更新日: 2022.07.12 定年・退職

小規模企業共済ってどんな制度? 「退職金」以外でどんなメリットがあるの?

執筆者 : 荒木和音

小規模企業共済ってどんな制度? 「退職金」以外でどんなメリットがあるの?
経営者や個人事業主に活用されている小規模企業共済。退職金を受け取れる以外にもさまざまなメリットがあります。本記事では、制度の概要やメリット、デメリットを詳しく解説します。
荒木和音

執筆者:荒木和音(あらき かずね)

2級ファイナンシャルプランニング技能士

小規模企業共済とはどんな制度?

小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員、個人事業主向けの退職金制度です。1965年に始まり、加入者は約153万人です(2021年3月時点)。
 
毎月一定の掛け金を積み立て、退職時に一括または分割で共済金を受け取る仕組みになっています。共済金が受け取れるのは、役員の退任時のほかに廃業、法人解散といったタイミングです。共済金受給額の平均は1130万円です。解約時には納付した期間に応じて、掛け金合計額の80~120%が解約手当金として受け取れます。
 
加入できるのは、従業員数20人以下(業種によっては5人以下)の会社役員または個人事業主に限られます。配偶者や15歳以上の親族などの事業専従者や、生命保険外務員などは加入できません。
 

経営者や個人事業主が退職金を受け取るメリットは

経営者や個人事業主が手取り額を増やしたいときには、毎月の報酬を引き上げるよりも退職金として受け取った方がお得になります。なぜなら、退職金には税制上のメリットがあるからです。
 
退職金は退職所得として課税対象となります。退職所得の金額は、次の計算式で求められます。
 
(収入金額 - 退職所得控除額) ×2分の1
 
「退職所得控除」の計算方法は表1のとおりです。
 
表1

出典:国税庁「 No.1420退職金を受け取ったとき(退職所得)」
 
つまり、実際に受け取った退職金額から「退職所得控除」を差し引くことができ、そこで求めた金額に2分の1をかけた額が所得となって課税対象となる所得額が減るため、所得税や住民税が軽減されるのです。
 
例えば、勤続30年で退職金を5000万円受け取った場合には、退職所得控除額は、800万円+70万円×(30年ー20年)=1500万円となります。退職所得として課税対象となるのは、(5000万円ー1500万円)×2分の1=1750万円です。
 
一方、役員報酬や事業所得として5000万円を受け取った場合には、各種控除を考慮しない場合、5000万円がそのまま課税対象となります。
 

小規模企業共済に加入する3つのメリット

小規模企業共済に加入すると次のようなメリットがあります。
 

経営状況にかかわらず退職金を受け取りやすい

一般には、企業が経営者へ退職金を支払う場合には、多額の資金が必要になるため、資金繰りに影響する場合があります。経営状況が悪化している場合には支払いが難しく、引退の時期を先送りにせざるを得ない状況も出てくるでしょう。最悪の場合、倒産して退職金自体が一切支払えない可能性もあります。
 
小規模企業共済は、会社と切り離された外部機関です。経営状況に左右されず、あらかじめ積み立てた金額を、計画通りに受け取りやすいというメリットがあります。
 

掛け金の全額が所得控除できる

毎月の掛け金は、1000円から7万円の範囲(500円単位)で選択できます。掛け金の全額が、「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となっているため、節税効果が期待できるのがメリットです。
 

さまざまな貸付が受けられる

小規模企業共済の契約者は、低金利で即日融資も可能な貸付制度を利用できます。利用できる貸付制度は次のとおりです。貸し付けの上限額は、掛け金の納付期間に応じて決定されます。
 

●一般貸し付け
●緊急経営安定貸し付け
●傷病災害時貸し付け
●福祉対応貸し付け
●創業転業時、新規事業展開等貸し付け
●事業承継貸し付け
●廃業準備貸し付け

 

小規模企業共済に加入する2つのデメリット

小規模企業共済への加入を検討する場合には、デメリットについても十分に把握しておきましょう。
 

加入してから数ヶ月は掛け捨てになるリスクがある

掛け金納付月数が6ヶ月未満の場合、支払い事由に該当しても共済金は受け取れません。12ヶ月未満で解約すると、解約手当金も受け取れないため、掛け捨てになるリスクがあります。金額の増減はいつでもできるため、加入してから数ヶ月は掛け金を無理なく支払える範囲に留めておくのが無難です。
 

加入後20年未満で解約すると元本割れする

掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満のときに解約をすると、支払われる解約手当金が掛け金の合計額を下回り、元本割れしてしまいます。
 
加入期間が240ヶ月以上の場合でも、途中で掛け金を増減させた場合に、掛金区分ごとに設定されている掛金納付月数が240ヶ月を下回ったときには、元本割れする可能性があるため、注意が必要です。
 

出典

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 制度の概要

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 沿革

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 共済金(解約手当金)について

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 現況

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 小規模企業共済制度のしおり
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 加入資格

国税庁 No.1420退職金を受け取ったとき(退職所得)

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 掛け金について

国税庁 No.1135 小規模企業共済等掛金控除

独立行政法人 中小企業基盤整備機構 貸付制度について

 
執筆者:荒木和音
2級ファイナンシャルプランニング技能士