高齢ドライバーの運転免許「返納」 そのメリットにも注目を
配信日: 2022.12.13
そのため、行政サイドとしても、多くの高齢者が、運転免許の返納に動くことを期待し、いくつかの特典をつける動きも増えてきました。運転には自信があると考えずに、高齢者自身も冷静な判断を迫られています。
免許返納を躊躇する理由は
2019年に東京・池袋で、90歳の高齢の男性ドライバーが起こした母子を巻き込んだ悲惨な事故は、社会に大きな衝撃を与えました。その事故を機に、運転免許を返納した高齢者もいらっしゃるかもしれません。
その一方で、「運転には自信があるので大丈夫」「生活するためにクルマがないと不便」といった理由で、80歳を過ぎても運転を続けている高齢者も多くおられます。
確かに、地方では公共交通機関が脆弱(ぜいじゃく)な地域も多く、クルマなしでは非常に生活がしにくくなるため、代替手段がない限り、運転を続けざるを得ない、という意見が多いのも事実です。
一方、大都会では、地方に比べ公共交通機関も発達しており、免許の返納による障害は少ないかと思われます。そうした中にあっても、「クルマの運転が好きだから」などの理由で、身体機能に衰えがあり、かつ家族の反対にあっても、運転を続けている方もおられるようです。
ただ、知らず知らずのうちに、視力の衰え、反射神経の鈍化、認知機能の低下が進行している場合も多く、取り返しのつかない事態に直面してしまう方もいます。
本人確認書類として免許証は便利
例えば、ほとんど運転をしないペーパードライバーの方でも、身分証明ができる道具として「運転免許証」を持ち続けた方も多かったはずです。「持っていると何かと便利!」との理由で、免許証を更新していた方もいるでしょう。
まったく運転をしないがために、無事故ドライバーに交付される「ゴールド免許」が交付されていました。運転をあまりしない高齢ドライバーであっても、比較的簡単に免許更新ができたのです。
高齢ドライバーの事故が増えるにつれ、行政も対策を考えるようになりました。認知機能をテストする、実車試験を実施する、などの施策を行うと同時に、運転免許を返上したドライバーには、顔写真の入った「運転経歴証明書」を発行し、正式な身分確認に使えることにしました。
運転経歴証明書は2014年から制度として定着し、デザインも免許証に類似しており、有効期限もないため多くの高齢者が免許証を返上し、経歴証明書に切り替えることを選択しました。
ここ最近では、コロナ禍で返上のペースは落ちましたが、毎年55万人前後の方が運転免許を返納しており、そのうち約60%超が75歳以上の高齢者となっています。今後も高齢者の比率は増加すると思われます。
経歴証明書は、居住先を変更した場合にも対応してもらえます。もちろん「マイナンバーカード」があれば、身分を証明する書類となりますが、経歴証明書が発足した当時は、マイナンバーカードが普及していなかったため、身分証明の書類としてはかなり重宝されました。
運転免許を返納すると特典も
高齢者が免許を返納すると、各自治体がいくつかの特典を用意しています。
代表的な特典は、地域のタクシーや路線バスの乗車料金の割引制度です。全国どこでも、というわけにはいきませんが、例えば、東京、大阪、北海道などの自治体で10%程度の割引を実施しています。
金融サービスの面でも、メリットがあります。地域に根ざした信用金庫などが、定期預金の金利を上乗せしています。また百貨店や大型量販店では、各種商品や催事事業の割引サービスを行っています。一部のホテルでは、飲食代金の10%程度の割引を実施しています。
地方に生活をしていて、高齢になってもクルマの運転が必要な方は、自動ブレーキを装着しているなど、より安全性の高いクルマに乗り換えることも1つの方法です。
自動運転の普及にはもう少し時間がかかりそうですので、ブレーキとアクセルの踏み間違いを防ぐなど、より安全性の高いクルマへの乗り換えが必要になるかと思います。また、どうしても運転が必要な場合にだけ、クルマを借りる「カーリース」という選択肢もあります。
クルマを捨てれば生活費は大きく減少
もし免許の返納と同時に、クルマ自体を持たなくなれば、生活費は大きく減少します。地方に住んでいて「ひとり1台」の定着している家庭でも、高齢者が乗っていたクルマの経費がなくなることの効果は出てきます。
クルマの維持費はかなりの額になります。クルマの購入費から始まり、それに維持費が加算されます。具体的には、車検や定期点検など安全運転にかかわる検査費用や整備費用、強制的に加入が必要な自賠責保険料、自動車重量税などがあります。
さらに、クルマを所有することで毎年納める自動車税があります。事故を起こしたことを考え、任意保険に加入すれば、その費用もあります。さらに日常の運転にかかる、ガソリン代、オイル交換代、タイヤ交換代などもあります。自宅に車庫スペースがないと駐車場代も加わります。
所有する車種や走行距離によっても金額は異なりますが、クルマの維持費として一例ですが、年間35~50万円は見込んでおく必要があります。
もしクルマを手放すようになれば、こうした費用がかからなくなります。家計にとっては大きなメリットとなり、その費用を例えば旅行やグルメなどの経費に振り向けることもできます。
出典
警視庁 運転免許統計
警視庁 高齢者運転免許自主返納サポート協議会加盟企業・団体の特典一覧
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。