更新日: 2022.09.28 定年・退職
定年退職時の税負担は重い? 退職金手取り金額の算出方法を解説
老後のマネープランを綿密に策定するためには、税負担を考慮し、実際の退職金手取り額がいくらになるかをできるだけ正確に算出することが大切です。
執筆者:茂野博起(しげの ひろき)
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士
定年退職時の退職金の手取り金額を確認する方法
退職一時金などから生じる納税額を算出し、それらを差し引いた手取りの金額を概算する方法について解説していきます。
1.勤務先企業の退職金制度を確認する
まずは定年退職時の退職一時金額を確認します。条件さえそろえば、現役社員でも算出できます。退職金制度のある企業の就業規則には、退職金の算出方法が記載されています。大企業であれば現在における退職一時金予定額を定期的に交付する場合があるでしょう。
そこで、まずは勤務先企業がどのような退職金制度のもとで計算をしているかを就業規則などで確認します。最近では社員の貢献度などを一定程度、金額に反映させるポイント制を導入している会社もあります。
2.退職一時金などの退職時収入の情報を収集する
定年退職時の退職所得には、勤務先企業からの退職一時金だけでなく、以下のものも含まれます。
●厚生年金基金の一時金
●確定給付企業年金の一時金
●確定拠出型年金の一時金
企業からの受け取る退職一時金と合わせ、退職所得に該当するこれら各種一時金の額についてしっかり確認しましょう。
退職所得控除を割り出す方法
退職所得控除額は図表1に示す方法で確かめることができます。
図表1 退職所得控除
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
勤続年数20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
勤続年数20年以上 | 800万円×70万円×(勤続年数-20年) |
出典:国税庁「退職所得の計算」より作成
このように勤続年数によって控除額の計算方法が異なります。
退職所得を算出する
退職所得は以下の方法で算出できます。
「退職所得=退職一時金収入-退職所得控除×1/2」
なお、勤続年数が5年以内の役員などの場合、末尾の1/2は乗じません。勤続年数5年以内の役員は退職所得が多くなり、会社員よりも税負担が大きくなることが分かります。
税額を算出する
所得税と住民税の算出方法はそれぞれ異なります。
所得税額の計算
退職所得における所得税額の算出の場合、図表2の通り退職所得に応じて税率が異なります。
図表2 所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000円から194万9000円まで | 5% | 0円 |
195万円から329万9000円まで | 10% | 9万7500円 |
330万円から694万9000円まで | 20% | 42万7500円 |
695万円から899万9000円まで | 23% | 63万6000円 |
900万円から1799万9000円まで | 33% | 153万6000円 |
1800万円から3999万9000円まで | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
出典:国税庁「所得税の税率」を基に作成
課税退職所得は分離課税であるため、他の所得とは別に税額計算をしなくてはなりません。
住民税額の計算
住民税は所得割と均等割で構成されます。所得割の税率は(区市町村民税6%+都道府県民税4%)と一律ですが、均等割は自治体によって異なります。
住民税の算出手順は下記の通りです。
1.退職所得金額-退職所得控除額=課税退職所得金額
2.課税退職所得金額×税率-税額控除=所得割額
3.所得割+均等割=住民税額
均等割に関しては各自治体で異なるので、しっかり確認した上で算出しましょう。
定年退職時に他の所得の損失がないか確認する
それでは、会社員が不動産所得や事業所得などがある場合はどうでしょうか。不動産などの所得が損失を抱えている場合は、退職所得と損失を出している所得とで損益通算が可能です。
退職所得は三次通算であるため、二次通算までに損失が解消されている可能性もあります。課税退職所得金額が減ることで納税額を抑えられることを考えれば、念のため事前に確認することが理想的です。なお、損益通算を利用する場合には、確定申告が必要となります。
退職金の手取り額算出は老後プラン策定の出発点
いずれ定年を迎えたとき、退職金収入の手取り金額をできるだけ正確に把握することは、老後のライフプランを練る上での出発点となります。各種NISAやiDeCo、財形年金などといった自助努力の効果を最大限に発揮するためにも、本記事で紹介したポイントを参考にしつつ、退職金収入の算出に取り組んでみてはいかがでしょうか。
出典
国税庁 No.2260 所得税の税率
総務省 個人住民税
国税庁 退職所得の計算
執筆者:茂野博起
AFP・2級ファイナンシャルプランニング技能士