更新日: 2022.06.28 その他老後

「家族信託」は相続や老後の財産管理対策に有効? その内容と特徴を解説

執筆者 : 桜井鉄郎

「家族信託」は相続や老後の財産管理対策に有効? その内容と特徴を解説
認知症などによる判断能力の低下や、自身での財産管理への不安から、金融機関が口座を凍結するケースがあります。
 
そんな中、本人に代わって財産管理を任せる方法として成年後見制度と家族信託の2つの制度があります。本記事ではこれら2つの制度を中心に家族信託について詳しく解説します。
桜井鉄郎

執筆者:桜井鉄郎()

1級ファイナンシャルプランニング技能士 宅地建物取引士

家族信託とは?

家族信託とは、自分の保有する財産(預貯金、不動産など)を家族など信頼できる人に託し、特定の目的にしたがって管理・処分を任せる仕組みです。家族信託の当事者は次の3人です。


・委託者(信託財産を託す人)
・受託者(信託財産を託され、決められた目的のために管理・処分する人)
・受益者(託された財産から生じた成果の給付を受ける人)

信託財産とは、家族信託の対象となる財産で金銭的価値に置きかえられるものです(例えば現金、不動産、株式など)。
 

家族信託で何ができるか?

 

成年後見制度の弱点を補える

成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があります。前者は判断能力が衰えた人の法的権利を守る制度であり、後者は本人の判断能力がある間に任意後見人になる予定の人と任意後見契約を締結する制度です。
 

・法定後見制度の場合

本人の財産を守ることが最も重要とされるため、預貯金があるあいだの自宅売却や、金融資産の効率的運用などの柔軟な資産運用をすることが難しい傾向があります。家族信託の場合、受託者は信託目的に沿って柔軟に財産の管理・処分を行うことができます。
 

・任意後見制度の場合

任意後見制度では本人が認知症などで判断能力が低下した場合でも財産を処分する権利は失われず、任意後見人には取消権が認められていません。
 
したがって本人が悪徳商法などの詐欺により高額商品を購入させられた場合においても、取引を取り消すことはできません。一方の家族信託の場合は、このような場合でも受託者は取引を取り消すことができます。
 
ただし家族信託にはない成年後見制度のメリットもあります。それは、本人の身上監護のための契約行為を行えることです。
 
たとえば医療・介護サービスの締結、施設の入退所の手続きなどです。家族信託ではこれらを行うことができません。なぜなら目的が委託者本人の財務管理・運用・処分だからです。
 

遺言ではできないことが可能

遺言では二次相続以降の財産の帰属先の指定ができません。一次相続とは、ある人が亡くなった際の相続です。二次相続とは、一次相続での相続人が亡くなった際の相続です。
 
遺言で自身の配偶者(例:妻)に遺産を承継させることはできます(一次相続)。しかし妻の死後、子に遺産を承継させることを遺言ではできません。このような場合でも家族信託を利用すれば、承継させたい財産を妻の死後、子に承継することができます。
 

遺産分割に関するトラブルを予防

相続人間の関係がよくないと遺産分割がまとまらずトラブルになることが予想されます。また、収益用の不動産が相続により相続人の共有になったとき、相続人の意見がまとまらず売却も賃貸もできなくなるケースもあり得ます。
 
このような場合でも家族信託を利用すれば、管理・処分を受託者に任せ売却代金・賃料は相続割合に応じて相続人に分配することで、相続人間の争いを未然に防ぐことができます。
 

まとめ

家族信託を行うためには、当事者(委託者・受託者・受益者)のほかに、法律、税金などの専門家(弁護士、司法書士、税理士など)のアドバイスも必要でしょう。
 
家族信託は家族ごとにニーズが異なり、長期にわたって信託財産を安定的に運用するためにさまざまな制度を組み合わせ作り上げていく必要があるからです。家族信託の活用を考えられた初期段階からこれら専門家に相談することをおすすめします。
 

出典

一般社団法人家族信託普及協会 家族信託とは
相続会議 遺言で二次相続の方法を指定できる? 二世代先の相続を指定する方法を解説
 
執筆者:桜井鉄郎
1級ファイナンシャルプランニング技能士 宅地建物取引士