更新日: 2023.08.15 定年・退職

「勤続20年以上」の人は要注意!? 退職金も「増税」に!「退職金2000万円」の場合、手取り額はどう変わる?

執筆者 : 石井麻理子

「勤続20年以上」の人は要注意!? 退職金も「増税」に!「退職金2000万円」の場合、手取り額はどう変わる?
2023年6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(骨太方針2023)が経済財政諮問会議を経て、閣議決定されました。
 
その会議で、退職金を一時金で受け取ったときにかかる税金の仕組みについて改正する案が出ました。特に、20年以上同じ会社で働いている人にとって影響がある改正案になっています。
 
退職金でローン返済や老後の生活の計画を立てている人も大勢いますが、退職金にかかる税金の仕組みが改正された場合、2000万円の退職金を一時金で受け取ったときの税金はどのように変化するのか解説していきます。
石井麻理子

執筆者:石井麻理子(いしい まりこ)

FP2級・AFP

退職金を受け取ったときの税金の仕組み

退職金を受け取る方法は2つあります。ひとつは一時金で受け取る方法、もうひとつは年金として毎年分割して受け取る方法です。本記事では、前者の退職金を一時金で受け取る方法について解説していきます。
 
退職金を一時金で受け取る場合は、どのような仕組みで税金の金額が決まるのでしょうか。まずは、現行制度について見ていきます。
 
退職金を一時金で受け取るときは給与や賞与などの他の所得と合算せずに、退職金のみで税金を計算します(後述の分離課税)。その計算方法には、3つの税負担を軽くする仕組みが設けられています。
 

1.勤続年数に応じた退職所得控除

退職金には退職金専用の控除があります。そしてその控除額の計算方法は、勤続年数によって変わります。
 

■退職所得控除の計算方法

【勤続年数:20年以下】40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)
【勤続年数:20年超】800万円+70万円×(勤続年数-20年)

■退職所得控除額の計算例

【例1】勤続年数が10年2ヶ月の人の場合の退職所得控除額
40万円×(勤続年数)=40万円×11年=440万円
※勤続年数は11年として計算(端数の2ヶ月は1年に切上げ)
 
【例2】勤続年数が30年の人の場合の退職所得控除額
800万円+70万円×(勤続年数-20年)=800万円+70万円×10年=1500万円

 

2.1/2課税

退職金から前述の退職所得控除額を差し引いた金額を1/2にした金額に税金がかかります。
 
課税退職所得=(退職金-退職所得控除)×1/2
 
所得税・住民税とも、この課税退職所得に税率をかけて税金を算出します。ただし、役員など勤続年数が5年以下である場合については1/2課税の対象外となります。
 

3.分離課税

退職金は、給与や賞与など他の所得とは別に計算される「分離課税」です。国税庁は退職金が他の所得と別計算される理由を公式サイトに次のように記載しています。
 
「退職金は、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることなどから、退職所得控除を設けたり、他の所得と分離して課税されるなど、税負担が軽くなるよう配慮されています」
 
例えば、年収800万円の人が今年退職金を2000万円受け取った場合、今年の年収が2800万円になるわけではありません。年収800万円と退職金2000万円は別計算され、それぞれ別に税金が課せられることになります。
 

なぜ退職金にかかる税金について改正案が出されたの?

現行制度では、退職金にかかる所得税は同じ企業で働く期間が長いほど、税負担が軽くなる仕組みになっています。
 
日本では1950年半ば~1970年始めまでの高度成長期から、終身雇用を前提として働く人が大多数でした。それから約50年が経過した現在、雇用形態は多様化し、20代・30代では同じ会社に定年まで勤める人は減少傾向にあります。
 
2022年10月18日に行われた内閣府の第19回税制調査会の資料には、退職金にかかる税金について改正案が出された経緯が記載されています。
 
そこには、勤続年数が20年に至らず退職金を受け取る従業員が増加しており、同じ会社で定年まで働き多額の退職金を受け取って老後資金にする、という働き方は減少。人材確保のために退職金よりも給与を増額する企業も見られるとの解説がなされています。
 
また現行制度の退職金にかかる税金の仕組みは終身雇用を前提としており、勤務年数が長いほど高額の退職金を受け取れる形態を反映したもの。勤務期間が長い場合を優遇していくことが現在の転職機会の増加などの労働環境に適合しているのかを検討する必要がある、ということです。
 

改正案だと具体的にどうなる?

前述のとおり、現行制度の退職所得控除額は、勤務年数が20年以下の場合「40万円×勤続年数」、勤務年数が20年超の場合「800万円+70万円×(勤務年数-20年)」という計算です。
 
改正案では、勤務年数が20年超の場合の「800万円+70万円×(勤務年数-20年)」の控除額を、勤務年数にかかわらず「40万円×勤続年数」に改正する案が出ています。
 
もし改正案のとおりとなった場合、勤続年数が30年の人の退職所得控除額を現行制度と改正案で比較してみます。

■現行制度
800万円+70万円×(勤続年数-20年)
=800万円+70万円×10年
=1500万円
 
■改正案
40万円×30年
=1200万円
 
▪️差額
1500万円-1200万円=300万円

改正案は現行制度よりも300万円控除額が少なくなります。つまり、退職金に課される税金が増えるということです。
 

まとめ

制度というのは常に変化するものです。今回の改正案も現在の労働市場や環境に仕組みを適合させるよう提案されているもの。
 
しかし、現行制度を前提に老後の計画を立てていた人にとっては経済的な打撃が少なくないでしょう。退職金にかかる税金の仕組みについて、今後どのようになるのか注意が必要です。
 

出典

内閣府 経済財政運営と改革の基本方針2023
内閣府 [総19-1]財務省説明資料(個人所得課税)
国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
国税庁 No.2737 役員等の勤続年数が5年以下の者に対する退職手当等(特定役員退職手当等)
国税庁 所得の種類と課税方法
国税庁 退職金と税
 
執筆者:石井麻理子
FP2級・AFP

ライターさん募集