更新日: 2023.04.20 その他老後
認知症になった親のために「代理で年金を引き出す」ってNGなの?
執筆者:吉野裕一(よしの ゆういち)
夢実現プランナー
2級ファイナンシャルプランニング技能士/2級DCプランナー/住宅ローンアドバイザーなどの資格を保有し、相談される方が安心して過ごせるプランニングを行うための総括的な提案を行う
各種セミナーやコラムなど多数の実績があり、定評を受けている
認知症の現状、2025年には5人に1人
金融庁が令和元年に公表した「高齢社会における資産形成・管理」報告書で、「老後2000万円が不足する」というお金についての問題が大きく取り上げられたことは記憶に新しいかと思われます。この報告書のなかでは、問題定義として認知症についても触れられていました。
報告書によると、2012年時点で65歳以上の認知症の人は約462万人、65歳以上の約7人に1人とされています。2025年には認知症の人は約700万人まで増加すると推計され、これは65歳以上の約5人に1人が該当することになります。年齢が上がると認知症の有病率も高くなり、85~90歳では男性で約3人に1人、女性では約2人に1人となり、90歳以上になるとさらに増加します。
認知症と診断された場合、契約などの行為ができなくなることをご存じの人も多いかと思われます。それに加え、銀行は預金者本人がお金の引き出しを行うものとしているため、年金を受給している人が認知症になった後でも、その子どもが年金を銀行口座から引き出すことは、本来であればできないことになります。
認知症になると口座凍結の可能性も
窓口ではなくATMなどを使って親の預金を引き出している場合は、銀行にも知られていない可能性が高いため、こういったことを行っている人は少なくないかもしれません。
銀行も預金者が認知症になったことをすぐに知り得ることはできませんが、預金者の入出金の状況を確認する際に気付く可能性はあるようです。
例えば、年齢から考えて認知症の可能性がある口座名義人へ銀行から連絡をするケースや、親族が代わりにお金を引き出しに行ったとき、これがダメなことであるとは知らず、正直に預金者が認知症であることを銀行に伝えるケースなどです。
口座名義人が認知症であると銀行が知ったときには、口座が凍結されてしまうこともあり得ます。凍結された場合、年金の入金や自動引き落としはできますが、ATMでの入出金などができなくなってしまいます。
自分のためではなく、認知症になった親のために介護費用や生活費として使っていたにもかかわらず、お金を引き出すことができなくなると、子ども自身のお金を使わなくてはいけなくなる可能性も出てきます。
成年後見制度などで準備しておく
親が認知症になって判断能力が低下した場合、そのままでは子どもがお金を引き出すことはできません。では、どうすれば引き出すことができるようになるのでしょうか。
このようなときに頼れる制度として、成年後見制度があります。
親が認知症になってしまった後では、成年後見制度の「法定後見制度」が利用できます。法定後見制度では親族などの申し立てを受け、家庭裁判所が「補助」「保佐」「後見」の3種類から認知症の程度に応じた制度を選び、後見人を選任します。申し立てを行ってから制度が開始されるまでには2~3ヶ月程度かかります。
また、親が認知症になる前では、本人が後見人を選んで申請をしておく「任意後見制度」という方法もあります。
任意後見制度ではあらかじめ本人が選んだ任意後見人に、代わりに行ってもらいたいことを決め、公証人の作成する公正証書によって契約を結びます。判断能力が心配になってきたときに、本人か親族などが家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されて初めて効力が生じます。
まとめ
年金生活を送っている親が認知症になってしまい、子どもが代わりにお金の管理を行うことは往々にしてあるかと思われます。銀行にある預金は口座名義人の固有の財産であるため、本来、親族であっても代わりに取引を行うことはできません。
親が認知症になった場合は、早めに銀行に相談することが大切です。また、成年後見制度の申請も行い、以後のお金の管理ができるようにしておきましょう。
出典
金融庁 金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
厚生労働省 法定後見制度とは(手続の流れ、費用)
厚生労働省 任意後見制度とは(手続の流れ、費用)
執筆者:吉野裕一
夢実現プランナー