短縮されます
厚生労働省職業安定局 ハローワーク インターネットサービス 記入例:雇用保険被保険者離職票-2
厚生労働省 雇用保険の基本手当日額が変更になります
 
執筆者:辻章嗣
ウィングFP相談室 代表
CFP(R)認定者、社会保険労務士

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