更新日: 2022.09.29 その他老後

夫の定年を機に離婚します。2人の墓石を購入するにあたり払った手付金は戻ってきますか?

執筆者 : 柘植輝

夫の定年を機に離婚します。2人の墓石を購入するにあたり払った手付金は戻ってきますか?
一時期「熟年離婚」という言葉がはやったように、定年を機に離婚という選択をする夫婦もいらっしゃいます。離婚を理由に、一緒に入る予定であったお墓を解約する場合、既に支払った手付金は返還してもらえるのでしょうか。過去、筆者のお客さまで実際に起こった事例を基に解説していきます。
柘植輝

執筆者:柘植輝(つげ ひかる)

行政書士
 
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2級ファイナンシャルプランナー
大学在学中から行政書士、2級FP技能士、宅建士の資格を活かして活動を始める。
現在では行政書士・ファイナンシャルプランナーとして活躍する傍ら、フリーライターとして精力的に活動中。広範な知識をもとに市民法務から企業法務まで幅広く手掛ける。

手付金の法的性質は?

高額で引き渡しまでに時間がかかる商品や、ローンを前提とした商品の売買が行われるときは、大抵の場合、契約が終わってから1ヶ月以内など一定期間内に、購入代金の1割から2割程度の手付金を支払います。そこで支払った手付金は後々売買代金に充当されるものになります。
 
一般的な手付金は解約手付けとしての性質も持っています。解約手付けが交付されている場合、買い主はそれを放棄することで、相手が契約の履行に着手するまでは損害賠償を支払わずとも契約を解除できるとされています。
 
逆に売り主は、受け取った手付金の倍額を返還することで、損害賠償を支払わずとも契約を解除することができるとされています。つまり手付金は、売買代金の前払いとしてだけではなく、損害賠償の予定額という意味も含んでいるということです。
 
これによって、契約の成立後に気が変わったとしても、ある程度簡単に解除ができるようになっています。ただし、契約書などに記載されている内容次第では、この限りではないためご注意ください。
 

離婚を理由にお墓の契約を解除する場合、手付金は戻ってくるのか?

では、本題にあたる「夫婦で入るため購入したお墓について、離婚を理由に契約解除したとき、その手付金は返還されるのか」という問いを考えていきます。
 
答えとしては「手付金は返還されない」となります。購入時の申込書や約款、契約書をよく確認してみてください。「買い主は手付金を放棄して契約の解除をすることができる」や「買い主都合の契約解除の場合、手付金は返還されない」などと明確な記述があるはずです。
 
場合によっては「買い主は売り主の損害を賠償して契約の解除をすることができる。損害額は原則手付金の額と推定する」などと記載されているかもしれません。
 
夫婦で一緒に入る目的でお墓を契約したものの、離婚が決まったため急きょ不要になった、という理由で契約を解除したとしても、それはあくまで買い主都合に過ぎません。売り主に落ち度はないため、手付金は返還されないのです。
 
筆者が実際に立ち会った事例においても、契約書にしっかりと手付金が解約手付けであることが明記されており、手付金の返還は実現されませんでした。
 

生前の墓の購入の問題点はまさにここにある

少し前から「子や親族に迷惑をかけないために、自分の入る墓は生前に購入を」との声が上がっていました。確かに、生前のお墓の購入は残される遺族の負担が減る行為かもしれませんが、その問題は、今回のように離婚するなど予想外の出来事が起こった際に表面化します。
 
実際、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)にはお墓に関する相談が多く登録されています。過去には1300件を超える相談が寄せられていた頃もありました。
 
全てが今回解説した事例のように、夫婦の離婚に関するものというわけではありませんが、お墓の購入には問題が起こり得ることも知っておくべきです。
 


出典:独立行政法人 国民生活センター 墓・葬儀サービス
 
このようなことを考えると、お墓の生前購入に関して、定年前というのは早すぎるタイミングでしょう。年金を受け取り始めた頃や、定年後一息ついた頃など、ある程度、死後についても考え始めるタイミングでの購入が妥当だといえます。
 

離婚を理由にしても、墓石の購入で払った手付金は戻ってこない

夫婦で入るために購入したお墓について、離婚を理由に契約を解除しても、既に支払った手付金は戻ってこないことが原則です。
 
お墓の生前購入は遺族の負担を減らしてくれる反面、亡くなるまでの間に起こるさまざまな事柄によって、想定どおりに物事が運ばなくなることも往々にしてあります。夫婦で入るお墓を購入する際は、もろもろのリスクを洗い出し、夫婦でよく相談して購入するようにしましょう。
 

出典

独立行政法人国民生活センター 墓・葬儀サービス
 
執筆者:柘植輝
行政書士

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