更新日: 2022.04.20 その他老後

親が認知症かも…これから年金や預貯金を引き出すためにはどんな手続きが必要?

執筆者 : 中村将士

親が認知症かも…これから年金や預貯金を引き出すためにはどんな手続きが必要?
年金や預貯金を引き出すためには、原則として、本人の意思確認が必要です。金融機関は本人の資産を守らなければならないからです。しかし、認知症の疑いがある場合、本人の意思確認が難しいかもしれません。
 
本人の生活費や入院費、介護施設費用などのために、年金や預貯金を引き出す必要があります。本人が銀行などに足を運ぶことが難しいのであれば、家族が協力するケースが多いでしょう。
 
しかし、本人の意思確認が難しい状況であれば、年金などを引き出せない恐れがあります。
中村将士

執筆者:中村将士(なかむら まさし)

新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー

私がFP相談を行うとき、一番優先していることは「あなたが前向きになれるかどうか」です。セミナーを行うときに、大事にしていることは「楽しいかどうか」です。
 
ファイナンシャル・プランニングは、数字遊びであってはなりません。そこに「幸せ」や「前向きな気持ち」があって初めて価値があるものです。私は、そういった気持ちを何よりも大切に思っています。

窓口で相談する

全国銀行協会は「預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引き出しに関するご案内資料」において、そのような場合は、「お取引銀行窓口まで、ご相談ください」と促しています。まずは窓口で相談してみましょう。
 
窓口で相談する際には、以下のものを用意しておくと良いです。

・通帳
・キャッシュカード
・届出印
・相談に行く方の本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
・預金者本人との関係性が分かる書類(戸籍謄本、住民票など)
・お金が必要な理由が分かる書類(病院・介護施設からの請求書など)

上記の方法は、その都度相談に行く必要があります。継続的に年金や預貯金を引き出したい場合は、「成年後見制度」の利用を検討してみましょう。
 
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分ではない方を保護するための制度です。「成年後見人」などの選任された方(後見人)が、本人に代わって事務(今回のケースでは年金や預貯金を引き出すこと)を行ったりできます。成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」があります。
 

任意後見制度を利用する

任意後見制度は、任意のタイミングで任意の後見人(任意後見人)を選定します。本人と任意後見人となる方の間で、あらかじめ「任意後見契約」を結びます。このとき、どのような事務を委任するのかについて、内容を決めます。この内容も任意です。ただし、契約は「公正証書」で行う必要があります。
 
そして、本人の判断能力が不十分になったと判断したとき、家庭裁判所に対し任意後見監督人の選任を申し立てます。申し立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見人となる方です。
 
ただし、本人以外が申し立てをする場合、本人が意思表示をできない場合を除いて、本人の同意が必要となります。任意後見契約は、「任意後見監督人選任の審判」をしたときから効力が生じます。
 

法定後見制度を利用する

法定後見制度は、後見人を家庭裁判所が選任します。後見人には「成年後見人」の他、「保佐人」「補助人」があります。これらは本人の判断能力の程度により異なります。
 
本人の判断能力と後見人は、以下のように対応しています。

本人の判断能力 後見人
判断能力が欠けているのが通常の状態 成年後見人
判断能力が著しく不十分 保佐人
判断能力が不十分 補助人

※筆者作成
 
付与される権限も異なります。成年後見人は幅広い権限を持ちます。保佐人、補助人の順に権限の範囲は狭くなっていきます。
 
この制度を利用するには、家庭裁判所に「後見開始(保佐開始、補助開始)」の申し立てを行う必要があります。
 
申し立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市町村長などです。その後、家庭裁判所が「後見開始(保佐開始、補助開始)の審判」を行います。家庭裁判所は、必要に応じて「後見監督人(保佐監督人、補助監督人)」を選任することができます。
 

まとめ

認知症の疑いがある場合で、これから年金や預貯金を引き出すための方法として、(1)窓口で相談すること、(2)任意後見制度を利用すること、(3)法定後見制度を利用することを紹介しました。年金や預貯金を引き出すためには、原則として、本人の意思確認が必要ですが、意思確認が難しい場合には、これらの方法を利用しましょう。
 
後見制度の利用は、手続きが煩わしく感じるかもしれません。しかし、とても重要な制度であることはご理解いただけたと思います。
 
後見制度については、地域に相談窓口があります。相談支援専門員、地域包括支援センター、権利擁護センター、社会福祉協議会、成年後見センター、市区町村の相談窓口などです。利用を検討してみたいのであれば、まずは相談するのが良いでしょう。
 

出典

一般社団法人全国銀行協会 預金者ご本人の意思確認ができない場合における預金の引出しに関するご案内資料
法務省 成年後見制度・成年後見登記制度
裁判所 裁判手続 家事事件Q&A(第11 成年後見に関する問題)
厚生労働省 成年後見はやわかり
 
執筆者:中村将士
新東綜合開発株式会社代表取締役 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 CFP(R)(日本FP協会認定) 宅地建物取引士 公認不動産コンサルティングマスター 上級心理カウンセラー

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