人生100年時代、65歳以上の働き方は自分しだい!
配信日: 2023.07.26
勤務先の就業規則に「副業も可能」もしくは「週休3日」という記述がある方もいるかもしれません。今回は65歳以降のさまざまな働き方について考えてみましょう。
執筆者:當舎緑(とうしゃ みどり)
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。
阪神淡路大震災の経験から、法律やお金の大切さを実感し、開業後は、顧問先の会社の労働保険関係や社会保険関係の手続き、相談にのる傍ら、一般消費者向けのセミナーや執筆活動も精力的に行っている。著書は、「3級FP過去問題集」(金融ブックス)。「子どもにかけるお金の本」(主婦の友社)「もらい忘れ年金の受け取り方」(近代セールス社)など。女2人男1人の3児の母でもある。
フルで働かない「パート」といっても定義はいろいろ
フルタイムで働くのは65歳まで。子どもも独立したし、夫婦2人で余暇を楽しみつつ、働き方を調整して「パート」として、労働時間を短くする場合の「短く」……このような状況にはさまざまな選択肢があることはご存じでしょうか。
例えば「1日4時で週5日」「1日5時間で週4日」「1日6時間で週3日」など、これらはいずれも、「パート」と呼ばれるでしょうが、何が異なるのかお分かりになりますか? 最後の「1日6時間で週3日働く」場合のみ、労災保険(労働者災害補償保険)以外は何もないという状態になり、あとの2つは「労災保険と雇用保険に加入している」状態となります。
「雇用保険に加入している」のは何が違うかというと、失業した場合だけでなく、教育訓練給付や介護給付が受け取れるということです。
65歳以上になって、本格的な専門知識のために職業訓練を受けると決心することはあまりないかもしれませんが、プラスで何か知識を得たいということはあるでしょう。また、親が認知症になり、介護が大変なため、一時期休業して介護施設を探しながら介護するということもあるかもしれません。
このような場合の費用が少しでも支援される雇用保険は、加入するメリットが大きいといえます。
パートでも社会保険に加入できるの?
年下の配偶者などが扶養に入っている場合には、正社員同様にフルタイムで働かなくても、そのまま社会保険に加入する労働条件を検討してみるのはいかがでしょうか。
もし、退職後に社会保険に加入しない働き方をするというケースでは、健康保険に任意加入をするか、国民健康保険に加入するのかのどちらかを選びます。健康保険に任意加入するのなら,これまで会社で天引きされていた保険料の事業主負担分を合わせて2倍の保険料を支払う必要があります。
任意加入でも、国民健康保険でも、扶養していた配偶者が60歳未満であれば、国民年金に加入に手続きを取って保険料を支払うこととなります。
健康保険は自分1人でも扶養家族が何人いても保険料は変わりませんし,扶養している第3号被保険者の国民年金保険料を直接支払う必要はありません。パート、アルバイト、契約社員、嘱託など名称がなんであれ、保険に加入できるかどうかの基準は労働時間や賃金など個別の労働条件によります。
健康保険や厚生年金に加入する場合の基準は、正社員の勤務時間の4分の3が目安です。例えば、正社員が20日なら15日の日数で勤務すること、もしくは1日8時間なら6時間の勤務であること、などです。
ただ、社会保険の適用範囲の拡大で月8.8万円(注)程度の賃金であれば加入できる適用事業所などもあり、基準を満たしていないからといっても加入できることがあります。つまり、フルタイム社員より労働時間を短縮したからといって絶対加入できないということはありません。
加入するメリットは、前述の扶養している配偶者の保険料の節約のほかに、例えばガンになり手術・入院した時、最大1年半の期間、傷病手当金を受け取れることが可能です。万が一、社会保険に加入していないまま病気になった時、休業補償はありません。給料も受け取れず、さらに手術代や通院費用など、年金収入だけなら負担の重さを実感することになるかもしれません。
(注)8.8万円には残業手当や通勤手当、一時金などは含まれない。
65歳以降の開業の選択肢は個人事業主? それとも法人の代表取締役?
会社に縛られない生き方、開業などを選択肢に入れる方もいるでしょう。その場合、個人で始めるのか、それとも法人を設立するところから始めるのか……開業といっても個人事業主かそうでないかには社会保険上大きな違いがあります。
取締役が1人で資本金が1円でも法人設立はできますが、定款を作って、認証、登記という流れで法人を設立する手間がかかるのに比べて、個人事業主は、税務署に開業届を提出することで完了しますので、ほとんど手間はかかりません。
しかし、社会保険上の違いは、法人設立をした場合、取締役は会社に雇われているという形ですので,社会保険に加入できます。また、従業員を雇って労働保険の適用事業所の設立ができれば,特別加入をして労災保険にも加入できます。業務中のケガや病気について補償があるということは、民間保険の補償を少なくできますし、厚生年金に加入することで将来の年金が増額されます。
一方、個人として開業すると労災保険や雇用保険はもちろん,健康保険や厚生年金も対象になりません。個人事業主は、自分が倒れてしまった場合の補償はありませんが、収入を得ながら年金を繰り下げて将来の年金を増額させる、もしくは年金を受け取りながら働くということも可能です。
いずれにせよ、老齢の年金を受け取るための受給資格期間が10年となったことで、65歳から年金を受け取るためのハードルは下がっていますが、受け取る年金だけでバラ色の老後生活を送れるほど、年金額は多くありません。65歳からも収入を得る手段を考える、そのためにはどんな働き方をすればよいのかしっかりと考えておく必要はあるでしょう。
執筆者:當舎緑
社会保険労務士。行政書士。CFP(R)。