更新日: 2022.09.15 セカンドライフ
「高年齢雇用継続給付」に頼らないシニア世代の資産形成のあり方
実は、この「高年齢雇用継続給付」がいま、曲がり角に差し掛かっています。今回は、社会情勢の変化や制度の変更・廃止の可能性を踏まえ、定年後に再雇用で働こうと考えている場合にどのようなライフプランの策定が求められるのかについて解説していきます。
執筆者:茂野博起(しげの ひろき)
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士
高年齢雇用継続給付金に生活を支えられている60歳以降の高齢再雇用社員
60歳から65歳の再雇用社員の賃金が低下する場合の「穴埋め」として機能しているのが、高齢者雇用継続給付金です。
雇用継続給付金とは
「雇用継続給付金」とは、60歳から65歳までの間、会社を退職後、改めて再雇用された際に給与減額幅が一定割合以上になると、雇用保険から支払われる給付金のことです。
適用条件
雇用継続給付金を受け取ることができる条件は次の通りです。
1.一般雇用被保険者であった
2.60歳時点の賃金が再雇用によって75%未満になった
3.雇用保険料を5年以上払っている
計算例
雇用継続給付金を自分がいくら受け取るのかを知りたい場合は、次のように試算することができます。
【例:60歳時点の賃金月額が40万円で、定年退職後の賃金が25万円になった場合】
1.まず、下記の計算式で「低下率」を割り出します
低下率(%)=支払い対象月の賃金額÷60歳時点の賃金月額×100
25万円÷40万円×100=62.5%
2.低下率を支給率早見表と照合し「支給率」を割り出します
図表1
出典 厚生労働省 Q&A~高年齢雇用継続給付~
3.次の計算式で支給額を算出します
高年齢雇用継続給付金支給額=実際に支払われた賃金額(25万円)×支給率(13.07)×1/100=3万2675円
ただし、以下の点に留意が必要です。
・「支給率」が61%未満になった場合は一律15%が支給されます
・再雇用による「賃金低下率が75%以上の場合」は支給されません
・令和4年8月1日以降の支給限度額が、36万584円から36万4594円に変更になりました
・賃金が支給限度額を上回る人は、高齢者雇用継続給付金を受給できません
高齢者雇用継続給付にはもう頼れない?
高齢者雇用継続給付金があるからといって、再雇用の生活が十分に保障されるとは言い切れません。その理由は2つあります。
そもそも、高齢者雇用継続給付金で現役世代収入を補えきれていない
再雇用後の収入が退職時を上回るとは限りません。高年齢雇用継続給付金と退職後の賃金を合算しても収入が減少するという可能性は十分にあります。
また、少子高齢化によって税金や社会保険費による負担は今後も増加し続けることが予想されます。これに物価高が加わることで、生活はさらに苦しくなるかもしれません。こうした情勢下、高年齢雇用継続給付金は収入が減ったときの生活を支える上で、あくまで補助的な役割に限られると認識しておく必要があります。
いずれ高年齢雇用継続給付がなくなる
また、実は2025年度より高年齢雇用継続給付金の支給率が半減し、段階的に縮減・廃止へ向かっていくことが既に決まっています。
これは2024年度で「65歳までの雇用継続制度」の経過措置が終了することを意味します。それと入れ替わるように「70歳までの就業機会確保(改正高年齢者雇用安定法)」が新たに施行されるというわけです。
制度改正後、事業主は以下の3つの選択肢によって、再雇用従業員を守る義務が生じます。
1.65歳に定年年齢を引き上げる
2.希望者全員を65歳までの継続雇用制度を導入する
3.定年制を廃止する
このように高年齢雇用継続給付が廃止されたとしても、一概に状況が悪くなると考える必要はありません。ただしこの法改正が、定年後の収入の問題を全て解決するわけではないこともまた事実です。
社会保障や公的サービスが現行制度のまま存続するとは限らない
このように、老後の生活を支える仕組みは大きく変わろうとしています。高年齢雇用継続給付の刷新は、公的保障制度というものが永久に、同じ形態で存続するわけではないことを示しています。積み立て投資など老後の資産形成に向けた自助努力の重要性が叫ばれているのも、年金制度を含めた公的サービスに対する不安が背景にあるといえるでしょう。
退職後の収入を増やすための工夫・努力を
少子高齢化のさらなる深刻化が見込まれる日本社会では、不確定要素の多い社会保障に頼ってばかりもいられません。高齢者雇用継続給付に代わるものとして、資格を取得するなどの自己啓発を含め、老後の収入を増やすための工夫、努力がいっそう必要になるでしょう。
出典
厚生労働省 Q&A~高年齢雇用継続給付~
厚生労働省 「60代雇用生活調査」 労働政策研究・研修機構
厚生労働省 高年齢者雇用安定法の改正の概要
執筆者:茂野博起
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士